第18話 期末試験のご褒美 夏休み編①
01
期末試験が過ぎ去り、いよいよ夏休みが訪れると思い込んでいた俺のところに師匠がやってきた。師匠は俺やアキ以外の人間からは勉強を教えるのが上手くて優しい人柄の良い先生だと言われており、正体を知っている俺からしたら少し面白い。
「桜ちゃんがまさか補習を受けないなんてね……私はびっくりだよ」
師匠はニヨニヨしながら、俺の脇腹を突っついてくる。中学生の俺はろくに勉強もしてなかったから、よくこの人に教えてもらってたなぁ……
「冬雪のおかげですよ、冬雪がいなければ俺はまた補習漬けの毎日でした」
「そんな、私はちょっと教えた程度です。柊木くんはもっと真面目に勉強したらドンドン頭良くなるはずですよ!」
冬雪は余程俺が高得点を取ったことが嬉しいのか、ガッツポーズを取っていた。中間テストの順位は下から数える方が早かったけど、今回は四百人中、二桁の順位をお陰様で取ることができた。
あのとき、冬雪が"俺自身を見捨てず"に最後までマンツーマンで勉強教えてくれたおかげで今の俺がいる。
「そうだ! 相性バッチリなお二人に渡したいものがあったんだった」
師匠はポーチから二枚のチケットを取り出し、俺に渡してきた。
「これは……?」
「リゾートホテルの株主優待券よ、これで冬雪ちゃんたちと一泊二日のデートにでも行きなさい」
「で、デート!?」
先に声を出したのは冬雪の方だった。冬雪は噴火しそうなぐらいの勢いで顔を真っ赤にしていた。
「いや、いや。流石に男女二人で泊まりは」
俺は周りに聞こえないようにこっそりと声のトーンを落とす。柊木くん呼ばわりはあだ名だと思われても、男という単語を口に出すときは流石に声を小さくする。
「そ、そうですよ……」
俺たち二人で一斉に反論したのが面白かったのか、師匠はとんでもないことを言う。
「別に私は二人でとは言ってないけどね?」
後から二枚分のチケットを追加で出してきたのを見て、俺と冬雪はお互いの目を見ることが出来なかった。
編入して間もないころに学校で押し倒してしまってからは冬雪のことを少し意識してしまっている自分がいることに気がついた。継承戦で応援されたときは本当に嬉しかったし、何よりもっと彼女が笑っているとこを見たいと思うようになっていた。
02
「リゾート、か……」
放課後、自室に戻った俺は悩んでいた。学園外での俺の扱いはどうなるんだろうか?
「柊木桜」は書類上は海外にいるけど、今回リゾートに行く「秋月美颯」は正真正銘の女だ。西ノ宮家がどういう力を使ったのかはわからないが、女という以上は女物を着けなくてはいけないのか……
頭を抱えていると、玄関からインターホンが鳴っていた。一体だれだ?
「冬雪? どうしたんだ?」
ドアを開けると、冬雪がこちらを見ながら顔を赤くして待ち構えていた。
「あの、柊木くん? もしかして水着の関係で悩んでたりしていますか」
「よくわかったな……流石に女物の水着を着るのには抵抗があるんだよ」
メイド服ならまだしも水着を着てしまえばもう「男」には戻れない気がしてならない。
「もし……良かったら明日、私といっしょに水着でも見に行きませんか」
冬雪は俺の手を取り、真っ直ぐな瞳で俺の目を見ていた。
俺が悩んでいたのを冬雪はわかっていたのか……表情には出さないようにしていたけど。
「こんな俺でいいならいっしょに行くよ」
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