第17話 再会
01
初めての継承戦に勝利してから既に一ヶ月は経過したが、一向になにも起きないせいで俺は気が緩んでいた。冬雪の妹が何も行動を起こさないおかげで、今は冬雪が当主候補一位のままだ。
季節は春から夏に移り変わり、女の子しかいない学園の生活に慣れきった俺のところに一通の手紙が届いていた。手紙の差出人の名前は鷹宮椎奈、俺とアキの師匠からだった。
十中八九アキが師匠に俺のことを教えたに違いない。何せ俺は海外で留学してることになってるけど、彼女は俺が頭が良いタイプではないのを俺が中学生の頃から知っている。だからアキに聞いたのだろう、それは良いが……冬雪とはなるべき会わせたくはない。
大人しい冬雪とは対照的に師匠は非常に明るい性格で、外見とは裏腹に仕草がとてもオヤジ臭く、酒癖が悪い。可愛い子を見ると誰彼構わずにセクハラをするいわば変態だが、仕事の際は一切その姿を見せないのがタチが悪い。
変態は変態だが、俺は師匠と出会ったことで自分を守る術や他人との付き合い方を知ることが出来たから感謝はしている。いつ頃にこの学園に来るかはわからないが、冬雪には俺に師匠がいることぐらいは話しておくか。
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―――――――――
早朝、いつものように俺は髪の手入れをし終わったあと冬雪の部屋にやって来ていた。執事やメイドにはマスターキーが渡されており、本人が鍵を開けなくても開けれるようになっている。主人に何かあったときの為にいつでも突入できるようにという名目だが、未だに慣れる気はしない。メイドは毎朝、主人に朝食を作れと四ノ宮さんに言われている以上はやるしかないがもう少しプライバシーというものを考慮してほしい気はする。
「おーい、冬雪」
だから俺は鍵を開けるまえにノックをするようにしている、もし着替え中に出くわしてしまったら言い訳が出来ない。ノックをしたはいいが、中から反応は無かった。まだ寝ているのか? そう思い込んだ俺は再びノックをしようとしたその時だった。
「はいはい……新聞の勧誘は受け付けてませんよ〜」
髪がボサボサでタンクトップ姿のアラサーこと、鷹宮椎奈が冬雪の部屋から出てきた。
「な、何で師匠がここに!?」
「ん? その声は……桜ちゃん?!」
師匠は俺ということがわかった瞬間、抱きついてきた。昔からこの人は何故か男の俺にもセクハラをしてくる。彼女は頬ずりをしながら、俺の頭の匂いを嗅ぐ。いくら慣れたからといって背中に大きな胸が当たってるのは流石に恥ずかしくなってくる。
「やっぱアキくんに聞いた通りだねぇ、メイド服がよく似合ってるよぉ」
「何で俺の主人のところにいるんですか……」
「主人……? あー、冬雪ちゃんね! 彼女、お金が尽きた私を部屋に泊めてくれたんだよ」
私立朱智学園には教師寮が存在しており、師匠もそこに住む予定だったが予定よりも早く来てしまったせいで部屋の用意がされていなかったらしい。困っていたところ、たまたま傍にいた冬雪に助けを求めて、泊めてもらったと師匠は言った。
「冬雪もよく見ず知らずの人に部屋を貸したな……」
「桜ちゃんの名前を出したら快く引き受けてくれたよ?」
俺は何ともいえない気持ちになる。将来、詐欺にでも合いそうな気がしてきた。
「冬雪に手は出してないですよね?」
「当たり前でしょ、生徒に手を出したら教師は続けられないわよ。本音としては……可愛がりたいけどね!」
この人が真面目になるのは俺やアキ以外の人間だけだ。
「ひとまず、俺は冬雪に朝食を作らないといけないんで師匠も食べます?」
「……桜ちゃん、私のお嫁にならない?」
師匠の冗談を聞き流し、俺は寝ていた冬雪を起こす。今日一日、疲れるような気がしてきたな。
02
「錦戸くんと柊木くんに師匠がいたんですか……」
お昼休み、食堂で冬雪に俺の師匠について話をした。
「悪い人ではないけどあんまり仲良くなるとセクハラしてくるから気をつけろよ」
師匠は変態だと注意をすると、冬雪は不思議そうな顔をして否定した。
「変態には見えませんでしたよ? とても優しくてまるでお母さんみたいな人でした」
てっきり、可愛い子が好きなあの人は冬雪にもセクハラをしているかもしれないと思っていたが予想が外れた。母親のような優しさか、師匠は人と違う俺にも差別しないで接してくれていたな初めて出会った時も。
「そうか、ならいいんだけど」
完全に油断していると、すぐ師匠は音もなくやってくる。
「昨日はごめんね、冬雪ちゃん」
「いるならいるって言ってくださいよ」
気配を消して俺やアキを驚かすところは昔と変わらない。
「いえ! 柊木くんの知り合いなら親切にしないとダメだと思ったんで」
俺の「知り合い」なら誰でも助けてしまいそうな冬雪に少し危機感を覚えた。その意図がわかったのか、師匠は冬雪に冗談を交えつつも忠告をしてくれた。
「可愛い桜ちゃんの知り合いを騙る人もいるかもしれないからあまり信用したらダメだよ」
「そうですよね……ごめんなさい」
反省してる冬雪を横目に師匠は俺に小声で話しかけてきた。
「冬雪ちゃん、桜ちゃんをすごく信用してるみたいだからちゃんと守ってあげてね」
「……わかってます」
冬雪が俺を信用してくれている、その言葉を聞いて嬉しい反面、少し不安になった。いつか冬雪を傷つけてしまうときが来るんじゃないかと思ってしまった。
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