第15話 西ノ宮莉奈編 結

 01



 幼い頃、俺には二人の幼なじみがいた。男の子に負けないぐらい明るい女の子と、自分の意志表示ができない大人しい子の三人でよく遊んでいた。日が暮れるまで三人で鬼ごっこをしたりなど充実した毎日を送っていた。



 活発な女の子が一人転勤でいなくなった後も、大人しい子と一緒に遊んでいた。

 終わりが来ない毎日が凄く楽しくて、大人になるのが嫌になるぐらいその子と遊ぶのが楽しかった。でもそんな楽しい毎日も俺が壊した。あの時ちゃんとアイツらから守ってあげれてたら~~~~は傷つかなかったはずなのに。

 あのときの俺は彼女を助けられるほど、強くはなかった。地面に頭をぶつけたぐらいで、他人の顔にモザイクがかかるようになったのは俺が悪い。最後に見た顔が大粒の涙を零しているところだなんてとても後味が悪い。



『……全部、全部私が悪いんです』



 もう二度とあの子の顔を思い出すことは出来ない。何もかもクズでどうしようもなく弱かった俺が全て悪いのだから。





 ―――――

 ―――――――――





「あ、あれ……?」



 ふと目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。俺は確か……アキと継承戦で戦って相打ちになったんだっけか?



「柊木くん!」





「冬雪!?」





 気がつくと隣には制服姿の冬雪が椅子に座っており、俺が目を覚ましたことに気がついたのか抱きついてきた。



「もう目覚めないかと思ってました、本当に本当に良かった……」





「そんな大袈裟な……」





 自分の体に巻き付けられている包帯を見て、大体一日か二日ほど寝ていたと予想した。しかし、現実はそう甘くはなかったようで俺は五日も死んだように眠っていたと冬雪は言った。どんなに声をかけても、体を揺さぶっても目を開けることは無いと医者から宣告されていたらしい。危機的状況だったのに自分自身、生命力の高さに驚いている、あれだけアキにボコボコにされたのに。

 冬雪は俺が起きたことを医師に知らせるために病室を急いで出ていった。俺が起きたことが嬉しいのか、少しだけ顔が綻んでいた。





「あんな可愛い子に愛されちゃって羨ましいなお前」



 スグ隣を見てみると、俺と同じように傷だらけのアキがベッドで横たわっていた。声をかけられるまで全く気づきもしなかった。



「見ているんだったら、声をかけろよ」





「人の関係に横入りするほど、俺は馬鹿じゃないからな〜。冬雪ちゃんずっとお前を見守ってくれていたんだから大事にしろよ」



 今回の件で、俺はもっと自分に自信を持とうと思えた。アキや冬雪が俺を「普通」の人間だと言ってくれたから、少しずつ相手に踏み入る勇気が湧いてきた。

 アキとの何気ない会話もたった一、二ヶ月も会っていないだけで久しぶりに思えた。コイツには色々と聞きたいことがあるが、今は辞めておこう。アキにはアキなりの考えがあって、莉奈の元で働くことを決めたのだろう。目的は嘘偽りもない俺と戦うことであっても。



「アキこそ莉奈さんを大事にしてあげろよ、お前の彼女だろ?」





 不思議そうな顔をしながら、アキは俺が言った言葉を否定した。束縛が激しい彼女と莉奈は全く別の人物らしい、それならそうと早く言えばいいのにと言ったころで俺は自分が言った言葉に笑う。肝心なことを早く言わないのがアキの良いところだ。







 02





 西南記念病院は俺が不良を始めてからずっとお世話になっている病院だ。後から知った話だが、この病院も西ノ宮の手が伸びているおかげで俺の情報が親に届くことは無かったらしい。

 アキと俺は約二週間の入院を得て、ようやく現実世界へ復帰することを許された。入院生活に慣れていたとはいえ、俺の本当の性別を知っている先生たちは俺の情報を隠蔽するのに一苦労している姿を見て申し訳なかった。



「あれ、入口にいるのは……」



 病院の前に黒い高級車が一台止まっていた。その前には莉奈が自分の執事を今か今かと待ちわびている姿が窓ガラスに写っていた。

 誰が見てもイライラしているのがわかるな……ナースにちょっかいかけていたのが莉奈に伝わったのだろうか?



「あら、先に出てきたのは秋月さんなのね」





「……」



 冬雪はあれだけ姉に威勢のいい言葉を吐いたのに俺の後ろに隠れた、莉奈も冬雪に話したそうな顔をしているのを見て俺は笑ってしまった。この二人は姉妹なんだなと実感する。



「……女の子なのによくアキに勝てたわね。見ていてハラハラしたわ」





「冬雪の応援があったから勝てたんです、アレが無かったら負けてましたよ。ね、」





 俺は姉妹同士で会話させるためにわざと冬雪に話を振る。いきなり話かけられたことで驚いたのか、冬雪は顔を真っ赤にして姉の莉奈の目を見た。



「あ、あのお姉ちゃん。……私、当主になれると思うかな」





「なれるわよ、あんな覚悟見せられたら否定出来るわけがない。……本当に成長したわね、冬雪」



 莉奈は冬雪の傍に近寄ると、ポンと頭に手を乗せて優しく髪を撫でた。莉奈の目はまるで慈愛に満ちた母親のようだった。





「おーい、桜!」





「な、おい!!」



 ナースのナンパが終わったアキは近くに莉奈がいることに気づいていなかったのか、俺の元の名前を口走る。……そういえばアキには莉奈に性別を隠していることを話してなかったな。



「やけに親しげだけど……貴方もしかして男??」





 信じられない物を見たような目をした莉奈は勢いよく俺の顔を引っ張ったく。





「お、お、男なら先に言ってよバカ!!」





 莉奈は俺とアキ、冬雪を置いて急ぎ足で車の中に入ってしまった。



「……俺なんかやっちゃいました?」



 継承戦が終わっても莉奈との関わりは続きそうだ。

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