第10話 西ノ宮莉奈編① お姉ちゃん登場!

 01



 私立朱智学園、学園長の朱智正義は頭のおかしい変人だ。生徒の学園生活を自由なものにするために生徒の代表である生徒会に学園運営の権力を与えた。生徒が望むイベントを生徒会は投票形式で行ってきた。

 生徒がイベントを決めれる時点でおかしいことだが、もっとおかしいのは生徒会長は代々西ノ宮家の子供が務めていることだ。普通は選挙をして決めるはずなのに、この学園はそんなことは一切しない。西ノ宮家の独裁だと言ってもいいぐらい横暴だ。民主主義の民の字も無いとは思いもしなかった。



 俺は冬雪と共に学園に併設されているカフェでアキと出会ったことについて話をすることにした。跡継ぎ争いの駒にアキが来れば全てめちゃくちゃになるぐらいアイツは強い。今後の対策を練るため俺は出来る限り彼女にアキについて語ることにしたが……



「嘘は良くないですよ、嘘は」



 俺が体験した出来事を正直に話をしているのに冬雪は目を細めていた。明らかに信じていないな……アイツは単独で不良グループを壊滅させたり、骨折しているのに相手を一分で蹴散らしたりしたりと信じられないことを俺の目の前でやってきた。実際に見てないからまあ仕方ないかもしれない、先日のは本気ではないし。



「それで姉以外にも他に姉妹いるのか?」





「妹がいることはいるんですが……私みたいに跡継ぎ争いには興味はないみたいです」



 跡継ぎ争いに興味が無いなら何で冬雪は姉妹たちから生き残らなきゃいけないと俺に言ったのか? 俺に視線を合わせないようにしているのが不自然だ。



「それより跡継ぎ争いはいつから始まるんだ。いきなりアキに奇襲されたらたまったもんじゃないからな」



 冬雪のことから少し話題を変えるとほっとしたのか、にこっと笑みを浮かべながら跡継ぎ争いがいつ始めるのかを口にする前に校内放送で何故か俺の名前が呼ばれた。



「……俺、なにか悪いことしたか?」



「どうせ宣戦布告をするつもりだとおもいますよ、あの人のことですから」



 姉の名前が出た途端、冬雪はため息を吐き続けた。余程姉妹仲が悪いように思えるが一体どんなお姉さんか気になるな。







 02



 俺は冬雪に生徒会室まで案内されたあと、一人で部屋に入ろうとしたら、冬雪が俺の腕を掴んできた。



「私も……ついていきます、心配なんで」



 心配だと言う割りには俺の服の袖を強く掴んでいるのが可笑しかった。冬雪の頭をポンと叩き、俺は重く閉ざされた生徒会室の扉を開けた。



「なにがあっても俺は冬雪を守ってみせるから」





 扉が開くと同時に現れたのは氷の女王という言葉が相応しい少女だった。表情を一切崩さずに長身を活かし、細く長い足を机に置いて黒い髪を靡かせていた。彼女は予定されていない来訪者を見て、舌打ちをした。





「何で冬雪がいるのかしら。私は秋月さんを呼んだはずだけど」



「莉奈、……いえ姉さんがなにをしでかすか心配になったから来ただけです」





「私はただ貴方の新しいボディーガードが見たかっただけだから。ちゃんと使える駒なのか姉の私が見てあげないと」



 入口前で姉妹の喧嘩を見ていると、姉の莉奈が突然俺の目の前に立ちはだかった。





「へぇ……結構可愛い顔してる」



 莉奈は俺の腰に手を回し、長い髪が鼻に触れ、吐息が目にかかるほど彼女は俺の顔に近づいていた。彼女の目を見れば見るほど、吸い込まれそうな錯覚に陥る。莉奈は冬雪の嫌がる反応を見て歪な笑みを浮かべた。



「おい、離せ……!」



 男が相手なら簡単に押し返せるが、相手は女の子だ。例えどんなに性格が悪くても女の子に手は出すことは出来ない……



「ふぅ〜ん、私に口答えするんだ。たかがボディーガードの癖に」



 妹の嫌がる顔を見るためにボディーガードの俺を弄ぼうとするその性格の悪さは冬雪とは大違いだ。アイツは表情が上手く作れない俺を心配し、厳しくも優しさがある言葉をかけてくれる。自分と同じ趣味が分かれば嬉しそうな顔をする冬雪を馬鹿にするのは許せない。





「いい加減にして!」



 気がつくと、莉奈は俺の体から離れていた。冬雪は驚いた莉奈を前にして怒りの声を上げた。普段、大人しい人ほど怒ると怖いという言葉を聞いたことがあるがまさにその通りだった。



「お姉ちゃん、わざわざ私に嫌がらせするために秋月さんを呼び出したの?!」





「冗談よ、冗談。まさかそんな反応するとは思いもしなかったわ。本当に大事にしているのね彼女のこと」





「っ、お姉ちゃんには関係ないことだよ」



 西ノ宮莉奈は冬雪がたじろぐ姿を見て、笑いながら見ていた。姉妹の間で何があったのかはわからないが、そろそろ黙っているのは辞めておいた方がいいだろう。



「西ノ宮さん、私たちは貴方みたいに暇じゃないんで帰らせてもらっていいでしょうか」



 わざわざ俺たちを呼び出すということは今は暇ということだろう、大方他の役員に仕事を任せているのが目に見える。わざと挑発したことに気づいたのか、莉奈は露骨に不機嫌になったと思っていた。



「さっき東雲から開戦の連絡が来たわ、本当なら今すぐにでもアキを使って貴方をぶちのめしたいところだけど気が変わった。……秋月さん、私とデートでもしない?」



 大袈裟に手を広げ、突拍子もなく俺にデートの誘いを莉奈は告げてきた。突然のことで俺や冬雪は反応すら出来なかった。





「なにを言い出すかと思えば莉奈、お前正気かよ」



 ふと後ろを振り向くと、アキが俺たちの傍に立っていた。既に莉奈とは下の名前で呼び合う関係にまでなっているのか。



「ええ、正気よ。冬雪のボディーガードとして相応しいか私がデートをして見極めるつもり。相応しくなかったら冬雪には継承戦から脱落してもらうから」





「そんなルール聞いたことがない……!」





「私が今作ったから聞いたことなくて当然よ。あ、勿論冬雪にもその権利はあるから大丈夫」



 西ノ宮家の当主がどういう人間が相応しいのかはわからない。外見と中身の性格が一致しない人間は西ノ宮莉奈が初めてだった。デートをするときは相手の主人には手を出さないという「新」ルールでデートの日程を決めることになった。



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