第9話 デート編2

 01



 先程までいた汚らしい男集団は既に地面に倒れていた。俺とアキの二人がかりでも三十分も時間をかけてしまった、もし一時間かかっていたらと思うと気分が悪くなる。制服をゲロだらけにはしたくはない。



「さてと……お前で最後だな」



 アキは俺がスキンヘッドの服を掴むまえに奴の頭を手で握っていた。いつものようにキツく当たるのかと思っていたが、そうはならなかった。



「お前誰の指示で動いてるんだ、アイツじゃねーだろうな」




「こ、答えるわけないだろ! それにお前長女側の人間だろ! こんなことしていいのか!」



「質問に質問で返すなよ……良いから答えろ」



 あー、これはマズい。そろそろ止めないと気絶するほど相手を殴る可能性があるな。毎回毎回喧嘩を売ってきた相手に倍返しをしないと気が済まないんだからアキは。

 俺は止めようとアキの肩に触れると、スキンヘッドはなにを考えているのか俺の首に手を触れようとしてきていた。なるほど、俺が女みたいな顔だから勘違いしてるのか。



「さっきウチのお嬢様に汚い言葉を吐いたお返し食らっとけ」



 相手の手を払いのけ、そのまま顔面に拳をお見舞いする。スキンヘッドは何をされたのかわからないまま、気を失った。少し気分がスッキリしたが、さっきからアキの視線が痛い。自分でも二度も相手を殴るとは思ってはいなかったから不思議な気分だ。



「お前なぁ……せっかく情報聞き出そうとしていたのに無駄にして」



「悪い、なんか冬雪に汚い言葉浴びせられたのがムカついてつい手を出した」



「はぁ……まあいいわ。お前が誰かのために相手を殴るの珍しいな」



「そうか? あまりそう思わないが」



「だってお前、顔がいつもより清々しいぞ」



 今、思えば俺はいつも自分のためだけに喧嘩に明け暮れていた。家にずっといるよりかは外で自由に暴れられたら良いと思っていたが、もうそんなことは言ってられない。俺はボディーガードとして冬雪を必ず守ると決めたんだ。



「っと、悪いまた彼女から電話来たから帰るわ」



 アキは助太刀に入ってきた理由を告げずにそのまま、姿を消した。ここから離れないと警察に何を言われるかわかったもんじゃない。柱の後ろに隠れている冬雪の傍に行くと、体操座りして俺を待っていてくれていた。良かった、何事もなく無事でいてくれて。



「すまん、怖い思いをさせて」



 俺が喧嘩をしているところを初めて見たのにも関わらず、冬雪は俺を怖がっていなかった。大抵の人は俺やアキを見たら一目散に逃げてしまうのに。



「柊木くん、貴方はメイドさんでもあるんですからもう少し笑ってくだいよ。笑顔なのが一番似合ってます」



 冬雪は背伸びをしながら、俺の唇を無理やり釣り上げる。胸が何時にも増して鼓動が早くなり、つい彼女から目をそらす。今まで異性に唇を触られた事が無かったから、頭の中が沸騰していた。どう反応すればいいのか分からなかった俺はぎこちない笑顔で意味のわからない言葉を発した。ボディーガードとしての仕事が更に激化していくことになろうとはこの時の俺は分からなかった。







 02





 久しぶりの休日、俺は部屋で急に出来た休暇を満喫していた。先週、パーティで偉そうなデブのオヤジに俺が刃向かったせいで冬雪は本邸に戻ることになった。本来なら俺も同行しなければならないが、恥をかかせられた俺に相手は会いたくないとのことで一日謹慎という処分が下された。あの時は奇妙な違和感をおっさんから感じたから、つい手を払いのけたけどこれから我慢しないと。二度と冬雪に頭を下げさせる真似はしない。



 冬雪がいない以上、今の俺は「柊木桜」だ。男として外に出歩くことは俺には許されていない、もし生徒に男としてバレたら退学だ。背に腹はかえられない、休日も女装して過ごすしか俺には手段がない。四ノ宮さんからもらったお下がりの服を身につけ、学校に併設されている図書館に行くことにした。あそこは休日でも空いている上に人があまりいない、休みを満喫するには充分な場所だ。



 出かける準備を整え、さあ外に行くぞと玄関の扉に手をかけた瞬間、インターホンが鳴り出す。こんな朝早くに誰だろう?



「はい、どちら様ですか?」





「よ、秋月さん!」



 俺の目の前に現れたのはこの学園にはいてはならない二人目の男 錦戸アキだった。奴は燕尾服を着て、ドアに手をかけている俺を笑いながら見つめていた。この状況は……まずいんじゃあないか?



「いいから入れ!」



 周りに人がいないことを確認して、アキを自分の部屋に連れ込む。



「ほー、さっすが金持ち学園。部屋も豪華だな」



「関心する前に何でお前がここにいるんだよ」



 アキは俺に指摘されてようやく自分の目的を思い出したのか、ニヤケた顔でとんでもないことを口走った。



「俺さ、西ノ宮家長女の執事のバイト始めたんだよね」



 俺は西ノ宮と出会った日のことを思い出す。確かあの時、アキは彼女からLINEがよく来ると愚痴を零していた。まさかあの時から既に長女の元で働いていたということか……



「……西ノ宮家は家族同士で殺し合いをすること知って入ったのか?」



「まさか、俺もつい最近知ったんだよ。当主の座をかけて部下を戦わせるなんて……最高だと思う。お前と戦えるんだからな」



 俺が異常者なら錦戸アキは狂戦士(バーサーカー)だ、自分の破壊衝動に見合う人間がいないかずっと探し回っている。師匠の元で学んでいる時から俺はアキが怖くて仕方がない。殺し合いをするかもしれないのに……アキはいつも以上に楽しそうにしていた。



「ま、これは宣戦布告だからな。お嬢から命令が無い限りはお前とは戦わないよ」



 普段通り、アキはスマートフォンを取り出して彼女と連絡を取り合っていた。最初は大変そうに見えたけど、今は悪魔に見える。俺は友達を前にして戦うことが出来るのか?

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