004
同日 正午 クレーター内第3エリア 北収集所
「どうせ世界の気候が変わるなら冬よりも夏の方が良かったな。暑いのは耐えられるけど寒さは耐えられる限界がある…」
街を出ておそらく3日は経過したと思う。
やっとの思いで辿り着いたクレーターを下りながら、叢雲は石炭や木材を保管している収集所へ向かう。
収集所はクレーター内に4箇所あり、叢雲の担当している北収集所は最近できたばかりの新しい建物だ。
新しくできたと言っても、鉄くずや廃材で作られた大きな倉庫でどう見ても新しく綺麗とは言えない。
が、ここで新しく出来る建物はどれも鉄の塊になる。
「そうだ…夏が良い。青い海に青い空…水着のお姉さんに…霞さんだ…」
「何をぶつぶつ言ってる。ちゃんと頼んだ量の木材は持って来たのか?」
「霞さん…名前だけ期待させないでください…」
収集所の外では霞が同じく北収集所の作業員たちと何やら話をしている最中で、叢雲のソリを牽く音と独り言に気が付いたのか、こちらを振り返った。
叢雲の言葉に不思議そうな顔をしている霞の横で、叢雲の近くにいた作業員たちは込み上げてくる笑いを押し殺そうと肩を震わせた。
「叢雲君の怖いもの知らずはええね」
「何のことっすか?」
「霞さんには聞かれんように気をつけてくれよ?あとが怖いけんね」
叢雲は今にも座り込んでしまいそうになりながらも、なんとか踏ん張り腰に巻きつけたロープの紐を解いた。
牽いていたソリには小枝や角材など、様々な大きさの木材と少量の石が載せられている。
木材は大きさに関わらず、収集所内にある加工場に持って行かれ、加工が必要なものはここで大きさを調整し”東雲”の燃料に使われる。
「結構持って帰っとるね。どんくらいの場所にあったん?」
「場所っすか?うーん…イマイチわかんないっすけど、上にずーっと行った所っすかね。まぁ、本当にだいたいですけど…真っ直ぐ進みましたし。一緒に行ったおっちゃんたちの方が詳しい場所知ってるかもっす」
大雑把な叢雲の説明に霞は眉を潜めたが、諦めのため息を吐く。
叢雲たちに出動の指示を出しているのは中央収集所所長であり各収集所の運営責任者である霞だ。
「お前たちに行かせたのは北広島のあたりだ。あそこら辺はまだ未開拓だったからな…行かせて正解だったようだな」
「心当たりでもあったんっすか?」
「北広島はもともと豪雪地帯で、多くの木材や自然のものがそのまま氷漬けになってると思ってな。予想は的中してたな」
「確かに、鶴嘴で掘り起こしたのもありますよ」
そう言うと、叢雲は思い出したかのようにソリに乗っている氷った木材に目を向けた。
この凍った木材はもともと川だったであろう場所や、倒壊した家を飲み込むほどに大きな氷壁の中から掘り出したものだ。
「爺さんたちには少々無理をさせてしまったな…しばらく休ませてやるか…」
「俺にも休みはあるんですよね?」
「お前には特別任務に出てもらうことになるかもしれない」
「は?え?休みは…?」
*
正午 クレーター内第2エリア 南区 ”東雲”整備室
”東雲”をシャットダウンさせるための作業は順調に進み、午前の点検作業も終了した。
少し肌寒くはなるが、耐えられないほどではない。むしろ、第2エリアにある整備室は、他の場所に比べると少し暖かいのかもしれない。
「整備長。各収集所より燃料及び資材の備蓄量の報告です」
「ありがとうございます。今回は北広島でしたか」
「はい。木材が多く手に入ったと聞いています」
薄雲は中年の作業リーダーから報告書を受け取るとそれぞれの備蓄量を確認した。
この報告書を基にこれからの”東雲”の運用及び、運び屋たちの遠征等を霞と共に考える。
今は木材の備蓄量が最も多くなっているが、石炭の量が少し不安な量となっている。
木材でも”東雲”の燃料になり、街を温めることはできるが石炭よりも燃えるのが早く、燃費が悪い。
「そして、不知火さんからの定期報告が先ほど届いたと聞いています。なんでも、元鉱山だった場所を確認したとか…」
「それはいい知らせですね」
「場所につきましては、陽炎研究所長が情報収集を行っており、詳しくわかり次第、一部の運び屋の方々で遠征を行うとのことです」
「そうですか。では、私たちは小型ビーコンと遠隔中継機の用意が必要そうですね…こちらのビーコンと小型ビーコンの整備確認をお願いします。それから、手が空き次第中継機の整備もお願いできますか?」
「かしこまりました」
「くれぐれも、残業はしないようにお願いしますね?霞さんのためにも」
「そこは重々心得ております」
作業リーダーは薄雲に一礼をすると整備室をあとにした。
薄雲は受け取った報告書に目を通し、これからの”東雲”の運用について考え始めた。
ページを捲る手が少し震えてしまう。
Carpe diem 狗条 @thukao0710
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