第28話 疎遠だった実妹と探す俺たちの答え 2
あの日、
クリスマスデートを皮切りに、小凪は素直に自身の欲求ややりたいことを言うようになった。そして協力を約束した俺は、そのことごとくを叶えようと様々なに付き合った。
──例えばそれは年明けのこと。
年末の仕事で疲れ果てた両親を家に残し、俺は小凪と共に初詣に向かった。
俺は厚手のコートとマフラーという防寒を心がけた服装で、小凪は白を基調にした華やかな振袖だ。
夜明けまもなくに向かったが、到着してみれば参拝客は予想以上に多かった。
俺も小凪も人混みは苦手なのだが、そこはなるべく気にしないようにして参拝を済ませた。
それからはおみくじを引いたり、俺が受験生になるということもあり学業成就などのお守りを購入。
屋台を見て回りなにか買おうと相談していると、小凪が甘酒を見つけた。
正月と言えば甘酒みたいな感じがあるし、飲もうという話になったのだが……。
「うへへっ、にぃしゃぁん♪」
小凪が甘酒で酔っ払うというアクシデントが発生。
甘酒で酔うほど弱いのかという感想より、酔った小凪が人前で「にぃしゃぁん、しゅきぃー」とか連呼して羞恥心が爆発。
俺は小凪を抱え人目のないところまで逃げ、小凪を介抱することに。
そして酔いから醒めた小凪は、通説とは違いしっかりと記憶が残っており、羞恥に顔を真っ赤に染め上げた。
──例えばそれは二月十四日、バレンタインのこと。
日曜だというのに両親は仕事で不在。間がいいとかそんなレベルではないと思う。
それはさておき。小凪は俺にリビングで待機するよう命じると、白色のエプロンと三角巾を身につけ台所に立った。
なにをするかはお察しの通り。小凪は俺にチョコを作ってくれるようだ。
台所への立ち入りを禁止された俺は、チラリと小凪の様子を
午前のうちから始められたチョコ作り。途中で昼食(小凪が作った)を挟みつつ、おやつの時間でお馴染みの午後三時に、小凪が「完成っ」と声を上げた。
「に、兄さん、あげる」
「おう」
緊張からか少し顔を赤らめた小凪が差し出してきたのは、シンプルなハート型のチョコだった。
表面にホワイトチョコで
「うぉっ、中のチョコすっげぇトロトロだ」
「ん、頑張った」
「美味しいよ、ありがとな」
「……うんっ」
小凪の笑顔に、少しビターなチョコが甘く感じた。
──例えばそれは三月十四日のホワイトデーのこと。
まぁこれは俺がやりたいと言ったのだが、それはさておき。
都合よくホワイトデーも休日で、しかも両親は仕事。となればすることは、家で存分にくつろぐ、これに限るだろう。
そう考え至り、俺は俺の持つ知識と品を駆使して、小凪に最高の癒しを提供することにした。
高一のときお年玉とバイト代を貯めて買った上質なベッド。
この俺が持つ
そう企てていたのだが、いざそれを小凪に伝えてみると、
「なら兄さん、添い寝して」
微妙に路線がズレてしまったが、小凪が望むならと承諾。
悪いなグースピー、今回はお預けだ。
ベッドの上に配置していたグースピーを箱に避難させ、小凪の横にお邪魔します。
「ふふっ、兄さんと添い寝する夢も叶っちゃった」
横を向けば、小凪がこちらを向いてそう笑顔を浮かべる。
俺の思い描いたプレゼントとは違ったが、小凪が満足そうならそれでいい。
「なら、腕枕もしてやろうか?」
「いいの? じゃあお願い」
そうして俺は小凪と長めの昼寝をするのであった。
──例えばそれは四月頭の、春休みのある一日のこと。
俺と小凪は少し遠い場所にある大きい公園で、花見をしていた。
メンバーは俺と小凪の二人。両親は仕事だし、そもそもうちではあまり花見をする習慣がない。
弁当は当然小凪の手作り。俺がしたことといえば、レジャーシートやバスケット、その他必要なものを運んだことだ。
そこそこいい位置にシートを敷き、俺と小凪は並んで座り桜を見上げる。
「キレイだな」
「うん、そうだね」
まるで老夫婦のように、ただ花を観察してしみじみとした雰囲気で言葉を交わす。
やはりこうして静かになにかを眺めたりしているほうが性に合っている。もちろんモールやレジャー施設へのデートが嫌というわけではないが。
「兄さん、花は好き?」
「普通だな、キレイだとか、たくさん咲いているとすげぇとかは思うが」
「そう。あたしも特別好きってわけじゃないけど……兄さんと見た花は、他のどれよりも好きかな」
「っ、そ、そうか」
風に舞う桜の花びらを背景に、そんな反則級の言葉を言い放った小凪は、頬を桜色に染めていた。
──それは例えば日差し厳しい、夏のある日のこと。
この日は隣街で花火大会が行われる。今までは家で
小凪は
初詣の比ではないほど集まった人数に少し目眩を覚えたが、そこは根性で耐えた。小凪が気にせずにいるのだ、俺が音を上げるわけにはいかない。
「小凪、なに食べたい?」
「兄さん、兄さんはあたしを大食いキャラとでも勘違いしてる?」
なんて会話を屋台前を歩きながらしていると、ふと小凪がぴたっと視線をある方向に固定した。
その先にあったのは、屋台の代表格と言っても過言でないわたあめだ。
「わたあめって、砂糖オンリーなんだよな」
「兄さん、少しは女心を考えよう?」
ちょっと呆れたようにため息をこぼした小凪は、気にする様子なくあたあめの屋台へ直進した。
それからたこ焼き、チョコバナナ、りんご飴と食らっていき、ときどき金魚すくいや輪投げで遊んでいるうちに花火の打ち上げ時間となった。
場所が定まらず歩いていると、ドンッと音が響き夜空に大きな花火が咲いた。
その迫力や華やかさに誰もが足を止め、空を見上げる。
続き小さめの花火がいくつも打ち上がり、空を彩っていく。
無数の花火に照らされながら、座れる場所を探す。
「小凪、足は大丈夫か?」
「んー、少し痛いけど、大丈夫」
「それは大丈夫とは言わないだろ。俺がおぶってやろうか?」
「兄さん、そんな力ないでしょ」
「たしかに」
なんて雑談をしながらいい場所を探すが、手頃なベンチなどは見つからず。
仕方なく適当な段差に小凪を座らせる。
「もう少し早めに場所探しておけばよかったな」
「うん、でも大丈夫。こういうのも悪くない」
そう言いながら、小凪は隣に立つ俺の手を軽く握った。
「……そうか」
「うん」
俺の腕にそっと体を添わせ、小凪は静かに大輪の花火を見上げた。
──そうして数々のデートを経て、最後の日を迎えた。
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