第三章 ~『選考会の決着』~
「さすがはアトラスだね」
勝利を称えるように、クロウが拍手をしながらリングへと上る。
「俺だけの力じゃない。クロウやルカがいたからだ」
「謙遜しなくても。ウシオはバロン兄弟と比べ物にならないほど強かった。君がいなければチームの勝利はあり得なかったよ」
その言葉はある意味で真実だった。スピードだけならクロウが上だが、彼の攻撃力ではウシオの魔力の鎧を突破できない。
アトラスがチーム勝利の立役者であることは疑いようのない事実だった。
「アトラス、クロウ……私……」
申し訳なさそうにルカもアトラスたちの元へとやってくる。眠りから覚めたばかりなのか、目元に小さなクマができていた。
「負けたことなら気にするなよ」
「で、でも……」
「この会場の誰もルカが負けたことなんて覚えてないさ。なにせ威張り散らしていた学年最強のウシオが敗れたんだからな」
アトラスの勝利がルカの屈辱を晴らしたことに繋がったのだと気づき、彼女の目尻に涙が溜まる。
「……ぐすっ……アトラス、クロウ……私、本当に良い友達を持ったわ!」
ルカは二人の友人を両手でギュッと抱きしめる。友情を再認識し、アトラスの頬が緩む。
(良い友達を持てたのは俺の方だ。二人は俺の宝物だ)
友人のためなら何度死んでも怖くはない。もっと強くならなければと、心に誓った。
「アトラスチームの優勝に伴い、これより第一王女様よりお言葉が授けられる。敬聴!」
審判をしていた教師の命に従い、アトラスたちは跪く。頭を下げて、王女が声を発するのを待つ。
「まずはおめでとうございます。私を助けてくれたアトラスさんならば、きっと勝利できると信じていましたよ♪」
ヴェールの向こう側から声が届く。まるで友人を賞賛するような口ぶりだった。
(俺が助けたことがあって、この声だよな……まさかとは思うが……)
王女の正体にとある人物が思い浮かぶ。
「ふふふ、顔をあげてもいいですよ♪」
アトラスが顔を上げると、ヴェールの向こう側にいる第一王女が、シルエットが分かる距離まで近づいていた。もしやと思っていた疑念が確信へと変わる。
(まさかマリアなのか……でもどうしてあいつが……)
一国の王女に格闘術を教わっていたと知り、恐れ多さと共に、なぜ平民の自分にそんなことをしてくれたのかと疑問が浮かぶ。
「私はアトラスさんが誠実で優しくて正義感に溢れた人物だと知っています。本当は無条件で執行官に採用したいのですが、私の目が節穴の可能性もあります。そこで勝利チームのあなたたちに質問をします。この質問こそが執行官採用の最終試験です」
選考会はあくまで強さを証明しただけ。人間性を含めた執行官の適正はこの質問の答えによって問われることになる。
「では質問です。もし老人が暴漢に襲われていたとします。護衛のあなたは私の傍から離れて、その老人を助けに行きますか?」
その問いは優先順位の確認であった。
他の誰よりも王女を優先するのなら、護衛の任務を全うすべきである。しかし助けに行かなければ、老人は見殺しになる。
「アトラス、君が答えるんだ。君にはその資格がある」
「そうよね。アトラスなら間違えるはずないものね」
二人は微かな声で、アトラスに回答を委ねる。任された以上、逃げるわけにはいかない。自分の中で答えを出す。
「その質問の答えですが……俺は老人を助けます!」
アトラスの回答に観客席がざわめいた。王族軽視とも取れる発言だ。その反応も当然であった。
「つまり私を護衛なしで放置すると?」
「いいえ、護衛は続けます。続けた上で王女と共に老人を助けるんです。俺の主になる人物ならば、民を助けるために火中へ飛び込むことを恐れたりしないでしょうから」
アトラスの挑発ともいえる言葉に場が静まり返る。静寂が支配する空間を崩したのは、王女の笑い声だった。
「ふふふ、アトラスさんらしい答えですね。そしてあなたの主となる私は決して暴漢から逃げたりしません。あなたの回答は百点満点です♪」
「なら……」
「合格です。アトラスさん、クロウさん、ルカさん。あなたたち三人を私の執行官に任命します!」
王女の宣言により、割れるような歓声が鳴り響く。アトラスたちの就任を皆が心から祝福するのだった。
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