第5話


「お姉様がご無事でよかった!」


マリウスはぐすぐすと泣いている。


「心配かけてごめんね、今度別な所でピクニックいきましょうね」


抱きつくマリウスの頭を撫でながら次の約束をする...ただ今度は湖は無しだ...とても残念だが。


「それにしてもエルマ一人で悪魔に立ち向かって倒したなんて...護衛達は何やってたんだ...」


「お父様私が彼らにマリウスを守ようお願いしたんです、責めないであげてください!それに悪魔だったのであれば騎士団と高位術士がそれなりに準備した上でやっと倒せるかどうかでしたし...はっきり言うと足でまといにしかならなかったし...私の方が強いし...」


悪魔を倒すには高位術士のそれぞれの属性攻撃や聖属性武器による物理攻撃がメイン...それを神聖言語系のアンデット系を浄化させるための攻撃術もあるが一番効くのは神罰系、裁きの鉄槌が一番効くのが手応え的に分かった。


はっきり言うとエルマさん以外で倒すとなると悪魔退治専門の軍隊レベルが必要で普通の護衛騎士では無理だと思うのだよ...。


「あー」


パッパは片手で目を覆う...もう嫁に出す事など無いとはいえ預言者として慎ましく寺院でやってるかと思いきや私は聖サンソン真っ青レベルにゴリゴリの武闘派だから...ごめんねパッパ...。


「うん...確かにね...教皇様からは聴いてはいたんだよ...うん...いつのまにかすごーく強くなってたって...クラスが預言者になってすごいって事とか地下墓地でゾンビやスケルトンを浄化しまくってた話とかジルヴェスター殿下を他国の傭兵崩れから助けて元王妃をやっつけた件とか聖マーシャの再来だって何か興奮して言ってて...でもエルマちゃんは女の子なんだよ...パパとしては危険な事をしないで出来ればレディとして慎ましく生きて欲しいな...」


パッパはもう10年も経っているのに5歳のエルマさんのままなのかもしれない...そうだよねぇ...普通は女の子だからもっと女の子らしく生きて欲しいよね...でもゲーム内でもジル殿下の側近になって戦場にいたりもしたからそもそも武闘派だったのかもだけど(まぁゲーム内じゃ回復役しかやってなかったが)...でもエルマさんとこの国の決められた運命的なものを自らの力で木っ端微塵に破壊しなきゃならぬのよ...とにかくごめんねパッパ...


「あとお父様、一人ではなく私の護衛をしてくれている神殿騎士マックスと北領騎士団の術剣士ギディオン様がいて下さったし、私自身全く怪我も無かった事ですから...彼らのお陰で本当に助かったんですよ!」


なんとかパッパを宥め、一人で倒した訳でないってアピールもせねば!


「まだ若いのに神殿騎士で最も強い騎士に北領騎士団の腕のいい術剣士と聞いてる...預言者を守るという意味よりも大切な娘を守ってくれた事に本当に感謝する!今日はぜひゆっくりしていってくれ!」


パッパはいつもの領主っぽい感じで二人に話す。


二人はさっきまでのパッパを見てたわけで何というか苦笑していた。(マックス氏は兜越しではあるがなんか分かる)



ーーー


夕食を終え、マリウスが眠った頃にエルマさん、マックス氏とディビドの3人で書庫にいた。


ディビドは戦士の格好のままだが顔はギディオン姿からいつもの細目の優男の顔に戻っている。常に変装するのも疲れるらしい。


仲間としてディビドにもこれから起こるであろうゲームの内容を預言としてざっくりと話す事にした...。


「暗殺によるコンラート陛下の崩御...王族惨殺事件と簒奪王ジルヴェスター...双翼戦争...アスモデウスの復活...英雄王の誕生...まるで物語だ...」


ディビドは口を片手で覆いながらはぁ...とため息を吐く。


「私はこの預言を5歳の時知って何とか戦争を回避できないかと思い早々にバーレへ赴き修行をして、ジル殿下の簒奪王としてのきっかけを止めるために努力したけど、ジル殿下は結果として北領騎士団に入って実権を徐々に握っていると感じるし、ウルムとの小競り合いは起きそうだし、アスモデウスの封印は預言よりも早い段階で破られているし...しかも悪魔の封印が他に解放される事態が起きている...しかもずっとジル殿下から予知スキルの警告音が止まらないのがね...」


「つまり預言は形を変えても実際に起こっている現状からするにもしかすると避けられない事態になる...いえむしろ悪い方向に向かってると、そうエルマ様は思ってらっしゃるんですね?」


「うん...でも嫌だったんだよ...戦争なんてさ...戦争は多くの人を不幸にするから...多くの人が死んで大切な人を殺され、憎しみが負の連鎖となって更に人が死んでいくから」


「戦争なんてそんなものです、もし起こったとしてもエルマ様が悪い訳ではないですよ...王家のゴタゴタに心を痛めなくとも良いのに」


「私は分かっててそれを見て見ぬふりが出来なかったんだよ...それに私が預言を知って抗わなければ私はきっとジル殿下の婚約者のままだし戦争が始まったら、私はジル殿下側の人間として立つ事になって、その事が原因で2人に言えないような目にあうの...そしてそれを苦にそのまま自害する結果になるの」


「なんですって!エルマ様...一体誰がそんな事を!」


なんとなく人生経験が重いディビドは言った内容にピンときたのか顔を青ざめながら聞いてくる...


「...ディビド...貴方がよ...本来の私と同様に貴方は本来の立ち位置にいないの、貴方は本来なら貴方の『大切な人』が殺されてそのきっかけを作ったジル殿下や私たちライゼンハイマー家を憎み、英雄王に忠誠を誓って私達を倒す側にいるの...」


そう、ミスタクはダークでハードなストーリー展開で主人公以外の登場人物は大抵誰かに家族や大切な人を殺されたり理不尽な目にあったりし、それが原因で更に憎悪が増していき国全土が戦火に巻き込まれていくのだ。


ゲームを遊んでいた時は話が重いながらも、そのストーリー展開やゲームシステムの面白さから楽しんでいたけど戦争なんて現実にあって欲しくはないのだ。


マリウスにパッパにマックス氏にディビド、教皇様やヘルムートのおじさまに修道士のみんなや神殿騎士...バーレで生活している人々...なんならコンラート陛下やジル殿下だっても巻き込まれて欲しくは無い。


「私にとって最も大切な人はエルマ様だけです、決して貴女を私の手でそんな目に合わせる事などしません...もし英雄王とやらが現れたならその首を落としますし何ならジル殿下だって...」


「それはダメ!貴方は暗殺者にさせないっ!」


志があったとしても汚い仕事を押し付ける真似はさせたく無い、ゲーム内の彼はそうやって清廉潔白な主人のために害をなす存在を葬り、最後にその業を身に受けてしまうからだ...流石に重いストーリー展開のミスタクはエンディングだってなかなか重いのだ!仲間の大半が大体幸せになってない...ディビドなんてエンディングで大切な人達を思い浮かべながら暗がりの中で殺されて雨に打たれながら倒れる姿はメリーバッドもいいところだ!ディビドにだって幸せになって欲しいのだ!


「...ああ...優しいですね...私みたいな人間に優しくしてくださる...ああ...やっぱりエルマ様は可愛い人ですねぇ...」


そう言ってディビドは跪き、エルマさんの手をとり、その甲に口付けする。


「再度貴女に忠誠を誓います...貴女の為ならばどんな者にでもなりましょう、貴女好みの...貴女の願う姿で...」


ディビドは誓いの言葉を変えて忠誠を誓う。


糸目のディビドの目が開く...とても真剣な顔でこちらを見ている...なんて深い紫色の美しい瞳をしているんだろう...ゲーム内ではイケメンのイメージはなかったが、こうしてみるととても整った顔立ちに鋭い瞳のイケメンだ...だからなのか顔が熱くなり心臓がドクドクと音を立てる...きっとこんな経験した事がないからなのか...


「ちょっと!こら!ディビド離れろ離れろ!」


マックス氏が急にエルマさんの後ろからガバっと両腕を掴んでひょいっと横にずらされた。


「エルマ様も何ですか!これじゃ忠誠を誓うどころかただの告白みたいなものじゃないですか!受けたらダメですよ!」


なんだかんだで職務に忠実なマックス氏に説教されてしまった...。


「あーバレましたか?」


はははとディビドは笑う。


「ディビド!」


「まぁまぁ!ディビドの冗談だから!マックス氏真面目に取らないで、ね?」


ついうっかりディビドの顔を見てぼうっとしてしまった...ジル殿下はイケメンだが予知スキルのせいで怖いとしか感じないのに...冗談でもイケメンの告白なんて喪女にはハードル高いわぁ...心臓がドキドキするのが収まらない。


ディビドがマックス氏をからかうのが楽しいようでまだ笑っている...結構本気で怒るのでやめてほしいものだ...喪女の男慣れしてない紙のようなメンタルもやられがちだし...うーん...


ーーーー


※ゲーム豆知識

双翼戦争

ジル殿下が北領騎士団と貴族を味方につけ王権の簒奪をするが、コンラート陛下の子であるアガーテ王女こそが正統な王位継承者と主張する南領の騎士団と貴族との間で起こる内戦をさす。

双方の騎士団のエンブレムがグリフィンを用いているため「双翼戦争」と呼ばれるようになる。

ゲーム上では主人公がコンラート陛下の隠し子である事が分かり、最終的に双翼戦争を制して英雄王としてエアヴァルド王になる。(ただしEDの一つでしかないが)

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