第4話
良い天気の日、マリウスと約束していたピクニックに足を運ぶ事になった!
ライゼンハイマー領のオーバー湖と呼ばれる大きな湖の近くで途中馬車で向かい、湖付近は徒歩で向かう。
お弁当にサンドイッチや焼き菓子や果実水を詰めた瓶をバスケットに入れてお昼をそこで楽しむ予定だ。
「お姉様とピクニック久しぶりでとっても嬉しいな!」
マリウスは大はしゃぎだ、まぁここまでの時間をとってあげられるのは一年に一度、マリウス達が寺院の方に来てくれる事があったとしても家族としての時間が取れる訳ではない。
唯一マリウスが実の姉を独り占めできる時間、大切にしてやらないと!
「私もマリウスと一緒で嬉しいわ」
「えへへ!」
子供らしいマリウスかわいいと本当に思う、エルマさんが10歳の時なんて1人でこっそり地下墓地で強くなるために浄化という名のアンデッド共の抹殺?を延々と行ってたわぁww
本当は二人だけの方が良いかもだったけど、立場的には侯爵家の後継と今代の大預言者...領地なのでまず何か問題は起こらないと思っても一応何かあったらいけないので従者や護衛はそのまま引き連れ、エルマさん自身も身を守るために簡易的な短めのロッドを太腿に忍ばせ(流石にエクソダスロッドはジャラジャラし過ぎな上に長くて隠せない)いざとなった時の準備は怠らないし、一緒にいる人らにはマリウスも含め過越の守り石を渡している...心置きなく大暴れするためにはね。
オーバー湖と呼ばれるエメラルド色の美しい湖、周辺は木々が生い茂り水面に映し出され、心が洗われるようだ。
宗教都市でもあるバーレは巡礼者も多く王都程ではないが賑やかな場所だが、自然豊かなライゼンハイマー領は観光に適しているんだろうなぁとしみじみ思う。
「お姉様水鳥がたくさんいますよ!」
マリウスが指差す先には水鳥が優雅に水面を泳いでおり、その姿がとてもかわいい。
「マリウス、この辺でおやつにしましょう!敷き布敷くからお手伝いお願いしても良いかしら?」
「はぁい!」
マリウスは素直でかわいい。本来なら貴族だし従者にさせれば良いのだろうが、エルマさん的教育方針としてはなんでも自分でできる人間に育つ事をモットーとしてるし、姉であるエルマさんも寺院では自分の事は自分でやってるのでと言い聞かせパッパにもそこはしっかりやってもらう様にお願いしている。
マリウスも姉であるエルマさんに倣って普段着ている服の着替え(公務などで着る服は流石に従者にしてもらうが)や片付けやちょっとした掃除などできるようにしている、うんとても偉い!
湖を眺めながら作ったサンドイッチやおやつを食べる。
ちなみに神殿騎士やライゼンハイマー家の護衛と従者にもちゃんと同じものを渡しており『大預言者様がこのような下々にまで直々に!なんてお優しい方なのか!』と感激されてしまった。
「お姉様の作ったサンドイッチもおやつもとっても美味しいです!」
「喜んでくれて嬉しいわ、マリウス」
頭を撫でてあげるとえへへと照れ笑いをする。
そんな和やかな時間を過ごしながら、今度は釣りでもしましょう!とマリウスが言うので湖の辺りまで足を運び、従者が持ってきた釣竿をマリウスが器用に餌をつけて操作し釣りを始める。
「マリウスはなんでも出来る子なのね!」
「えへへ、大預言者のお姉様の弟だからなんでも出来るようになりたいんです!お勉強も剣術もちゃんと頑張ってるんですよ!」
「お父様に聞いたわ!跡継ぎとして鼻が高いって」
糸を垂らし、そんな会話をしながらゆっくり時間が過ぎてゆく。
ふと湖面を見ると一部大きな影が動く!
頭の中で予知スキルが警告音を鳴らす、あと数分でこちらに来る!
「マリウス!みんなっ逃げてっ」
その声に驚くも護衛達はすぐにマリウスを抱え逃げる。
『神は言う!母鳥の双翼で雛を守るように我が民を守ると!』
太腿に隠しておいたロッドを取り出すとすぐに保護の術である守りの双翼をかける。
「お姉様!」
「私は大丈夫だから!ここにいる誰よりもお姉様強いのよ!護衛の方々!マリウスを守って!」
そう!エルマさんはここにいる誰よりも強いのだ!
水面の影が大きく盛り上がる!
そこには大きな蛇とナマズが一体化した様な赤黒い不気味な魔物が蛇の魔物の群れと共に現れた。
口の下には古代ウルム語で書かれた呪印が赤く光っている。
『湖付近に好ましい匂いと忌々しい気の両方が立ち込めてると思ったら貴様!生贄の血をひいてるくせに忌々しい彼の神に誓いを立てた乙女だな!』
魔物は人の言語を理解はしない...しかし目の前の化け物はトラウゴットの神を名で呼ばず『彼の神』と呼ぶ。
「生贄じゃないけど神に誓いを立てたのには間違いないよ!聖職者舐めるな!」
『まぁ良い!我が名はフォロカル!水と風の神である!我が血肉となり真の力を解放させる糧となれ!』
自らを神と言わしめるフォロカル...つまり悪魔か!しかも受肉し実態を持っている...誰か生贄になった証拠だ!
「はっ!神とは笑わせる!この世界の神は唯一の創造神である忠実なる神(トラウゴット)のみよ!お前なんて悪魔の間違いじゃない」
『ガハハハ!生意気な乙女よ!切り刻んで血肉を楽しんでやる!』
風が轟々と吹き荒ぶ、これは風の刃の術ヴィントクリンゲが発動すると予知スキルが警告を出す。
ヴィントクリンゲが広範囲に発動するが、予知スキル刃が当たらない場所を知らせ走り出し交わす。
しかし蛇の魔物がこちらにジリジリ近づいて来る。
水と風属性だろう...雷属性ならいけるか!
ロッドを天に向けて聖典の一節を叫ぶ。
『邪悪な者!神に逆らいし傲慢で強欲なる者!淫行に耽る愚かなる者よ!神は望まれた!天よりの裁きの雷を身に受けよと!』
神罰の雷が発動されドォンと大きな音を立て雷が湖一帯に降り注ぐ。
『ぐぉおお!』
フォロカルは大きく叫ぶがまだ倒れない。
雑魚蛇は一掃したが、一発だけでは倒せないか...もう少し接近して裁きの鉄槌を2、3発喰らわせられれば!
『神罰だと!貴様彼の神の預言者か!生意気なぁぁああああ!』
長い尾に水の刃を纏わせてこちらをなぎ払おうとするがそれも交わして距離を取る。
今のワンピース姿では双翼の守りがあったとしてもあんなのにやられたらかなりのダメージをくらう。
近づけない...マックス氏がいれば盾になってくれるのに!
そう思った矢先、ヴィントクリンゲが発動するのか再度大風が吹き始める。
今の時点なら守りの双翼でヴィントクリンゲを何発か守るだろうし、多少の怪我を負ってもヒールをかければ何とかできるか...そう思って一気に近づこうと駆け出そうとした時だった。
『稲妻よ降り注げっ!ブリッツシュラーク!』
どこからか高位雷属性の術式が発動し紫色に光る稲妻がフォロカルに直撃する。
後ろを振り向くと戦士の姿のディビドが術式を発動させていた。
戦士の姿だと術の威力は弱いかもだが、足止めとしては充分の威力だ!
「エルマ様すみません!今の私の姿ではせいぜい動きを止めるくらいしかできません!」
「ディビドっ!サポートありがとう!」
『ぐぉおおおおおおお!』
苦しむフォロカル、ディビドの攻撃のおかげでヴィントクリンゲの発動が止まるとその隙をついて裁きの鉄槌の射程範囲内まで間合いを詰めるため走る。
『このぉぉぉぉおおおおお!』
再度長い尾でなぎ払われようとすると、ガツンとその尾が弾かれる。
大剣でエルマさんをディフレクトで守るマックス氏だ!
「エルマ様!」
「マックス氏!」
「尻尾攻撃は僕が弾きますっ!」
「ありがとう!本当に助かる!」
そう言っている間にもディビドがブリッツシュラークを仕掛け、動きを止める。
裁きの鉄槌の射程範囲内に入り、フォロカルにロッドを向けて一節を叫ぶ。
『裁き時は来たっ!悪しき者の頭を砕く裁きの鉄槌を!』
裁きの鉄槌がフォロカルの頭に直撃する!
悪魔だからか聖属性特効が効いてか、身体がぐらりと揺れる。
『ぐぉぉぉぉおおおお!』
暴れだすフォロカルの水の刃を纏わせた物理攻撃は全部マックス氏が大剣でガードする、その隙にディビドも近くに寄り二本の細身の長剣の表面に最高位の雷属性を付与させ尾を地面ごと貫き動きを止める。
尻尾攻撃も封じ動けないフォロカルにとどめを刺す為ロッドをそちらに向ける。
「これで最後だっ『裁きの鉄槌!』」
再度裁きの鉄槌を喰らわせる!
『ぐぉおおおおおおお!』
断末魔と共にフォロカルは後ろに仰反るように倒れる。
その巨体は徐々に縮み、黒い煙のようなものがぎゅっと集まったかと思ったらバシャン!と湖面に落ちる。
「あれは禁呪の書き板!」
水辺である事も気にせず湖にそのまま入り、水の中を潜り翡翠石で出来た掌ほどの大きさの書き板を探すと直ぐに湖底に落ちていたので其れを拾って水面まで一気に上がる。
そのまま泳いで湖から上がる...びっしょびしょだ!
「エルマ様!そんなに濡れてしまって...僕が入ったのに....」
「マックス氏じゃあ鎧の重さで無理だよ溺れるってwまぁずぶ濡れで風邪ひきそうだね...まぁ誰かからマントでも借りればいいか」
スカートの裾を絞ると水が滴り落ちる。
「なら今炎と風の術で乾燥させましょうか?ちょっとぬるくて気持ち悪いかもですが?」
「乾燥とかできるんだ!お願い!」
ディビドが術を発動させるとちょっとぬるい風がゴォっと起こる。でっかいドライヤーに頭のてっぺんからかけられている感じだ。
「ひゃー本当にぬるくて気持ち悪い~」
「よく逃げる時に自害するふりして川とか滝壺とか海に面した崖を飛び込むから編み出したんですが、ぬるいからって火力上げると火傷しちゃうんですよねぇ」
「ってディビド自害するふりってまるでサスペンス小説の犯人じゃん!何やってんのよ...うひゃーやっぱり風が気持ち悪いー」
2、3分もしないうちにに髪の毛も服も乾いた...これ髪の毛乾かすのに覚えたいなぁとか思ったら「高位術士のクラスになるには討伐数も必要ですしそんなことしたら今の聖職者系クラスを捨てなきゃならないから辞めた方がいいですよ」とディビドに言われた...たしかにそうだ。
「それにしても何で二人ともここに?」
最初に口を開いたのは戦士姿のディビドだ。
「騎士団に潜んで暫くしていた時なんですが、この湖の上流の川付近の村で村人全員が居なくなる事件が騎士団に上がりまして、なんか引っかかったのでそれを調べる為に志願していたんですよ...」
「え?」
「ここ数年雨が降らず不作になって立ち行かなくなってその打開策として祭りと称し禁呪の解放を行ったんでしょう...古くからその地では『水と風の神フォロカル』と信仰していたみたいですね...ただ解放に失敗したのでしょう、惨状からするに術者や村人は受肉の媒体にされて『悪魔フォロカル』が実体化したと確信しました...ただ受肉の媒体としてはあまり良くはなかったのでしょう、本来受肉し力を手に入れた悪魔は人型をする筈ですが蛇の様な姿でしたからね、蛇の姿で川まで身体を引きずった跡があり、泳いで下流の安定した場所...きっとここに止まるのではと思ってそのまま足を運んで数日湖周辺を探っていたんですよ...因みにエルマ様に会うのは完全に偶然ですね...運命すら感じます」
「そんな事があったなんて...」
きっとこんなにもタイミングがいいのは預言者クラスの神の祝福スキルでLUKカンストしてるお陰だろうな...神の祝福ありがたや...
「僕はその件で数日前にディビドからの連絡があって、ちょうどライゼンハイマー領の湖にその川が繋がっているって聞いたらいてもエルマ様に伝えなきゃって経っても居られず早馬でライゼンハイマー候のお屋敷まで向かったんです...でお屋敷の使用人の人にエルマ様たちがここにいるって聞いてそのまま来たんですよ...本当に間に合ってよかったです!あ!ちなみに馬はあそこに草喰んでます」
マックス氏が指刺す先には小高い丘付近で確かに馬が呑気に草を喰んでいる。
「さっきまで大騒ぎだったのにあいつ呑気だよなぁ...」
そうマックス氏はぼやいた。
「さて...この禁呪の書き板どうしようか...」
翡翠石の書き板には古代ウルム語で何か書かれているが、訳さないとわからない。
「一応騎士団に報告する為に提出するのが筋なんでしょうが、ジルヴェスター殿下の元に置くのも危険な気がするんですよね...」
「そうだよねぇ...ん?」
そんな会話をしている内にぴきっと割れたかと思うと粉々に砕け散ってしまい、中に入っていたであろう小さい心臓のようなものがぼとりと落ち、それも全て灰となってしまった。
「ええっ!砕けてしまったよ!」
「なんと!これは悪魔そのものが実体化させるための根幹...通常この状態から何年も時間をかけて受肉の媒介を得て復活するものなのに....それが砕け滅びるなんてあり得ないはず...エルマ様もしや悪魔すらも滅ぼす力を持っていると...」
ディビドは興奮しながらそう語る。
「悪魔を滅ぼす?」
「そもそもこの世界に点在する悪魔...いや神々と呼んで祀られているものの大半は聖典の最初に書かれている神の使い...天使が自らを崇拝の対象になりたいが故に堕落し受肉した罪深い堕天、本来ならば人は滅ぼす事ができません...古の預言者達、特に悪魔を拳で殴り倒した聖サンソンですら望んでも出来なかった偉業ですよ!」
ディビドはうっとりとした顔で見つめてくる、悪魔を滅ぼすなんて彼にとって悲願だろう、だからそんな顔をするのかな...何というかそんな顔で見られると無茶苦茶照れる。
因みに聖サンソンは聖典でバーレにいた悪魔を拳で殴り倒しながら封じ、最後に女に騙され悪魔ダガン捕まり目を潰されてたが最後に命がけでダガンを祀る神殿ごと破壊した逸話の武闘派だ、ちなみに裁きの鉄槌はサンソンの出てくる章の一節にある句でダガンを殴り倒す時に叫んだ言葉である。
「エルマ様ただでさえ預言者様なのに更に凄いって事なんですか!」
「唯一無二の存在、まるで悪魔を滅ぼす事が使命なのかもですが、神託ではその命を受けてはいないんですよね?エルマ様」
「そんな神託なんて受けて無いよ...分かるのはこのまま王位継承権を巡る争いから国内が分断する戦争が起こる事くらいしか...」
私はあくまでも設定資料集で得た情報とこれから起こるであろうゲーム内の双翼戦争の事くらいだ...しかも悪魔として出てくるのはラスボスのアスモデウスだけだ、まさかこの世界に存在する悪魔をこんな形で倒し滅ぼす事になるとは...それとも戦争を起こさなくとも大きな禍いが起こり得るのか?やはり私というこの世界の異分子が存在するから?そもそも何故えりかさんがエルマさんとして転生し今に至るのか?
「戦争!戦争が起こるんですか!」
ディビドは驚く!しまったまだディビドには双翼戦争の話はしていない!
「後で詳しい話をするよ...これから起こるであろう戦争と結果について私が知っている事を...今はあっちで待っている弟達の不安を解消させるのが先だからね」
バラバラになった翡翠石を全部拾い集めハンカチで包む。
「ディビドにこれを預けるよ...これならもう復活もないだろうし、きっと騎士団に報告するとき必要だろうし何なら私もそちらに出向くからね」
ディビドは頷きそれを受け取る。
「今日の所はライゼンハイマーのお屋敷に二人とも泊まっていって!疲れたでしょ!ご馳走も用意するから!」
「ええ!」
「わっ!エルマ様!」
そう言って二人の手を取りマリウス達が待っている場所へ向かって引っ張ると、二人とも慌てふためくのがなんか可笑しかった。
ーーーーー
※ゲーム豆知識
ライゼンハイマー領
エアヴァルド北部の山間の領地、とてもひなびた良い土地である。
現在エルマの父親であるブルーノ ライゼンハイマー侯爵が領主として治めている。小麦と林檎が主な産業。因みに林檎はポーションの原料になる。
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