第3話

毎年必ず年1で実家のライゼンハイマー領へ帰省するのだが、今回は目的をもっての帰省で少し長めに帰る事にした。


「エルマ!久しぶりだねぇ!大きくなって嬉しいよ」


パッパはいつも通りのパッパだ、男寡で娘にやたらと甘い...きっと一緒に暮らしたかっただろうが、預言者として寺院預かりになったため寂しい思いをしているだろう。


一応エルマさんには5歳年下で今10歳の弟がいて彼が次期ライゼンハイマー侯となる。


エルマさんと同じ緑の髪とピンクダイヤモンドの瞳の少年で名前はマリウス、きっとエルマさんが男の子に生まれればこうなるであろう姿なくらい良く似ている。


マリウスはゲーム内ではライゼンハイマー家の断罪の日、まだ年若いのに断頭台に立たされるシーンがあり、産まれたばかりの赤ちゃんだった時に絶対にそんな事にならない様しなきゃと心に誓っている。もちろんパッパもね!


「お姉様!今回は暫くこちらに居られるって聞きました!せっかくですのでお出かけしましょう!」


素直に育った弟がかわいい!


人に恨まれないようなちゃんとした子に育ってお姉様嬉しいよ!


「そうね!ピクニックでも行きましょうね!お姉様マリウスの為にお弁当作ってあげるわ」


「わぁいやったあ!」


そう約束するも、本来の目的を忘れてはいない。


家系図を確認し代々の先祖が眠っている墓地を確認する...もしかしたらライゼンハイマーの血が関係している可能性があるからだ。


実家にいる時だけは親孝行?のためローブではなく簡素な紺色のワンピースを身につけるようにしている。


一応聖職者でもあるので清貧である事は心掛けており、一番豪奢な格好でもせいぜい祭りの時期だけオラクルローブに似た金色の刺繍された絹の司祭服を身につけるだけである。


ちなみにこの時だけはマックス氏を連れてはいかない...彼にも休みが必要なのもそうだが、以前一緒に来た時マリウスにかかりきりになってしまい寂しそうにしてる姿を見たからだ。


一応は心配もあるので(エルマさんでなくマリウスに)視界に入る場所に侯爵家の警護兵と神殿騎士数人の護衛をつけてもらっている。


その内ディビドもこちらに向かうと連絡もあった。


数日の間は家に篭り家系図を確認し、一族の歴史を追った。


「特にバーレの王に関連する内容はないかーうーん」


もしかしたら母方に?とも思うが母方のヘルムートおじさまの家系は司祭の家系なのでたどり着く先は祖先である大預言者マーシャである。なのでバーレの王になり得ない。


聖典を開いて10日間の雹の災厄の記述を読む。


流れとしてはこうだ...


聖マーシャは最初に一年間罪深い旧バーレの民に災厄が来ると伝え、悔い改め神託に従わないなら滅びしかないと告げる。


しかし旧バーレの民はその神託に従わず、邪悪の限りを続けていた。


そして災厄の日が到来すると10日間、大きな岩のような雹が降り注ぎ建物も全て壊れ身を隠す場所もないまま雹によって旧バーレの民を滅ぼした。


ただ数人の悔い改めた者は、マーシャが与えた過越の守りのおかげで奇跡的に救われ現在のバーレの民の一部になっている。


「この悔い改めた者の祖先と関連があるんだろうけど...どこかで繋がっているって事なのかも...あーわかんないや!」


椅子から立ち上がって背伸びをする。ふと本棚を見ると『ウルムの神話と歴史』と書かれた本を見つける。


曽祖父が古書を好み様々な本を蔵書してたとパッパが言ってたなぁ...


ひょいとその本を手に取りペラペラと開く、ウルムは多神教でそれぞれの加護に応じて崇拝する、例えば戦争には戦いの神、豊穣を願うなら豊穣の神にといったようにだ。


そして加護を得るために生贄を求める...動物などならまだ良いが、中には人の純潔や血や命を犠牲にするものもある...。


えりかさん時代は日本人だから八百万の神が当たり前の生活をしていたから当初トラウゴットの一神教の形が馴染み難かったが、実際に神の神罰や祝福、悪魔や邪な存在が現実として存在する世界にいる事で生贄を求める存在はやはり歪であり、正しいものではないと感じるようになった。


トラウゴット教にとっての悪魔はそういったウルムやその他周辺の多神教の神である事も多い。


記述の一つに『破壊と多産の神 アスモデウス』と記載された項目を見つける。


その昔ウルム側の国境からバーレや周辺の領を纏めて『バーレ』と呼ばれ、ウルムの土地だったようだ。


その旧バーレの地を支配する現人神がアスモデウスであり土地を豊かにする代わりに多くの子供の生贄...そしてその支配する王の娘が産まれるとその女を花嫁と称して純潔を求めた。


花嫁を得るとアスモデウスの力は更に解放され、戦いに勝ち続け、人も家畜も多産になり、土地は豊かになった。


しかし犠牲は大きく、祭と称して最初に産まれた子供は火に焚べ女は犯され弱い者は殺された...女と子供の叫びが響き続けた...まるで悪魔崇拝ではないか!


本の内容の生々しさに吐き気を覚える。


だからそんな嘆きをトラウゴットの神は聞き断罪をする事にしたのだ。


『弱き民の嘆きを私は聞いた!この地の罪はあまりに多い!血と淫行に耽るこの地を断罪する!今より1年の時を与える!悔い改めないなら天より大いなる災厄が10日間降り注がせ滅びに至るであろう!』


絶滅の雹の一節...石を投げつけられながら、暴力を振るわれながらも大預言者マーシャはバーレの地で滅びの神託を伝え続け、悔い改めた数人には過越の守り印を家の入り口に描くように教え、10日間けして外に出ないようにと伝えた。


『絶滅だ!絶滅だ!絶滅だ!雹の災厄は血と淫行と暴力で満ちた邪悪な民を逃さない!何処に隠れようとも滅びは確実に襲ってくる!絶滅の雹が邪悪な民を打ち滅ぼす!』


マーシャは神からの神罰の言葉を叫ぶと絶滅の雹が10日間降り注がれ旧バーレは滅びた。


その後7年の浄化をもって聖なる地となりその7年を用いて虐げられた神を信じた民を集め導き入れる...それが今のバーレである。


ちなみにしょっちゅう通って浄化を行ってるアルトマイヤー寺院の地下墓地はこの時滅びに至った民の墓であるらしい。もしかしたらよく倒しまくってるダークリッチは旧バーレの王族の成れの果てかもな...奴ら王冠被ってたし。


旧バーレの王の娘の特徴が書いてある。


『純潔な若い娘 王族特有の薄紅色の瞳の持ち主である事が花嫁の印である』


薄紅...ピンクダイヤモンドの瞳...やはり繋がりがあるのか!


その本にしおりを挟み閉じると大きくため息をつく。


ディビドはとうの昔にジル殿下の中にはアスモデウスが居るのでは?と言うが確証は無い。


しかし今後起こりえるイベントを考えるとあり得る...しかし禁呪の解放のタイミングがゲームの流れと違うタイミングと言うのがどうにも引っかかるのだ。


何か別の意思が働いているのか?


それともエルマさんという異分子がゲームに干渉してしまったが故に何かの補正が働いている結果がそれなのか?


そしてジル殿下にもし大悪魔アスモデウスの受肉の媒体として狙われているならば...封印式の文言とこの本に書かれている事が事実ならば絶対にエルマさんの純潔は守らねばならない...。


ゲーム内ではエルマさんはジル殿下に見向きもされずにいた為アスモデウスの復活は完全でなかった可能性があるって事だ...だからまだ主人公達に倒されたかもだが、これが完全な力を解放されたならかなりヤバい事になる。(ゲーム経験者談)


ただ純潔さえ渡さないで良いというなら結婚するという選択肢だってあるがいかんせん『神の花嫁』設定が足を引っ張る...いやエルマさんは喪女なので結婚とかノーサンキュー...


「なんてこったい!戦争回避をしたとしてもラスボスがパワーアップしたのが出現したらしたでやばい案件じゃないか!」


たしか推奨レベルが80近くのはずだがそれでもかなり大変だった記憶があるぞ!これ地下墓地で地道にみんなで修行するしかないのか!


そんな感じで頭を抱えているとマリウスがやってきた。


「お姉様お姉様!お茶の準備ができたのでテラスにいきましょう!」


「あ!ありがとうね、マリウス、今行くわ」


今悩んでも仕方ないか、折角お茶の準備してもらったから気分転換しなきゃね!


書庫を後にしてマリウスと一緒にテラスへ向かった。


ーーーーー

※ゲーム豆知識

エアヴァルド内の貴族と苗字

この世界では土地持ちの貴族にしか苗字がなく、苗字も土地の名前をダイレクトに使う。

一般人は大体屋号を用いる。

(例:王都の鍛冶屋ののっぽのトーマス、リーネ村のパン屋の太っちょのギリアム等)


隣国ウルム

エアヴァルド北部の国境から向こうの国、術式学などの研究が盛んな北の大国。前王妃やディビドの故郷でもある。昨今悪魔の解放が各地で発生しておりウルム王は頭を悩まされている。

色白で髪色が茶色か金色で背が高い人が多い。


絶滅の雹(ゼツメツノヒョウ)

神罰系の奇跡の一つ

エアヴァルド国が成り立つ前、旧バーレを滅ぼした10日間の雹の災厄を指す。

デカい雹が殺人的に降り注ぐ、寒さより撲殺に近い。

氷と聖属性、氷結のデバフがかかる。

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