第2話
数日後、封印式の解読を終えたディビドがその資料を持ってやって来る。
「どうも封印式自体の解放はかなり面倒な上、高位術士一人の命が犠牲にする事で解除できるものだった様ですが、バーレの王の記述で気になる文言が更に出てきたので」
「犠牲って...うわぁ確実に一人死んでるって事?」
「古いものでしたが黒ずんで乾いていた血溜まりがありましたのできっとその時のものでしょうね...まさか人一人犠牲にするとは...あとで数年前からのアークメイジ以上のクラスの高位術士の殉職者と失踪者リストも見ておきます」
「お願いするよ...」
「では報告終わったらそちらも調べておきます...エルマ様ここに書いてある記述なのですが」
念写画に載っている封印式の外周には解除の文言が書いてあるらしい、今回は中心部に書かれている内容...
『封印されし破壊と多産の神 アスモデウスの契約 古来よりその地を治めるバーレの王の娘をアスモデウスの花嫁となる契約を結び その娘の純潔を用いて真に解放せし』
「悪魔を神?バーレの王の娘?花嫁の契約?なんだろう?」
「悪魔は大抵その土地の神として信仰されてる存在です、旧バーレの神話なども調べないとですがバーレの王族の娘の生贄...純潔などと言ってますがはっきり言って男女の交わりを持ってという事でしょう...全くをもって趣味が悪い...そうやって受肉したアスモデウスは更なる力を解放させるということでしょうね」
「うっわ...きついなぁ...そう言う意味かぁ」
輪○凌○で酷い目に遭うかもしれぬエルマさん的にゃ少しでもそう言う性的な話が出るのはNGだわぁ...悪魔滅べばいいのに!
「人の命や尊厳を犠牲にし益を得るのは悪魔の所業です...許される事ではないです」
ディビドはいつにも増して真剣な顔をする。
彼は汚い仕事を平気にするのは悪魔といった存在を嫌悪し、悪魔に魅了された人間を抹殺する為だ。
ガイドブックで彼の父親が賢者クラスの高位術士だったため幼い時に悪魔の封印を解放するための生贄にされており、目の前で父親自身が媒介となり悪魔が受肉し他の家族や知り合いが犠牲になる凄惨な光景を見ているためだ...そりゃあ憎むに決まってる。
主人公について側近として行動を共にする理由もジル殿下が禁呪を用い悪魔アスモデウスの力を得ようとするのを阻止するためでもあったからだ。
悪魔に家族を殺された後悪魔に憎しみを持って悪魔に魅了された人々を殺してきたが大切な人に出会い、一度は幸せを得られるかと思った所をエルマさんのパッパのせいで間接的ではあるが殺されるという流石ダークなストーリーだけあって彼には重ーい設定があるが、パッパには政治には中立に預言者の父ならば悪い事を行うことのない領主となって欲しいと言ってとても善良で良い領主でいてくれたので、そんな事は無くなったがどうやらその大切な人の出会いが消え去ったのではないか?と思う。
実はちょろっとディビドに聞いてみたのだが、『大切な人なんて私を受け入れてくれた上あんな美味しいアップルパイを焼いて下さるとっても可愛いらしいエルマ様しかいませんよ?』と冗談しか言わないし...うーん。
「エルマ様...貴女は大預言者であり神の代理として罪人に神罰を善良な人々に希望の導きを与える方です...野心を持って悪魔の力を用いようとする者には裁きをもって叩き潰すべきです、その助けとなるのであれば私は敬虔な宣教師にでも罪深い暗殺者にでも何にでもなれます」
え?そのセリフ...シナリオ後半で主人公がコンラート王の息子だと判明した時に忠誠の誓いを立てる時の奴じゃん!信頼度MAXの時の!ラスボス倒した後に後ろから刺される事が決して無いってほっとできる奴だ!いつのまに...アップルパイ貢ぎ過ぎたか?
「暗殺者にはならなくていいよぉ...私が悲しいからさ...あとあんまり危ない事はしなくて良いからね?ヤバいと思ったら逃げてね?」
ちなみにこのセリフ、ガチなので暗殺者にはならないで欲しいので止める。
「私みたいな男にすらエルマ様はお優しいですね、可愛いなぁ...預言者様じゃなかったら絶対お嫁さんにして誰よりも甘やかすのに」
そう言ってニコりと笑を浮かべる...糸目の優男だがよく見るととても整った顔立ちで何というか大人の色気を感じる笑顔で冗談を言う姿がなんかドキドキしてしまう。
「もう!そういう冗談はやめてよ、またマックス氏が怒るから!ね?」
マックス氏の視線が痛い...あれはかなーり怒ってるぞ...
そんななんとも言えない雰囲気の中、修道士の一人が部屋に訪れると、
「エルマ様、ジルヴェスター殿下が来られました!」
ああ...ただでさえ混沌としているのにより一層重い雰囲気が漂ってきそうだ...
マックス氏はいつも通り...いやディビドの件もあってかなり機嫌が悪い...ディビドはぱっと雰囲気をさっき呼び出しに来たような一般の修道士っぽく見せる。格好はほぼ変わらないのに変装スキルすごい。
ディビドはディビドでジル殿下本人を見ておきたいと今回一緒にいる事にした。
ジル殿下を迎える...彼は現在騎士団在籍で実力を付けたいという理由から国境付近で国防を守っている。
現在、筆頭騎士と同レベルの実力を持つらしい。
今回は非番であるが、一応国の要人なので群青色の正式な軍服を着てやってきた。
前々から伸ばしていた髪は三つ編みにし後ろに流している。
いつ見てもキラキラしいイケメンだな...破滅フラグめ...しかも鍛えだしたらより一層イケメンに磨きがかかって眩しい。
「エルマ様こんにちは、前回お会いした時より更に一段と美しくなられましたね...成長と共にとても魅力的な姿を見る事ができて幸せです」
おい、破滅フラグ!確か2週間前に来たばかりだろうが!そんな変わらないから!
「殿下いくらそんな事言っても私が殿下になびく事なんてありませんよ」
あまりにも毎回口説かれるので面倒くさいし、コンラート陛下にも困ると言ったらこちらもちゃんとその様な事をしない様注意するしはっきり断っていいとお墨付きを頂いたので素っ気ない態度をする事にしたのだ。
「殿下も確か18になられるのでしょう?そろそろ婚約者をお決めになられるのが宜しいかと...確か同年代の伯爵家のリヒャルダ嬢はとてもお美しいと評判のようですし、先日お相手を探されているのでご両親が良縁があるようにと祈願しに来られてましたよ?」
そういやぁお貴族様の祈願を頼まれて、噂じゃ綺麗な娘さんらしいしその子すすめとくかと軽い気持ちで話す。
「エルマ様...貴女以上の美しい方などいませんよ...それにあんなアバズレ王族の婚約相手に相応しいとはとても思えませんがね」
「アバズレ...?」
なんかこの人騎士団に入ってから言葉が汚くなってる気がする...
ぽかんとしているとディビドが耳元で、
「エルマ様、アバズレっていうのは性生活に奔放な女の人の事を言うんですよ」
と分からないのかと思ったのか、わざわざ小さな声で説明してくれた...いや知ってるけど...それにしてもやる事なす事ドキリとさせる。
「...ところでエルマ様、いつもの護衛騎士だけでなく今日はその修道士も一緒なんですね」
ディビドの行動が何か気に触ったらしく眉間に皺を寄せる。
「ああ、彼はただの修道士ではなく隣国ウルムからこちらに来ていただいた敬虔な宣教師なんですよ」
「はじめまして、宣教師ダヴィデと申します、ジルヴェスター殿下」
ディビドは修道士や宣教師のふりをする時はウルム発音であるダヴィデと名乗り、ウルム鈍りのイントネーションを隠さないようにしている。
「...最近ウルムでキナ臭い話が出ています...もしかしたらウルムの間者なのではないですか?」
ぎくっ!確かに間者だけどアップルパイで懐柔してしまったエルマさんの忠実な間者ですから...
「ダヴィデ殿はウルムの地で聖典の教えに感銘を受け、わざわざバーレまで来て洗礼を行い宣教師になった信仰深い人物だ!王弟の立場だとしても初対面の人に対して失礼では?」
マックス氏がナイスなフォローを入れてくれる、よし!今度はちみつたっぷりパンケーキ焼いてやろう!
「はは、失礼...そうですよね、エルマ様は預言者で何方が自身にとって味方かどうかお分かりなのですものね...つい職業柄疑うようになってしまい申し訳ない」
「そうですね...」
少なくとも破滅フラグであるお前が一番の敵だがな...未だに予知スキルが警告信号を発している、怖い。
「まぁ胡散臭いと思われても仕方ありませんよね、殿下が気になる様なら私の身辺調査をして頂いても構いませんし」
ディビドは自身の素性を調べ上げても、自身が間者である事は絶対出てこない自信をもっているのかにっこりと笑みを浮かべる。
「...まぁ探ってもきっと無駄なんだろうからしないよ...ただその神殿騎士も気に入らないのに君がエルマ様に近いのは気に入らないな...」
「心配せずともエルマ様は神の花嫁であって、誰の者でもありませんよ...寧ろ毎回お会いする度に口説く殿下から命を賭けてもお守りはしますがね」
ディビドお嫁さんにしたいとの冗談を平然と言うその口でそれ言うか...いやそうじゃなくて双方睨み合ってるんだけどなんだなんだこの異様な雰囲気は!
「で、殿下は母君にお会いになられたのですか?きっと母君もお会いになりたいと思ってますよ、今バザーのお菓子作りを楽しんでますのでそちらに向かわれては?」
とにかくその何とも言えない雰囲気を打開したかったため、アンナさんを持ち出してそちらに向かわせようとする...まぁ名目はアンナさんに会うためですしねー
「はぁ...そうですね、ではまた2週間後に」
そう言って去っていってくれた...やれやれ。
「あれはいろいろダメですねぇ...下心が酷い、目的の女性を囲い込む気満々だ、そう言う目をしている」
ディビドはふむ、と顎に手をかける。
「ああ!分かるんだ!あのスケベ王子の目!」
マックス氏、地が出てる...
「スケベ王子...くくっ!確かにそうですねぇ、聞いてはいましたがまさかあれ程とは」
「ディビドお前の事もあまり気に入らないがまだ弁えてるのは分かる!しかしスケベ王子だけは別格でエルマ様を見る目がエッチすぎなんですよ!僕が一緒じゃなきゃ絶対襲われてるし!」
よくわからないけど二人が意気投合している...やはり悲しいかな古来より共通の敵を作る事が仲間意識を高める方法なのか...
そう思っているとふいにディビドがこちらに顔を向ける。真剣な顔で。
「エルマ様、ジルヴェスター殿下はかなり危険な男です、執着と劣情の度合いがひどい…まるで悪魔が獲物を狙う時にする目です」
「え?」
「なんだって!」
マックス氏と同時に声を上げてしまう。
「悪魔アスモデウスは色欲の悪魔でもあります…だからあのような深い沼のような混沌とした色の目をするのかもですね...封印式のバーレの王の娘と花嫁の契約...バーレの王の娘とは血縁とかの縛りではないのかもしれません」
エルマさん自体は悪魔に乗っ取られた人間を見たことがないが、ディビドはその生い立ちの中見ておりどういうものかがわかっているらしい。
先程の念写画を懐から取り出して見せる。
「まさか、私を指すとでも…でも確かに今でもずっと予知が警告を出し続けているし…」
「さすがエルマ様、殿下の危険性はわかってらっしゃってたんですね、ではこの数年の間に何があったか…ジルヴェスター殿下の身辺を一度探ってみます、何か解ったらすぐに戻ってきますのでお気をつけ下さい…マックス殿、エルマ様を頼みますね」
「当たり前だ、そっちこそバレないように気をつけろよ!」
マックス氏との会話の後ディビドは一瞬にしてまた違う男の顔に変わる。今度は何処にでもいそうな戦士の顔だ。
「いつ見ても変装のスキルすごいね、こんなにガラッと変わっちゃうなんて」
実際は大元の顔立ちが変わる訳では無いのだが、肌色や肌質、髭やシワなどが変わってしまうので全くの他人としか認識できない。ちなみに声色すら変わる。
「とても便利ですよ、変装したクラスのスキルとかそのまま使えるからまず疑われませんしね、年齢もある程度ごまかせますしせいぜい変えられないのは性別くらいです、あ!この顔の時はギディオンと呼んでくださいね」
ディビドは顔やクラスによって名前を変える徹底ぶりだ。以前盗賊のフリをしていた時は悪人風の無精髭の顔でカインと名乗っていた、実際いくつ顔をもっているのだろうか気にはなる。
ただ糸目の優男ディビドの顔はエルマさんとマックス氏くらいしか知らないはずだが、ここまでくるとその顔と名前すら怪しいのでは無いかと感じてしまうが、カスタードクリームたっぷりのアップルパイを頬張る顔が素顔であって欲しいと願う...なんだかんだで暗い過去を引きずるディビドにも幸せになって欲しいのだよ...
ーーーーーー
※ゲーム豆知識
念写術、念写画
火の術式を用いた白黒写真のようなもの、能力が高くなればなる程精密なものになる。
隠密(クラス)
斥候から分岐するクラスの一つ、メイジ経由必須。スキルが豊富。
変装 顔形だけでなく他のクラスに変化するスキル
隠れ身 認識阻害術を使って姿を消すスキル、水と風の高位術必須
二刀流 斥候クラスから引き継ぐ、両手に武器を装備できる。
因みに術式付与はディビドのみの固有スキル。使える人は少ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます