2章 禁呪の解放と悪魔フォロカル

第1話


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それから3年がたったある日の事


久々にディビドが戻って来るのでお手製カスタードクリームたっぷりアップルパイを用意して待っている、ディビドは何よりこのアップルパイに目が無く何より喜ばれるので戻って来る時は労いのため必ず用意している。


ディビドが完全に信用に足る人物と判断し、一つ大きな事案をお願いした。


そうこれから起こるであろう禁呪の解放だ。


禁呪とは生贄を持って悪魔の力を解放させを用いる強大な力を指す、場合によっては禁呪を用いた人物自体が悪魔そのもの受肉の媒介になってしまう恐ろしいものだ。


これから国境近くで紛争があり、その紛争の最中にジル殿下が禁呪を解放するはずなのである。


禁呪は隣国ウルムの国境近くにある遺跡に封じられているはずで、場所も分かってはいたが立場的にそこに直接向かうのにはハードルが高くどうすべきかと手を拱いていたが、ディビドがその役を買って出てくれた。


「ただ今戻りました...ああっ!アップルパイ!」


部屋に入流や否や、宣教師の黒いローブを身につけたディビドはアップルパイに対し糸目なのになんか目がキラキラしている気がする。


「本当に好きなのねぇw食べきれなきゃ持って帰れるようにするから!暖かい内に食べて食べて」


「エルマ様のお手製アップルパイ!もうこれのために仕事していると言ってもいいくらいです!いただきます!」


ディビドは美味しそうにアップルパイを頬張る。

その姿を見るととても裏で汚い仕事をするタイプには見えない、驚くべきギャップである。


「それは言い過ぎだよ、ディビド...ところで例の遺跡の件どうだった?」


ディビドがアップルパイ1ホールの半分を平らげたあたりで声をかける。


ディビドにはジル殿下が封印を解くであろう禁呪の遺跡へ足を運んで貰っていた。


前もって隣国ウルムの研究機関に忍び込んでもらい、エアヴァルド側にあった石碑(ちなみに地下墓地にあった墓石を使って偽造した)にその場所に遺跡がある可能性を匂わせて調査団を結成させてそこへ向かうように仕向けさせた。


ウルム側にも知らせておくのは危険性を認識させ他国の王族であるジル殿下が勝手に入ることを禁止させるためである。


場合よってはエルマさん本人が出向いてその禁呪を暴かせないように更なる封印をかけるか何とかして禁呪そのものを葬るかをするつもりでもあった。


禁呪は膨大な力を生贄をもって手に入れる呪いである、ラスボスであるジル殿下がある一定の攻撃を受けた後、最終的にそれ飲み込まれ『大悪魔アスモデウス』の受肉の媒介となってしまうからだ。


禁呪は大概は翡翠石の書き板に古代ウルム語で記載されており、大概は血の契約をする事で使用できるようになる。


ディビドはアップルパイを食べる手を止める。


「エルマ様が指し示した場所に発掘調査の学者のフリして向かいましたら遺跡を確かに見つけました...エルマ様に言われた通りに一応ウルム王国の研究所にも報告はしておきましたが...」


少し考え黙った後、再度話始める。


「その場所は洞窟の奥底にあったかなり古い...もしかしたら聖マーシャの時代のものかも知れません、とても大きな神殿でした、中には禁呪の封印と思わしき形跡がありました...しかしもう既に暴かれた跡があり、封じられていた禁呪の書き板は無くなってました」


手帳を開いて砕かれた封印式を組み直した物を念写術で羊皮紙に写された白黒の念写画を見せる。


念写術とは火の術式と組み合わせたもので、術者の見たそのままの姿を羊皮紙に焼き写す術だ。


術士の能力が強ければ強いほど細かくはっきりとした念写ができるのだが、細かい古代ウルム文字の一つ一つがはっきり分かる。


ディビドは隠密の能力だけでなく、高位術を使えるアークメイジの能力も持っている。

やはりできる男だ、スカウトして正解だな。


「この複雑な封印式なら血の媒体の用意も含めてアークメイジ以上の...それこそ賢者クラスの高位術士でも簡単に解除できないはずなのに...一体誰が?」


封印式は古代のものとはいえかなり複雑で、詳しい所はもっと調べないとわからないが、ただ見ただけでもかなり高度な物だとわかる、やはりアスモデウスは強い悪魔なのだろう。


「古代ウルム文字の解析をしないとなんともですが、ここを」


ディビドが指し示すと古代ウルム語で『バーレの王』と書いてあるのがわかる。


「バーレの王...我が国エアヴァルドや隣国ウルムではなくて?聖典でもバーレの王なんて記されていないのに...教皇様は投票制だから血縁とは関係ないはずだし...」


ふと頭に過ぎるのは聖典前の時代、導きの預言者マーシャがバーレの地に民を導き入れる前の時代にまで遡る。


「聖マーシャが『呪われた民』との神託を聞き、神罰である絶滅の雹を降らせた滅した旧バーレの民の王って事なのかも...そんな時代のものだったなんて...」


聖典には導きの預言者マーシャはバーレに民を導き、以前からいたバーレの邪悪な民を滅ぼす記述がある。


旧バーレの民は強欲で暴力で淫乱であり、大悪魔アスモデウスを崇拝し罪なき子や女を生贄に何千人も淫行と血で大地を汚したが故に神に断罪されバーレ全土に10日にも及ぶ神罰『絶滅の雹』を降らせ滅ぼしたのだ。


ちなみにこの記述は有名な一節で王妃を脅す時にも『バーレの地を罪なき血で汚す行為』として断罪した。


しかし『バーレの王』の子孫が残っているのか?

エアヴァルド王であるコンラート陛下やジル殿下は祖先がマーシャが導いた民の血族なのでバーレの王とは言えない。


ウルムはウルムの民で旧バーレと親戚関係にはない。


「古代ウルム語を解読して何が書いてあるのか調べておきます...ツテもありますので」


ディビドはそう言って紅茶を一口飲んでまたアップルパイを頬張り始めた、このまま1ホール一人で食べきるつもりだ。


何故...謎が深まるばかりな上、解除したのは誰か...それも突き止めなければならなかった。


ふとディビドの顔を見ると満足そうな表情で頬がクリーム塗れになっている。


「ふふっ!ディビド、頬がカスタードクリームだらけになってるよw」


「おっと!ついつい美味しさのあまりに夢中になってしまいましたので、はは」


頬のクリームも親指ですくい取り舐めだす。どれだけ好きなんだかw


「これあげるから口周り拭きなよ」


そう言ってハンカチを渡すとディビドは口周りを拭く。


「いやぁアップルパイ美味しかったです!こんな美味しいアップルパイ作れる可愛らしいお嬢さんが預言者でも貴族でもなければ速攻口説いてお嫁さんにしたいくらいですよ!」


と言った途端、近くにいたマックス氏がディビドに殺気を放つ。


「間者の分際でエルマ様を口説くなどど!言って良い事と悪い事を弁えろ!」


マックス氏は低い声で怒鳴る。


「素敵な女性を褒める事の何が悪いんですか?」


ディビドはニコニコしながらマックス氏の方に顔を向ける。


どうにもマックス氏はジル殿下みたいにエルマさんに冗談でも口説いたりするタイプの人間を蛇蝎如く嫌う所がある。


「まぁまぁマックス氏、ディビドはただからかっただけだよ、それにマックス氏にもお菓子作ってあげるから!好きでしょ?マドレーヌ?ね?あとディビド、できればあまりからかわないでくれるかな?」


「ええ、あまり彼とも険悪になりたくないですからね、ではまた古代ウルム語の翻訳終わりましたらお伺いしますね、エルマ様」


そう言ってディビドはニコニコしながら部屋を後にする。


「エルマ様もっと気をつけた方が良いですよ!最近スケベ王子だけじゃなくてディビドや巡礼にくる男共もエルマ様をいやらしく見てますもん!狙われてますよ本当に!」


「でも私に勝てる人なんてそうそういないから大丈夫だよ~」


そう、レベル60までいったエルマさんはめちゃくちゃ強いのだ!筋肉こそ正義!レベル40くらいの戦士なら殴り飛ばして気絶くらいはさせられるwとは言っても体力等はそこそこで神罰系の奇跡が群を抜いて強すぎるだけだから同程度のレベルの戦士職には気をつけなきゃだけどせいぜいマックス氏くらいしかいないからね。(ちなみにマックス氏もレベル60)


大概蝗の災厄でやっつけちゃうしw使い勝手がいいしみんなビビるからねw


「...そう言う問題じゃなくて...ふぅ...全くご自身の魅力を全くわかってないんだから...」


その時ボソリとマックス氏がそんな事を呟いていたのは全く気がつかなかった。


「禁呪の書き板が無くなった今、何処に有るのか分からないけど一番怪しいのはジル殿下の可能性が高いから、今度ディビドにジル殿下の近辺を探るようにお願いしないとね...」


ただここ最近ずっと週一でやって来るジル殿下に隣国の遺跡に行くような時間もあるのか...そもそも『バーレの王』に関する血などの触媒をどう調達したのか疑問がずっと残っていた。


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※ゲーム豆知識

アップルパイ

カスタードクリームの入ったタイプのアップルパイはエアヴァルド北部の伝統のお菓子、ディビドの好物。一つ上げる毎に好感度が10くらい上がっているのでは無いかと疑惑がある。


禁呪

ゲーム上ではラスボスであるジル殿下しか使っていなかった。

翡翠石の書き板の姿で、身体に取り込まれると悪魔の力を用いて使う術を使うことができるため禁呪と呼ぶが実際は悪魔の心臓であり、受肉の媒介を狙って禁呪を使用する者の肉を用いて復活しようと虎視眈々と狙っている。


悪魔

邪悪な存在で人類の敵であり誘惑者。

エアヴァルド国外などでは神として崇められている場合もある。



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