第4話

エルマさんとマックス氏2人で馬にそれぞれ乗って王都まで半日を費やし、王都の寺院で一日休んで疲れを癒す。


冒険者のローブから正装でもあるオラクルローブに着替え、ちょっと汚れてしまったエクソダスロッドを磨いてピカピカに磨いている。


「過越の守り石をああいう風に使うのエルマ様だけかもですよねー」


「まぁその方が安全だしねー、でもちょっと心配はしたんだけどね、殿下が護衛達に渡してなきゃどうしようって」


実は神罰系の全体攻撃の奇跡(裁きの鉄槌は単独だし蝗の災厄は一直線のライン攻撃なので別)を起こす際コントロールはできない...簡単に言うとその場にいる敵味方関係なく善行値が低い全ての人に臨んでしまう全マップ兵器であるからだ。


これは自身の意思ではなく、神の意思によるものだからである...という理由だが強大なマップ兵器にリスクが付き物、きっとゲームバランスをある程度考えての製作者側の配慮だろう。


それを避けるためのアイテムが『過越の守り石』

である。(ちなみにアイテム装備欄は一つ減る)


つまり過越の守り石でジル王子達に被害を一切及ばないようにし、思いっきりエルマさんが暴れたのだ!


ちなみに過越の守り石は預言者マーシャが虐げられし民に神罰を民に臨まないための家の門に書き込ませた印を元にしたアイテムだ。


ちなみに中の赤い印の元は子羊の血である。

(ちゃんとお肉は修道士たちとラム肉パーティーと称して美味しく頂きました)


そう、神罰を過越させるためだけの印でそれ以外になんの力も持たない石なのだ!


「さぁて王妃と王を〆ましょうかね!」


ロッドを肩にトントンと叩きながら立ち上がる。


エルマさん的には夫の務めも果たさず王妃を放って置いて無理矢理囲った愛妾に入れ込んでいた王も同罪なので王妃も王も引きずり落として王太子であるコンラート殿下をそのまま王に即位させる!


まぁ本来なら今回の事件でジル母が自害しそのショックで一年後王が崩御しコンラート殿下が即位する流れだ。


コンラート殿下自体は悪政を敷くタイプでもなく、ジル殿下が王位の簒奪を狙わなければ長く安定した治世を与えるはずである。


昼過ぎに王城に許可を得て(教皇様とヘルムートおじさまのサイン入り許可申請書もちゃんと持ってきた)入り、王と王妃に謁見を取り付ける。


王と王妃が謁見の間に現れた!演技の始まりだ!


「王妃よ!昨年神よりの神託をお忘れか!」


シャン!とエクソダスロッドを2人に向け怒りを込めた声で叫ぶ。


「聖なるバーレの地をジルヴェスター殿下と母君の血で汚そうとした罪を!」


正確にはギリギリ入ってないけど入った事にしとく。


「あ...アンナとジルは!大丈夫なのか!」


「今頃バーレ枢機卿であるヘルムートの庇護の元バーレの安全な場所におります、愚かなる王よ」


「は?証拠は?証拠はあるのかしら!」


「証拠ならここに!」


懐から今回の事件のやり取りを記した用紙、蓄音石なるちょっとした音や会話を蓄音する性質があり、ボイスレコーダー代わりに出来る細長の見た目普通の石を取り出す。


ちなみに蓄音石はゲーム内のサントラを聴くためのアイテムである(都合がいいよなぁとか思ったけど)何気に音楽聴いたりするのに便利なアイテムだ。


蓄音石に再生を命じ、蓄音した音を流す。


『ああ忌々しい!あの売女の息子!あの売女が王の寵愛を受けてるから?コンラートより優秀だなんてっ!』


『お可哀想に...ならばあの売女と第二王子に暴漢でもけしかけて2人とも慰みモノにでもすれば良いでは無いですか?』


『へぇ面白い事を思いつくわね?』


王妃と男の声で今回の企みの一部始終、なんとも胸糞悪い会話は続く。


これは王妃が隣国に里帰りしていた際の王妃の親族の公爵家の三男坊で愛人の男との高級宿での密会の内容で例のツテで手に入れたものだ(オメェ有能すぎじゃね?と隣国の宣教師にツッコミを入れたかったが...その内にスカウトしよう)


王妃の顔は真っ青だし、王は怒りで真っ赤になっている。


まぁ王はジル母に入れ込んでて今でもまるで娼婦のような格好をさせられ夜の相手をさせられている話(あまり聞きたくはないが蓄音石にその辺の赤裸々な話が情事の間の声と共にずーっと入っていた...うげぇ)らしいからねぇ...


「あとバーレで今確保しているジルヴェスター殿下と母君を襲おうとしていた輩も証言者として近々王都へ寄越す予定です、訛りから王妃の国からの傭兵崩れも多数いるみたいですね」


マックス氏が追加で伝える。


王妃にロッドを向ける。


「愚かな王妃...一年前に私が述べた神託を覚えているか?」


「...な...なんのこと?」


「強欲ゆえに嫉妬に狂い邪悪な企てを起こすなら貴方に蝗の災厄が降りかかると...」


ガサガサ...と王妃の周りに音がする。


「ひぃっ!」


どこからとも無く無数の蝗が王妃の周りを囲うように飛び交い始める。


『強欲な者よ!その強欲ゆえに邪悪な企みをくわだてる者よ、その心を神は憎まれる!その者の所有物は全て蝗によって食い荒らされるであろう!』


蝗の災厄の別の一節を読み上げる。


「ぎゃああああああ!」


蝗は一斉に王妃に襲いかかり、絹のドレスを食い破り、アクセサリーを粉々に噛み砕き、肌には噛み傷を無数につける。


王や周辺の近衛兵達はあまりの恐ろしさにただただ固まって見守るしか出来なかった。


蝗が去ると、見るも無残なボロボロの姿になった王妃が泡を拭いて気絶し倒れた。


「神罰...」


王は真っ青な顔をしながらぽつりと呟く。


「...王よ...聖典には夫は妻に夫としての務めを果たすようにと述べられていますが、それを怠った故にこの事態を引き起こした事は到底許されざる事...」


今度は王にロッドを向ける。


「しかし神は寛大な方、悔い改めよ!王妃と夫婦の誓いをたてたなら最後まで夫として務めを果たせ!そして即刻退位し王太子であるコンラートを即位させるならば慎ましくではあるが安寧を得られるであろう!」


「大預言者エルマ様...私は王妃よりもアンナを愛しているのだ...彼女ではダメのか?」


「くどいっ!そもそもの原因をお忘れかっ!王よ王妃を蔑ろにし、弱き立場の女性を無理矢理囲い込む事が罪だと言っているのだ!その結果、王妃の嫉妬が生み出され聖なるバーレの地が汚れ呪いを受ける所だったのだぞ!」


浮気ダメ!無理矢理囲うもダメ!絶対!えりかさんだった時も倫理的にNGだったし聖典にも1人の妻に愛を示しなさいって書いてたしね!エルマさん間違ったことは一つも言ってないよ!


「ひぃっ」


王は情けなく怯むと被っていた王冠がゴロリと落ちる。


「だれか!コンラート殿下をこちらに!」


そう近衛兵に言うと大急ぎでコンラート殿下を呼びに走り出す。


「大預言者エルマ様!」


後ろから声が聞こえる、振り向くとコンラート殿下が大慌てで謁見の間に駆けつけてきたようだ。


ロッドをマックス氏に預け王冠を拾い上げてコンラート殿下の元へ足を運ぶ。


「コンラート殿下...神は貴方を王に任命されました...」


「私はバーレの地を汚そうとした罪深き母の子...むしろ美しく有能なジルヴェスターの方が王にふさわしいのではないでしょうか?」


「いいえ...神は貴方こそ王に相応しいと判断されております...どうか決断して下さい!」


そう言うと覚悟を決めたのかコンラートは跪き、頭を垂れる。


ややくすんだ金色の頭に両手で王冠をそっと乗せ、演出のため祝福を行う。


ふわりと次代の王が光り輝く姿は周辺には神々しく見えるだろう。


「なんと神々しい...」


周りがざわざわと騒がしくなる、そうそれでいいのだ、この姿が噂となりコンラート陛下こそが神が選んだ王だと多くの人々が認識する事こそ大切なのだ。


コンラート陛下が長く生きて統治をする事こそ双翼戦争が起こらず平穏を得られるはずなのだから。


だから暗殺など決してさせはしない...王弟となるジル殿下が王位を簒奪させる原因を取り除くことはできた、後はジル殿下が野心を抱かずコンラート陛下と仲良くし、統治する事が大切なのだ。


「新たなエアヴァルトの王コンラート陛下...どうか弟君であるジルヴェスター殿下と手を取り良い支配者となって下さい...」


これはどちらかと言うとエルマさんの願いだ。


しかしこうも上手く事が運んでいるのに未だに予知スキルが警告音を鳴らしているのが気がかりだった。


ーーーーー

※ゲーム豆知識

蓄音石

ゲームのサウンドテストで使われているアイテム。

本来なら『蓄音石 オープニング』と言った感じで表示される。


蝗の災厄(イナゴノサイヤク)

神罰系の奇跡の一つ、一直線に攻撃をする術で何百何千の鉄すら噛み砕く蝗が敵を襲う。DEF(防御力)とRES(抵抗力)大幅にダウンさせる、打撃と聖属性の術。見た目はかなり怖いので襲われるとトラウマを受ける事必須。


神罰の雷(シンバツノカミナリ)

神罰系の奇跡の一つ、周辺一帯に雷を落とす神罰、敵味方関係ないので扱いには注意が必要。

雷と聖属性の術、感電付与、3ターンは動けない。


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