第3話

「エルマ様とお近づきになりたく思いまして」


流石にジル殿下を邪険に扱うわけにゃいかず、対応するけどなんで毎回エルマさんの甘い言葉をかけてくるのだ...怖い


そんな感じで一年くらいも続いてたらいつの間にか名前呼びに変わったし、毎回お土産と一緒に青い薔薇持ってくるのやめて欲しい、それだけは受け取れないって突っぱねるけどさぁ...そして自然と身体に触れようとするの本当辞めて欲しい...まぁその都度マックス氏が妨害してくれるけどね!


「殿下...お分かりかと思いますが私は5歳の時に神託を受けて以降、神の花嫁として純潔を捧げている身なのです、見目麗しい殿下のお気持ちは嬉しいのですが、どうかこのようなお戯れはお辞め頂きたいのです」


流石に言わなきゃならぬが、できれば角の立たないように好意は理解するけど神様の手前無理だよってやんわりと断りを入れる。


「以前もお伝えしましたが、ジルヴェスター...いいえジルとお呼び下さい...それと聖典では聖職者の婚姻もそうですが、歴代の預言者様の何人かは世帯を持ってらっしゃったそうではないですか?なぜエルマ様だけ神の花嫁としての神託を受けたのでしょうかね?」


そう...実はトラウゴット教そのものは聖職者自体は結婚しても良いし(教皇様なんて孫が10人いるからね!)預言者の中にも結婚して子供がいる記述もある。1番有名な導きの大預言者マーシャも結婚して子供が5人いる記述もあるのだ。


つまり神自体が純潔を強要する事がないしその記述もないのだ!


だが中には純潔を保つ事を誓い祝福を受け預言者になったジョシュアの例もあったので怪しまれないと思ったのに!


くっそこの一年のうちに聖典読み漁りやがったな、破滅フラグめっ!もしかしてだけどゲーム中でもなんかヤンデレっぽいなぁって思った事もあったけどヤンデレ?ねぇヤンデレなの?怖い!


「あと私の気持ちを嬉しいと言っていただき心が躍るようです」


そう恍惚とした表情でエルマさんを見つめてきた!

しかもエルマさんの断り文句を自分に良いように解釈しやがったぞこの王子!


「たとえ王族とは言え神に愛されし大預言者であるエルマ様の聞いた神託に疑問を呈すとは何たる不敬な態度かっ!ここは神聖なるトラウゴット教の総本山のアルトマイヤー寺院である事をお忘れかっ!神と預言者様に対する最大の侮辱行為と捉え、教皇様を通して正式に抗議を入れさせてもらうぞ!」


流石に不敬な内容にマックス氏がエルマさんの前に立って苛立つ声で抗議する。


身長もとうとうエルマさんを超えた上(きっと160センチくらいになったかも)、声変わりもしてしまったのでなんか怒った声にドスが効いてる気がするわぁ


なんだかマックス氏一年の内に立派になったなぁ、エルマさん感動だよ!


「今回のお話は目を瞑ります...ただ今後神託に対し疑問を呈するならたとえ王族であってもアルトマイヤー寺院...いえこのバーレの地に足を踏み入れる事を私が許しません!ご理解下さいジルヴェスター殿下」


「...少し疑問に感じた事を聞いただけのつもりでしたが不快な思いをさせて申し訳ありません...エルマ様...」


深々と謝罪を述べるが本心は分からない。


「私がではなく神に対してです...ただ神は広い心の持つ方で人は間違えるものだと知っておいでです...悔い改めるなら間違いは許されるでしょう」


一応フォローしとく、付かず離れずでの対応は肝心!突っぱね過ぎも危険だしね。


「ありがとうございます...ここに来て貴女に会えなくなる事ほど苦しいものはないので」


目を潤ませている...いちいちなんか言う事がヤンデレ臭くて怖いわぁ


そんなこんなで長い時間対応してやっとこ帰ってくれそうな感じになった...いやぁ疲れる


「では私は今回はここで退散しますね、そうそう来月、母と共に巡礼のためお伺いします、母はとても信心深いのでエルマ様に会いたいと常々言っておりまして、城に来ていただいた際にお会い出来たら良かったのですが何分母は身分が低いため公の場に出る事が出来ないため是非お会いできる機会を作って頂ければと思います...宜しいでしょうか?」


そうジル王子が語ると大きく予知スキルが今までになく大きく鳴り響く。


「!」


頭が痛いくらいだ、ああ、きっとジル殿下が簒奪王としてのきっかけを作る事件が来月ここに向かう際か帰りの道中で確実に起こる!


もし巡礼を行わないとしてもそれ以外の方法で起こる可能性を考えると実際に潰しとかないとダメだ!


「殿下、来月こちらに向かう際に殿下や母君や従者に必ずの石を持ち歩いて下さい...道中の危険を過越てくれる守りです」


懐から小さい皮袋を取り出す、前もって作っておいた瑪瑙に似た半透明のツヤツヤした白い石に赤く印を術で埋め込んだ守り石を8つ出して渡す。


「わざわざこのような物を...ありがとうございます」


ジル殿下は石を受け取ると愛おしいように一つ一つを見つめ、親指で触り心地を確かめるように滑らせる。なんというかその動作一つ一つが艶かしいのは美形のせいなのか...背筋がざわざわするのは予知の信号がうるさいせいだと思いたい...


「殿下と母君の道中平安がありますよう祈ってますね」


そう言って微笑みを崩さないようにしながらジル殿下を見送る。


「それにしてもあの王子いちいち言う事やる事がいやらしいですね!塩でも撒いておきましょう!!ああ汚らわしい!」


マックス氏はジル殿下が見えなくなったあたりで急にイライラしながら何処から出したのか塩の入った壺から塩を掴んで寺院の門周辺にばら撒く。


ちなみに塩で清めるのはこの世界でも同じであるw


「でもあれは過越の守り石ですよね?あれ自体お守りでもなんでもないじゃないですか、なんで渡したんです?」


マックス氏が壺を抱えたまま片手で渡したものと同じ石を紐で括ったペンダントを取り出し尋ねる。


ちなみにマックス氏の石は他のものよりやや大きめにしている。


「まぁ今回は私自ら出向くからねぇ...」


「ああ...なるほど!ってええ!」


マックス氏は何をしようとしているのが理解したらしい、さすが我が相棒!



ーで1か月後


その日は天気が悪く、一日中今にも泣きそうな曇り空だった。


王都からバーレのアルトマイヤー寺院まで馬車で片道ほぼ一日かかる。


基本舗装された道ではあるが、何箇所か人通りも少なく森や林の薄暗く盗賊などが潜む場所もある。


ただ最近はエルマさんがヘルムートのおじさまを焚きつけバーレ領内に関しては神殿騎士の巡回を厚くしている。


もちろん王都からの巡礼者に被害が及ばないようにする為である。


「バーレ領とギリギリのこの位置...このあたりが怪しいと睨んでいたけど...わっかりやすいなぁ」


エルマさんいつもの司祭服ではなく術士系冒険者が着るローブを身につけ、片手にはエクソダスロッドを肩にかけるように持ち、もう片方で持ち歩きできる小さな望遠鏡で悪党が潜んでいる古い小屋を覗き

見る。


実は一年くらいも前から色々調べ上げ、王妃の母国ウルムにもいる司祭や宣教師(隣国ではトラウゴット教は国教ではないが寺院は幾つかある)のツテで情報を引き出した。(ちなみに宣教師の1人が間者として有能すぎて何者だとツッコミを入れたい人物がいた)


王妃と隣国のタチの悪い傭兵との取引の情報もそこから手に入れ、後はギリギリの所でその雇われた傭兵達を縛り上げる予定である。


「エルマ様がわざわざ出向くほどの事何ですか?これって」


「この目で破滅フラグが折れる所を見ないと心配でね」


「破滅フラグ?」


そう、実際にその現場を押さえ込み王妃に引導を渡すまでやらなきゃならぬのだよ...マックス氏...


「動き出したな...さて悪党に裁きの鉄槌を喰らわせましょうかね?」


望遠鏡を懐に戻し気付かれない距離を保ちながらマックス氏と悪党共を追う。


ーーー


第二王子ジルヴェスターの母であるアンナはとても艶やかで美しい人だ。


15才の息子がいるとは思えないほど若く美しい、男が好みそうなスラリとしながらも出ているところは出ている豊満な体型、淡い銀色の髪とアクアマリンの様な瞳の人だ。


今でも王の寵愛を一心に受けている愛妾、元々はベッドメイクなどの仕事をする立場の低いメイドだったのがその美しさのせいで王に見染められ、無理矢理妾にされた女性...


アンナは嫉妬による王妃による嫌がらせ行為ゆえ、心のより何処が王との間に生まれたジルヴェスターのみとなっていたが、大預言者エルマが心を砕き王妃に進言した事を聞いて是非とも会ってお礼を言いたかった。


息子であるジルヴェスターも預言者エルマ様は素晴らしい人だと崇敬しており毎月わざわざバーレの地まで足を運んでいる。


なので王に頼み込み巡礼をさせて欲しいと一年ずっと頼み込みやっと許可を得ることができ、とても楽しみにしていた。


巡礼なので王が好む肉感的でまるで娼婦が着るのではないかという様な胸の開いたドレスではなく、淑女が身につける簡素な臙脂色のワンピースを見に付けていた。


馬車が急に止まり、外が騒がしくなる。


「母上...そのままでいて下さい...何かおかしい」


ジルヴェスターは腰に帯びた剣に手をかけ外を見やる。


一応従者や護衛も連れているが、王妃の息のかかっている可能性もある、ジルヴェスターは全員を信用はしていなかった。


よく見ると何人もの下品な感じのする傭兵の様な男達が馬車を囲んでいる事に気がつく。


傭兵崩れの盗賊...数が多い、せめて母だけでも助けられないか...とジルヴェスターは思案する。


そんな中大きな稲光が空に走った。


『邪悪な者!神に逆らいし傲慢で強欲なる者!淫行に耽る愚かなる者よ!神は望まれた!天よりの裁きを身に受けよと!』


澄んだ少女の声で聖典の一節、『神罰の雷』が書かれた句を読み上げられる。


バリバリとまるで天が裂けるような大きな音が響き渡った。


ドォン!と何度か近くに落ちる音が響く、耳がつん裂くほどのものだ。


ジルヴェスターとアンナは耳を塞いでいたが落ち着いたかと思い再度窓の外を見ると周囲を囲んでいた傭兵崩れが身体が感電したのかピクピクしながら倒れていた。


「雷が落ちた?しかし馬車は無事のようだ...」


ジルヴェスターは馬車から出て周囲を見回す。


「母上はここでじっとしていて下さい...」


アンナはこくりと肯く。


ジルヴェスターと共にいた護衛達も目の前に起きた出来事に驚いている。


「ひぇぇ」


仲間が雷に打たれて失神している中、あまりの恐怖に身を竦ませた傭兵崩れがまだいた。


『神に敵する邪悪な者よ!蝗の軍勢は邪悪な者の領地を食い荒らす!残るものは何もない!』


蝗の災厄の一節が聞こえる、どこからとも無く周辺に大量の蝗が現れ、傭兵崩れに更に襲いかかる。


その蝗は一匹一匹大きく、鉄をも砕く顎を持つ。


傭兵崩れの装備を食い荒らし、肉に噛みつき、精神に甚大なトラウマを与えていく。


傭兵崩れ達の阿鼻叫喚が響くもジルヴェスターや護衛達には一切蝗は見向きもしない。


「一体何が起こっているんだ!」


護衛の1人がその光景を唖然としながら見る。


蝗の軍勢があらかた傭兵崩れ達を食い荒らしたら一斉に何処か去っていく。


傭兵崩れ達は装備も身体もボロボロ、戦意も喪失状態でぐったりしている、死者は居ないようだ。


「聖典の一節と共に襲いかかる自然災害...神聖言語を極めた者だけが使える『神罰系』に該当する奇跡...現在使用できるであろうと言われている方はただ1人と聞いてましたがまさかこの目で見ることができるだなんて...」


ジルヴェスターがじっと正面を見る。そこには深くフードを被った術士のローブを見に纏った少女の姿が立っていた。


「わざわざ出向き助けて頂きありがとうございます...エルマ様」


跪き、深々とジルヴェスターは礼を述べた。


「ジル?その方が?」


アンナは馬車から出てジルヴェスターの元に駆け寄る。


ジルヴェスターはアンナに肯く。


フードを取り、その美しい顔を表に出す。


ライゼンハイマー侯の一族の血が濃く出ている、ピンクダイヤモンドの輝く瞳、淡いグリーンの髪は神に仕える女性らしく肩にかかる程しか伸ばさない。


元は侯爵家の令嬢であったが5歳の時点で神託を聞き、貴族の地位を捨て神の花嫁、預言者となった少女...


「数年前からお二人が襲われる事...国の安寧のためにそれを止める様にと神の神託を受けておりました...ただジルヴェスター殿下と母君...もう少し穏便にカタをつける予定でしたがこちらの不手際で怖がらせてしまい申し訳ありません...」


「いいえ!まさか大預言者であるエルマ様直々に助けて頂けるなんて...ありがとうございます」


アンナも跪き自分の息子より歳の下であろう少女に頭を下げる。


「今回の一件は神託を無視し嫉妬に狂った醜い女の仕業です...女とその夫たる者には罰を受けるようにと神は望んでおられます。暫くお二人はバーレで保護致します...何分王城と違い質素かも知れませんが十分におもてなしする様にヘルムートに言ってます...」


エルマの元に何人もの神殿騎士が集まり、倒れた傭兵崩れを縛り上げ始める。


エルマは数名の神殿騎士に声をかけ、ジルヴェスターにバーレまで護衛するよう指示を出す。


「では数名の神殿騎士に護衛させますので殿下はまた馬車へ」


「エルマ様は一緒では無いのですか?」


「私はこれから王都へ向かい、王太子に神託を伝えなくてはならないのです...」


「ではご一緒に!」


「いいえ...今殿下に王都へ戻るのは危険なのです、ご理解下さい」


そうエルマは断り、マックスと呼ばれる専属騎士を呼び馬を用意させる。


「殿下、直ぐにおわりますのでぜひ親子水入らずでバーレで羽根を伸ばして下さい」


そう微笑みながらエルマは言って去っていく姿をジルヴェスターはじっと見つめていた。


その息子の姿を見て母であるアンナはぞっと背筋が凍った。


あの情熱的も獲物を狙うようにも見える、深い深い海の底の様な仄暗い青い瞳...その昔王がアンナに向けたあの瞳と同じものだったからだ。


まだ15になったばかりの息子が愛情というより執着、そして深い嫉妬と劣情で青い薔薇の咲き乱れる庭の一角で無理矢理蹂躙したあの男と同じ目を大預言者、神の花嫁とされる少女に向けている事実に...


ーーーーー

※ゲーム豆知識

過越の守り石

神罰を過越すためのアクセサリー(アクセサリー枠が一つ減る)

味方が神罰系の術に巻き込まれないためのアイテムであるが、ゲーム終盤で神罰を使うかアクセサリー枠を取るかでプレイヤーはいつも悩まされる。


古今東西塩は清めに使うものです!


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