第2話 選士

 「危ない!」

 

 咄嗟にバルバラに押され、モノクロは倒れ込んだ。

 この時、一瞬の出来事がに感じる程に、時間の経過が遅かった。特に、黒マントの少女が、バルバラの胸部を切り裂く場面は特出していた。


 「おっと…誰かと思えばとんだ邪魔が入ったね。」


 『バァルヴァラ!』


 モノクロはバルバラに向かって叫んだ。

 しかし、大量出血でうつ伏せに倒れ込む少女バルバラはピクリとも動かない。


 「千年待ったんだもん…じっくりなぶり殺してあげる。」

 

 この黒マントの少女は何を言っているのか。

 皆目検討もつかない。

 肩に担いでいる両刃斧を振り払い、刃先の血を飛ばしている。

 モノクロがバルバラの腕を触ると、体温が氷のように感じられた。


 『まずい…。』


 「他人の心配してる場合? 余裕だね…モノクロ!」


 黒マントの少女は怒っている。

 辺りはすっかり日が落ちとても暗いが、赤い眼が闇夜に煌めいている。

 

 『お前は一体何者なんだ…』

 モノクロはパンドラの箱を開けるように、そっと問いかけた。


 「冥土の土産に思い出せ。私の名は…Yワイ

 黒マントの少女ワイは、不服そうに両刃斧を持ち替えながら言った。


 『お前はどんな目的で俺たちを襲うんだ?!』


 「そんなの…あんたが一番分かってんじゃない?!」


 Yは今にも斬りかかって来そうだ。

 さっきとは比べものにならない程、殺気のオーラが漂っている気がする。

 逃げたい。

 死にたくない。

 せっかく人間になれたのだから、まだやりたい事は山ほどある。しかし、俺を庇ったバルバラを見捨てるわけにはいかない。

 何故なら人間になって初めて出会い、会話をしたから。

それに、命の恩人を放置して逃亡するほど道徳モラルが欠如してはいない。

 だがしかし、死への恐怖心は、深層心理の中で大声を上げている。

 もし、死んでしまったら存在は無へと回帰するのだろうか。

 それとも、人間以外の何者かに生まれ変わるのだろうか。


 モノクロが思索を巡らせていると、目の前に再び二つの紐が現れた。


 『またこの紐か。』


 左右異なる色の紐だ。右紐には赤色で「勇気」の文字、左紐には黄色で「逃避」の文字が刻まれてある。


 『どちらかを引けというのか。』


「いっくよぉ!」 Yがそう言うと、姿が消えた。


これはまずいだろう。

動きが速すぎて、目視できないのだろうか。

多分早く何か手を打たないと、バルバラのように斬撃を浴びせられる。

今、はなんだ。

人間になったばかりの俺に、できる事はもう限られている。故に、解は既にでているのだが。

 得体の知れない紐に、命の行く末を委ねて良いのだろうか。

 だが、そんな世迷言を考えている余裕などない。

 今直ぐにでも殺されるかもしれないのだ。

 覚悟を決めろ。


 『俺は、を選ぶ!』

 モノクロは、赤い右紐の勇気をひいた。


 選んだ根拠を聞かれたら、そんなの単純だ。

 今の俺には勇気が必要だと思ったから。

 重傷を負ったバルバラをYから守り切る勇気が欲しかったから。


 「今度こそ死ね!」


 「ザシュッ!」

 Yが姿を現し、両刃斧で斬りつけるとモノクロの体を貫通した。しかし、破れたのはコートだけでモノクロの体は傷一つ無い。


 「まさか…。」 

 Yは眉間にシワを寄せ舌打ちをすると、また攻撃を仕掛けてきた。


 『そこか。』

 「私の動きが見えている!?」


 モノクロはYの猛攻を軽々凌いでいる。

さっきまで目視すらできなかったのに。

Yが次に繰り出してくる攻撃まで、予測線のようなものが見えて分かってしまう。

 一体俺の身に何が起きている?


 「出し惜しみしてる暇は無いわね。それじゃ、本気出さないと、ね!」  

 Yは、両刃斧を宙に投げた。


 落ちてくるそれを刃先から受け止めると、刺さった箇所から何やら漆黒の瘴気が滲み出てきた。


 「大狼神アセナモード 起動オン!」


 漆黒の瘴気を纏ったYは、まるで狼の様な姿に変わっていった。


 「始めよう…こっからが本番だよ?」

 

 



 

 



 



 


 

 




 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る