第8話 魔法と調合
⑧
次の日の朝。巳影達に留守番を頼み、俺は早速村の仕事に取り掛かっていた。
頼まれた仕事は、村娘が近くの森の薬草を採取したいので護衛をしてほしいとの事だった。
依頼した村娘は俺と同じくらいの歳で、名前はミアンナと名乗った。
ミアンナは調合が得意で、植物だけでなく薬、そして少々の魔法に関しても詳しいらしい。
そんな博識の彼女に、例の本の続きを俺は森に向かう道すがらに聞いてみる。
「あの後、世界は原因不明の暗黒に包まれてしまうの。その時に、魔族が突然他の種族を食い殺し始めたのよ。これは魔族が暗黒に心を支配されたからって言われてるわ。」
ミアンナは俺の隣を歩きながら、本の続きを語る。
「随分物騒だな…。…それで、どうなったんだ?」
「それでね、人族はもう一度立ち上がって、見事諸悪の根源である邪神を倒した。そして、二度と世界が暗黒に包まれないよう、妖精族は太陽水晶を作って、大陸の至る所に設置したの。」
(太陽水晶……あの本にも書いてあったな。かなり重要なものっぽいぞ。)
「後は多分リヒトさんも知ってる通り、心を支配された魔族を浄化する為に、太陽水晶にその魂を導いてあげるのが貴方達の役割ね。」
(…やべぇ、全然知らん。)
ゲームの設定とは全く異なってしまった世界の現状に、頭が全くついていかない。
(浄化だとか何だとか、ただの剣士にそんな役目があるとかホントにどーなってんだ…?)
ここは素直に、異世界から来ました、と話すべきだろうか。悶々と考え込んでいると、ミアンナはピタリと足を止めてその場にしゃがみ込む。
「どうした?」
「…黒炎花だわ。最近多いのよ……イヤになるわね。」
「コクエン?」
俺はミアンナの横から覗き込むように、彼女の足元に生えている花を見る。
ユリのような見た目だが、その花弁は漆黒に染まっており、中心がマグマのように赤々としていた。
「これが何かマズいのか?」
「知らないの?黒炎花は魔物の魔力を養分に育つの。これが生えるって事は、この付近に強い魔力を持った魔物がいるって事なのよ。」
(ぎくっ。)
ヤバい。ミトラちゃんの事か。心臓がビクンと跳ね上がる。
……が、冷静に考えればミトラちゃんが強い魔力を持っているとも限らない。
とりあえず話を逸らそうと俺は適当に話題をふる。
「な、なぁ、ミアンナ。薬草採取ついでに、俺に調合の仕方とか色々教えてくれないか?それから魔法についても知りたいんだ。」
「勿論良いけど……ホントに何も知らないのね、リヒトさん。剣士さんってそういうものなの?」
「俺が特別なだけだよ……。」
悲しい意味でだけどな。
「じゃあ、まずは────」
ミアンナが言いかけた時、足元に亀裂が走り、土がボコボコと盛り上がり始める。
「ミアンナ、足元!!」
「───ッ!モグモールだわ!」
ミアンナがその場からすぐに下がると、土の中から二匹のもぐらモンスターが飛び出して来た。
体長は50cmと普通のモグラよりもかなり大きく、モグモール最大の特徴である熊のように大きな手からは鋭い爪がギラリと覗いていた。
「下がってろ、ミアンナ!」
俺は剣を鞘から引き抜き、ミアンナを庇うように彼女の前に立つ。
「うん、丁度いい機会ね。リヒトさんに魔法、見せてあげる。」
「はい???」
そんな悠長な事を言ってる場合なのか。俺が呆気に取られている間に、ミアンナは詠唱を始める。
「火の精霊よ、我に力を貸したまえ。其の力で悪しき心を焼き払わん。」
ミアンナの正面に魔法陣が現れ、そして。
「燃え去れっ!!」
魔法陣からサッカーボール程の火球が飛び出し、二匹のモグモールに命中する。火球が着弾した瞬間、火球はごうと炎の勢いを増して火柱となり、魔物だけでなくその周囲までもを炎に包む。
炎はあっという間に燃え広がり、木をみるみるうちに炎上させた。
「…………わーお…。」
「やだ、またやり過ぎちゃった…。」
熱を帯びた突風が吹く中、俺は目の前の光景にただただ絶句していた。
ミアンナがまた何か詠唱を唱えると、今度は突然の豪雨が襲いかかる。
「…………。」
全身ビチャビチャになりながら、俺はミアンナの方を向いて素直な感想を一言。
「なぁ。俺、要らなくね?」
俺、不要になります。
〜完〜
「そんな事ないわ、一人でいるのと二人でいるのとじゃ安心感が全然違うもの。今みたいに私、魔法の調整が全然上手くないから…。」
「そういう意味の護衛か!俺は森が大事に至らない為のストッパー役って事か!!」
やっぱり俺要らねーじゃんか。
これがゲームなら、間違いなく彼女を自分のパーティに入れる所なのだが。
「私ね、大気中のマナを引き寄せ過ぎちゃうのよね。だからあんな風に低級魔法が暴走して大変な事に…。」
「えーと…確か、マナってのは魔法の源だよな?」
「そうでもあるし、調合した薬の効き目にも関わってくるのよ。」
「薬が?」
「例えば回復薬なんかは、飲めば怪我はすぐに治るけど、本人のマナを取り入れる力が弱いと即効性が無かったりするの。」
「…薬も魔法の一種って事か。」
「平たく言えばそうとも言えるわね。薬はあくまでマナを正しく働かせる為の補助みたいなものよ。」
「成程な、これはいい話が聞けた。……よし、ミアンナ先生、改めて魔法の伝授お願いします!」
「せ、先生…!?今のを見ても先生だなんてそんな…。」
あわあわと慌てふためくミアンナだったが、余程嬉しかったのか、道中結構乗り気で俺にノウハウを教えてくれた。
ぱぱーん。理人は魔法と調合をちょっとだけ覚えた!
…自分で言うのはとても寂しいという事も覚えた。
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