第7話 未来の世界?
夕飯後、色々あって疲れていたのかミトラはすぐに眠ってしまった。
ベッドで眠るミトラを起こさないよう、机の上でランタンを一つだけ灯し、机を挟んで巳影と小さな声で話し合いを始める。
「とりあえず、村の人達にはこの家の事も、巳影やミトラちゃんの事も話してない。」
「村の人達がオレの事を既に認知してる可能性は?」
「十分有り得るが、今のところ村の離れに住む女性が〜みたいな話は出て来なかったな。」
「なら下手に探りを入れない方が良さそうか…。…そうだ、オレさ、ミトラに聞いたんだよ。魔物と喋れるか?って。」
「ミトラちゃんはなんて答えたんだ?」
「"喋れるけど、外に住んでる魔物達は全然話をしてくれない"…だそうだ。」
「? どういう事だ?」
「ミトラにもよく分からないらしい。ミトラと同じような人型の魔物は普通に喋れるけど、野生の魔物…つまりゲームでいう雑魚モンスター達だな。コイツらは一切の話が通じないんだと。ちょっと前には、魔物に攻撃されかけたらしい。」
「ミトラちゃんが子供だから、とかじゃなくてか?」
「そこまでは分かんねぇや。でも、同族の子供に敵意剥き出すってのは変な話じゃないか?」
「確かに、な…。」
俺は顎に手を添え、ウーンと唸った。ミトラが魔物に襲われたとなると、彼女の存在がますます謎に包まれてくる。
「つーかそもそも俺たち、この世界は本当にファンタジア・ゲートと同じなのかすら知らな……───あ。」
「何だよどうした、理人。」
俺は唐突に、村人達から譲り受けた本の事を思い出す。
部屋の棚に置いた数冊の本を手に取り、机の上に並べる。
「本?」
「この世界について知れるかもと思って何冊か借りてきたんだが…。」
少々勉強がしたい、と伝えると、村の人達が快く貸し出してくれたのだ。
確認してみると、一つは野草の種類や扱いに関しての本、もう一つは調合に関する本だった。
そして、その二つよりも少々大きめの本の表紙には、"アストランティアの歴史"と書かれていた。
「アストランティア…!?ファンタジア・ゲートの舞台になってる大陸の名前だ…!」
思わず大きめの声を出してしまい、巳影が人差し指を自身の口元に当て「しーっ!」とジェスチャーをしてきた。
俺は声のトーンを抑えつつ、話を続ける。
「ファンタジア・ゲートとソックリな世界で確定っぽいな…。」
「断定するのは早いだろ、中身を読んでみようぜ、理人。」
「そうだな。」
ひとまずはこの世界の文字が難なく読める事に安堵しつつ、表紙を捲った。
【───はるか昔。
世界は一つの大陸で出来ており、そこには様々な種族が存在していた。人族、魚人族、有翼族、妖精族、獣人族、小人族、鬼人族、巨人族、そして魔族。
姿形は違えど、皆手を取り合い、互いに協力しながら生活していた。
だがある日、大陸の統治を巡り、種族での争いが起き始めた。
種族の中で最も魔力に優れた魔族は、その膨大な魔力によって他種族を魔法でねじ伏せ、瞬く間に種の頂点へと上り詰めた。
魔族は最も力のある者を"魔王"と呼び、他の種族も魔王が王座に着くと、大陸の統治者として従った。
しかしこれに納得せず、従わない種族が一つだけ存在していた。それが人族だった。
人族である人間は反旗を翻し、激戦の末、魔王を討ち取った。
魔王を倒した一人の人間は"勇者"として称えられ、この世界の新しき王として君臨した。
人間の王は、大陸の名前をアストランティア大陸とし、その知性をもって地を治めた。】
「これ…ゲームより先の話…か…?ゲームだと、力で統治して世界を闇に染めようとする魔王を倒す為に俺たちプレイヤーが勇者の卵として………って、おいコラ。」
巳影の方に目をやると、机に突っ伏して寝落ちしていた。
「はぁ、まったく…。」
すやすやと心地良さそうに眠る巳影に呆れて、溜め息をつきながら次のページをめくると、ページが丸々破られて続きが読めなくなってしまっていた。
「うわマジか、…何か後ろめたい事でもあんのか?」
破られたページの先は、各種族に関しての特徴であったり、太陽水晶がどうたらこうたらと書かれていて、事物そのものに関してはこのページまでのようだった。
(ゲームよりも未来の世界……か。だとすると、魔物が人間を襲う理由と、人間が魔物を恐れる理由は何だ?それに、ミトラちゃんが魔物と会話が出来ないっていう話も気になる。)
「…まずは村の人達に本の続きを聞くとするか。」
静かに本を閉じ、くあ、と欠伸を零す。
クローゼットの中に入っていたブランケットを、巳影にそっと掛けてやる。こうして黙っていると、本当に普通の女性にしか見えない。
(巳影はこの女の人の身体を借りているのか、はたまた深層心理的なものが働いた結果なのか…。)
問題は山積みだ。一つ一つクリアしていくのも中々に大変な仕事と言えよう。
ふと窓の外を見やると、まるでこの家だけが切り取られたかのように真っ暗闇に包まれていた。
───急に魔物に襲われたりしないだろうか。
若干の恐怖心を覚え、気休めに椅子の背もたれ部分をドアノブに嵌め込み固定する。
そして壁を背もたれ代わりに座り、長剣を手元に置いてふぅと息を吐く。
ミトラと巳影の様子をちらりと確認する。二人ともぐっすりと眠っている。
(俺も寝るか…。)
何事も無く明日を迎えられるよう祈りながら、俺はゆっくりと目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます