第58話 全員集合!でも見つけたのは凶兆の繭?





 薄暗い工場の通路。俺達、チームブルーのメンバーは陣を組み、敵を警戒しながら待機していた。しかし、いつまで待っても敵は攻めてこない。先ほどまで巣から出てくる蟻の群れのように出てきていた蜂怪人達は、俺達がここまで来ると全く姿を見せなくなった。

 今は嵐の前触れのように不気味なほど静かだ。おまけに不自然に寒い。息が白くないことから察するに、この寒気は気温が低いわけではないようだ。

 エージェント達もピリピリしている。決して表には出さないが、彼らも内心でかなり恐怖を感じているようだ。


『チームイエロー、ポイントYT1に現着』

『各チーム、準備よし』


 しばらく待機していると、ファングのチームも作戦にあった待機場所に着いたと連絡が入った。

 今、俺達がいる通路の先にある曲がり角を曲がってまっすぐ行けば、すぐに敵の大群がいるエリアに出る。事前の情報通りであれば、圧延工場の名残であるだだっ広い空間に、フジツボのように奇怪な形をした蜂怪人の巣があるはずた。


『作戦、第2段階。各チーム、攻撃開始』

「よし、行け」


 作戦の第2段階に入り、俺達はいよいよ敵の巣に向かって突入した。

 まず最初にエリアへ入ったのは盾を持った部隊。そのエージェントの一人がハンドシグナルで問題ないことをメンバーに伝えると、残りの銃を持った部隊、そして俺とサマーも中へ続いた。


「うわッ! 気持ち悪ッ!」


 中は蜂怪人の巣と思われる塔のようなものが天井まで伸びるようにしてできていた。だだっ広いこの空間はかなりの奥行きがあるはずだが、それを感じさせないほどの大きな巣が床や壁に広く侵食している。

 そんな暗い中にあるイビツで巨大な形の巣というのは、サマーの言う通り、かなり気持ち悪く見える。

 その周りを、蜂怪人は羽音を響かせながら飛んでおり、俺達が入ってくると一斉にこっちを向いて臨戦態勢に入った。

 敵が襲ってくるのに備えて、こちらも身構える。しかし蜂怪人が毒針を撃とうとした直前、爆音と共に奥の方で飛んでいた蜂怪人の何匹かが吹き飛んだ。


「わぁッ! なになに! 何の音?」

「玲さんの対物ライフルだ」

「対物……あぁ、あのデカい銃ですね」


 また、デカい射撃音が鳴る。


「うへぇ、スゴい音!」


 サマーが吃驚している中、爆音は続けて鳴り響く。加えて、多数の小銃の射撃音も聴こえ始めた。

 玲さん達だけでなくファングの所でも他のエージェント達が攻撃を開始し、本格的に戦闘が始まったようだ。


「こっちも撃て!」


 俺の命令に従い、こっちのエージェント達も飛んでいる蜂怪人を射撃する。

 被弾した蜂怪人は血飛沫と同時に地面に墜落していった。


「よし、サマー。作戦通り、地面に落ちた目標を倒していけ。サポートは俺がする」

「分かりました!」

「雨宮さん、チームの指示をお願いします」

「おぅ、援護は任せろ」


 エージェント達の指揮権を雨宮さんに渡して、俺とサマーは銃撃によって瀕死になっていく蜂怪人達にトドメに刺しに向かう。

 内部の地形は、かなり複雑だ。鉄板とパイプでできた階段に、大きな装置を避けるようにできた通路を、上へ下へ、あるいは左へ右へと、俺達は進む。


「サマーマジック、暗闇を照らす浄化の光よ、敵を撃ち払え!」


 サマーが魔法を使って敵を消滅させ、俺は彼女を毒針で射抜こうとする蜂怪人の攻撃を防ぐ。地上に降りて接近戦を仕掛ける個体もいたが、それらはサマーに接近する前に俺が間に入ってスネークロッドで撲殺した。

 ここまで来て、初めて蜂怪人の子(?)を殴ったが、先日戦った親の個体よりも装甲は脆い。一発殴っただけで、チューブ型アイスみたいにポキッと四肢が折れた。


「うわっ、グロっ」

「余計なことを考えるな。考えてる暇があったら一匹でも多く“駆除”しろ」

「は、はい!」


 スネークロッドで殴られた蜂怪人に、サマーが顔を青くする。

 殺生を意識すれば身がすくむ。今回のようなヒトの形をした敵なら、なおさらだ。


(いけない、いけない。あれはノーライフ。しっかりしなきゃ!)


 俺の指摘が効いたのかは分からないが、サマーは返事をして、すぐに俺が倒した蜂怪人を魔法で消滅させていく。


(でも不思議。ハイドロードさんと一緒に戦ったことなんて数えるほどしかないのに。まるで……)


 サマーを狙った毒針をスネークロッドで打ち落とし、その毒針を撃った蜂怪人に接近する。そして2撃、3撃とダメージを与えた後、体をズラすと、そこにサマーが放った魔法の弾丸が走る。走った光の弾は蜂怪人を消し去った。


(ハイドロードさんがどう動くか、何となく分かる。なんでだろう?)

「よし、行くぞ」

「はい!」


 俺とサマーは蜂怪人を倒しながら中心へと向かう。エージェント達の援護射撃に撃たれて地に落ちた個体、俺達に襲い掛かって返り討ちにした個体など、俺達は前進しながらも確実に敵の数を減らしていった。





 しばらく戦闘が続き、やがて近くで俺達とは別に鉄を殴るような鈍い音が聴こえた。襲ってきた蜂怪人の一匹と近接戦闘をしていた俺は、ふと音のした方に目を向ける。すると、やや上方でファングが同じように蜂怪人と戦っていた。鉄板の通路という狭い所だが、彼女はいつもの戦闘スタイルで敵を追い詰め、特に苦戦している様子はない。

 しかし、今その背後では、別の蜂怪人が襲いかかろうとしていた。


「ハッ!」


 俺は目の前の蜂怪人を蹴り飛ばすと、そのまま槍投げのようにスネークロッドを投げ飛ばした。弾丸のようにまっすぐ飛んだスネークロッドは、ファングの後ろにいた怪人に突き刺さる。

 悲鳴をあげて通路上に落ちた蜂怪人は、そのままファングの後ろで倒れる。やがて、ファングは目の前の敵を倒すと、すぐに後ろへ倒れている蜂怪人からスネークロッドを引き抜いた。


「フンッ!」


 引き抜いたスネークロッドを振り回し、襲ってきた蜂怪人を一掃すると、ファングは棒術の構えを取って戦闘を続ける。

 素手で戦うこととなった俺は、背後に迫っていた蜂怪人に力任せな裏拳で殴る。殴り飛ばされた蜂怪人は鉄の柱に激突した後、サマーの魔法によって消失した。


「ふぅ……おっ!」


 魔法を放ったサマーは、スネークロッドを振るうファングを見つけて目を輝かせる。


(ファングさんがスネークロッドで戦ってる! スゴイ! なんか上がるぅ!)

「こらこら、ぼーっとしない!」


 突然聞こえてきたオータムの声に驚き、サマーが振り返ると、そこにはメープルブレードを振った彼女と真っ二つになって消える蜂怪人がいた。

 そして、その個体を区切りに、少しの間、敵の攻撃の手が止んだ。


「ほれ、返す」

「おう」


 その隙にファング達と合流し、俺はスネークロッドを返してもらった。攻撃の手が止んだとはいえ、まだ周りには蜂怪人が羽音を鳴らしながらたくさん飛んでいる。


「ここに来るまでかなり倒したけど、少しは減ったかな?」

「そうね。作戦会議の時に映像で見た卵や幼虫は見当たらないみたいだけど……」


 魔法少女の二人が周辺をキョロキョロ見ている中、同時に俺とフォングの通信機に声が流れる。


『こちらエージェント・ゼロ。ハイドロード、ファング、変化人間を連れてポイントRT5へ来なさい。大至急よ』

「「了解」」


 何事かと頭の隅で気にしながらも、俺とファングは二人を連れて玲さんが指定したポイントに向かった。玲さんの言ったポイントRT5は、チームレッドの進攻ルート近くにある北東側の壁際だ。向かう途中で襲ってきた蜂怪人を四人で倒しながら、5分もしない内に俺達はポイントにたどり着く。

 その場所は、対物ライフルの射撃した跡か、クレーターがあちこちにできており、鉄できた通路や壁、パイプがもぎ取られたように変形している。もし蜂怪人の死体が残っていたら、辺り一面血まみれになって肉片が転がっていただろう。

 しかしなにより俺達の目を引いたのは、そこにあった奇怪な塊だった。無機物なのか、それとも有機物でできているのか分からないが、その塊は繭のレリーフのような形をして壁にくっついている。そして赤錆色をしたソレを中心に怪人の巣が形成され、植物が実をつけるように壁一面に怪人の卵や幼虫が生まれていた。


「うわっ!」

「何コレ!」


 サマーとオータムがそれを見て顔を青くする。その塊から距離を取るようにしていた玲さんとスプリングが蜂怪人と戦っていたので、俺とファングは現着してすぐに、二人の周りにいた怪人達を不意打ちの形で撃退した。


「来たわね」

「みんな!」


 玲さんとスプリングはミニミ軽機関銃とウィンドガンナーをそれぞれ構えたまま、こちらへ目を向ける。よく見ると玲さんの対物ライフルが隅に転がっていた。


「スプリング、何あれ?」

「分からない。ここに来たときには、もうあそこにあって……!」

「ミー、何か分かる?」

《分からない。けどあの変なヤツから、ノーライフの気配を感じるよ。多分あれがここにいる人達の負のエネルギーを増幅させて吸ってるんだと思う》

《その蓄えたエネルギーで、手下を増やしてるみたいねぇ》

《あと、ゼロさん達三人の敵意や殺意とかね。あれを何とかしない限り、ずっと蜂怪人が生まれ続けるはずだよ》


 サマーの問いにミーが答え、ムーとマーが順に私見を述べる。


「観測部隊、何か分かった?」

『こちら観測部隊、現在こちらにある全ての計測器で探っていますが、分析はおろか、対象の存在すら認知できません』

「なんですって!」

「肉眼でしか確認できないのかアレ」

「それは、またファンタジーなことで」


 驚く玲さんの後ろで、俺とファングは襲ってきた蜂怪人を殴り飛ばす。

 こっちはこっちでお手上げだった。


「あのー、ゼロさん達、少しの間だけ殺意ださないでくれませんか?」

「敵を目の前にして、できるかバカ!」

《だから、怒っちゃダメだって!》


 無茶苦茶なこと言われてんなぁ……。


「……あん?」


 途端、バキッと何かが弾けるような音が鳴った。音のした方を見ると、壁についている繭のレリーフが割れていた。やがてその裂け目から、ひとりの蜂怪人が死霊のごとく姿を現す。

 しかし、その姿は周りにいるたくさんの蜂怪人とはかなり違っている。強固な装甲は厚みが増し、茶色の羽は黒く染まっている。同じように身体のオレンジの縞模様も無くなって、身体中に闇が貼り付いたみたいに黒い。頭の触覚は角へと変化して複眼も無くなった。おかげで昆虫のような顔つきが人間味が増して悪魔のような顔になっている。おまけに、肩や肘からは鋭利な棘が生えている。

 そんな新たな姿となった蜂怪人……多分、最初に誕生したオリジナルだろう。ソイツは、レリーフの裂け目が出てきて、生まれ変わった自分の身体を確認したと思ったら、手から何か黒い砂塵のようなものを出して辺りに振り撒いた。

 周囲に散ったいくつもの砂塵は壁や地面に落ちると、人間の姿を形作り、やがて周りにいる蜂怪人と同じ姿になった。


「ついに卵と幼虫の形態を介さず、増殖できるようになったか」

「みたいだな。物理的な強さも上がってそうだ」

「卵や幼虫を第零形態とするなら、あれは第三形態ってところかしら」


 目の前の敵に怯んだ様子を見せる魔法少女達の横で、ファングと俺、そして玲さんが相手の様子を観察する。

 第三形態となった蜂怪人は、悲鳴にも似た大きな奇声をあげて俺達に敵意を向けた。




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