第56話 作戦開始!チーム青、全力前進!
玲さんとファング、スプリングとオータム、そしてそれぞれの部隊のエージェント達と別れ、俺とサマーは同じチームのエージェント達と共に、作戦にあった製鉄所の南側に向かっていた。
銃と盾を構えたエージェント達が前に出て、無駄の無い動きでポイントに向かう。
まだ建物の外だというのに油断してないところを見ると、流石プロだなと思う。
『アカジシ、射撃準備完了。ポイントA1にて待機』
『観測部隊、準備完了。各センサー感度良好』
『目標に動きあり。我々の動きを感づいた模様』
『構うな。想定内だ。支援部隊、非常設備に影響はあるか?』
『電力供給に異常なし。作戦運用に支障ありません』
『よし。各自、地上部隊が配置完了するまで待機維持せよ』
『地上部隊、まもなく各ポイントに現着』
通信機からは既に上空にいる火野さんや観測部隊含む各部隊の連絡が聞こえてくる。
状況を簡単に言えば、彼らは準備を終え、地上部隊である俺達三チームが突入するのを待っている形だ。製鉄所の敷地は広いため、どうしても地上部隊の方が配置が遅れる。
しかし、これも作戦の内だ。俺は遅れず急がずを心掛け、周辺を警戒しながら目的のポイントを目指す。
製鉄所内の建物は金属の錆のせいか、あるいは人の気配が無いからか、なんだか不気味だ。それに今は、中に怪人が巣食ってるのもあって、景色もどんよりして薄暗くなっているように感じる。
《この空気は良くないね》
「えっ?」
《ハデスが好きそうな“負のエネルギー”が漂ってる。気を付けた方が良いよ》
「う、うん。わかった」
横でサマーがミーと何やら話しているが、俺は気にせずサマーと共に前にいるエージェント達の後に続いた。
『チーム
また通信機に連絡が聞こえてきた。玲さんとスプリング達が予定のポイントに着いたとのこと。彼女達のいる場所は輸送機の着陸地点から近いため、当然配置も早い。
そんな連絡を耳にしながら更に足を進めると、やがて目的の入口が見えた。入口といっても片開きの金網扉なので向こう側の様子はよく見通せる。錆びた鉄骨の柱に折板屋根、薄暗い工場内部と、まるで魔物の住む洞窟ようだ。
そんな入口の前でエージェント達は突入体勢に入る。盾を持ったエージェントが後ろのエージェント達を守りながら進入できるように前に出た。
「チーム
通信機に報告を流し、俺達はそのまま待機を維持する。後は合図を聞いて突入するだけだ。
静かに待機していると、工場の中から冷めた風が流れてくる。夏も近いというのに、マスクや戦闘スーツごしでも分かる冷気っていうのは気味が悪い。
「冥界の入口に立つってのは、こんな感じなのかね?」
「お化け屋敷の間違いでしょ。どちらにしても冷房いらずで助かりますね」
「ははっ、そうだな」
小銃を構えて冗談を言う雨宮さんに、俺は冗談で返す。
そして、ふと横目で隣を見ると、サマーが強ばった顔をしていた。よく見ると杖を握る手も右手へ左手へと持ち替えて落ち着きがない。
テストといい部活の大会といい、なにかと沙織は本番に強いが、周りを心配させまいといつも通りに振る舞おうとする。ここに着く前から、あるいは輸送機に乗る前から、結構無理してたのかもしれないな。
そんな彼女の背中を、俺はポンと優しくたたいた。
「そう緊張するな」
「う、うん。あっいや、はい」
緊張からか素の反応を見せたが、すぐにサマーは言い直す。
「君なら大丈夫だ。俺が守る」
「えっ。あ、あはははぁ。ハイドロードさんにそう言ってもらえるなんて、なんだか照れちゃいますねぇ。頼りにしてます」
頬を指先で掻きながらサマーは笑う。
まだちょっと作った感じがあるが、少しでも不安が拭えたなら、それで良い。
『チーム
『全部隊、配備を確認。これより、七色作戦を開始する』
そんなやり取りをしている、通信機からファング達のチームも位置に着いた報告が聞こえ、続けて火野さんが作戦の開始を宣言する。
いよいよ突入だ。
『突入開始。繰り返す、突入開始』
「よし、行け!」
命令を出して、俺とサマーはエージェント達と共に工場の中へと入っていった。
***
内部は外の光が入らず薄暗い。支援部隊のおかげで電気は通っているはずだが、いちいち照明をつけていく暇もないので、明かりは一部のエージェントが持つ小銃についたウェポンライトだけだ。
周辺を警戒しつつ、俺達は靴音を響かせながら奥へ奥へと進んだ。内部の作りは予め見たマップと同じなので、当然、その歩みに迷いはない。
『チーム
「OU、数と距離は?」
『目標、数12。距離、直線にして20(メートル)』
「了解。全員止まれ」
観測部隊からの情報を聞いて、俺はチームメンバーに停止するよう命令した。
幸い、今いる通路は突き当りのL字の曲がり角まで、ある程度距離がある。明るくはないが、廃材等もなく見晴らしも悪くない。迎え撃つにはちょうど良い。
「敵が来る。この通路で迎え撃つぞ。サマー、俺が合図したら敵を射撃できるよう準備してくれ」
「はい!」
防弾盾を持ったエージェントが前に出て、その後ろに小銃を持ったエージェントと俺、サマーが並ぶ。
すぐに態勢は整い、ライトと銃口が前方に向けられる。後は敵が来るのを待つだけとなった。
少しの間、この場は静寂に包まれていたが、すぐに奥の音から怪人の羽音が聴こえてくる。音はだんだん大きくなり、やがて、ライトが照らした曲がり角から目標である敵が姿を現した。
蜂のような顔とヒト型の身体、茶色の羽、光沢のある灰色の外皮とオレンジの縞模様。確認したフォルムは増殖した蜂怪人で間違いない。
そして一体目を確認すると、すぐに二体目、三体目も姿を現す。
「撃て!」
俺の命令が響くと、射撃の閃光と共に銃声が次々と鳴る。間近で聴くリアルな銃声に一瞬サマーは「ひゃッ」と小さい悲鳴を上げたが、それもすぐに銃声によって消えた。
エージェントの撃った弾丸は、すべて蜂怪人に直撃して身体に穴をあけていく。傷口から体液が噴き出す様子は中々グロテスクだが、飛んでいた蜂怪人が地面に落ちて行動不能になっていくのが確認できた。
死に際に反撃してくる個体もあったが、飛んできた毒針は前にいたエージェントの防弾盾によって防がれた。
「サマー、今だ。中心から少し左側と地面を狙え」
「は、はい!」
十体目が倒れたところで、俺はサマーに指示を出した。
サマーがスネークロッドを構えると、魔力が蓄えられ、杖の先端の装飾も青く光る。
「サマーマジック。暗闇を照らす浄化の光よ、敵を撃ち払え!」
サマーの呪文に反応して、杖に収束された魔力はキラキラ輝きながら、青い光の弾丸となって放たれる。そして、最後に現れた蜂怪人と倒れていた蜂怪人に命中して浄化するように敵を消し去った。
射撃の音と敵の羽音が消え、再度その場に静寂が戻ってきた。
『チーム
「了解。よし、先へ進むぞ」
敵の消失を目視でも確認し、俺達は更に奥へと足を進める。
「……止まれ!」
だが、曲がり角を曲がった直後、俺は小走りで前へ進むエージェント達に停止の命令を出した。何の前触れもなく足を止められたことに、エージェント達とサマーは何事かと疑問を抱いた。
「全員、構え」
「どうした?」
「ヤツ等の羽音が聴こえる。敵がまたこっちに来ます」
周りの面々は不可解に思いながらも、命令に従って先ほどと同じように迎え撃つ隊形を取った。
雨宮さんが俺の返事を聞いて耳を澄ませたが、普通の人間の耳では聞き取れないらしく首をひねる。
「OU、こちらエージェント・ファイブ、目標確認できるか?」
『チーム
「なに? どういうことだ?」
観測部隊が急遽報告を訂正して、敵の接近を告げる。雨宮さんは眉間にしわを寄せた。
『こちらOU。どうやら、目標は我々の索敵能力を察知し、熱源センサーに反応しないように個々の体温を外気と同じに調整している模様。各チームは注意してください』
なるほど、こっちが通路で待ち構えていたことに気づいて対策したのか。
羽音は消せていないとはいえ、知恵が回るヤツだな。
「ほぅ。さすが虫がベースになってるだけあるな」
「問題ありません。このまま作戦通り行きましょう」
敵の対応に動じることなく、俺達は作戦を続行する。
本部や火野さんから命令があれば別だが、この程度であれば中止する必要もない。
「来ます。撃て!」
俺が命令した直後、後続の目標が姿を現し、エージェント達は蜂怪人へ一斉射撃した。
弾は全て命中して蜂怪人は先ほどと同じように地面に倒れていく。死んでないとはいえ、体液を流しながら行動不能になった蜂怪人の身体が続々と倒れていく様は、死体の山が積まれていくようで気味が悪い。
だが、今度の群れは数で押してきた。数体倒したかと思えば、奥の方からまた新手が次々と現れる。おかげでサマーにトドメの攻撃を繰り出させるタイミングがない。
しばらく銃声が鳴り続けるが、やがて距離を取るために、防弾盾を持ったエージェントが後退し始めた。
「くそっ、切りがねぇ!」
雨宮さんが小銃の弾をリロードしながら愚痴る。
当たり前だが、銃の弾数には限りがある。いくら弾薬補充担当がいるとはいえ、このままではエージェント全員の弾が尽きる方が早い。
「俺が敵の動きを止めます。SU(支援部隊)、エリアB2の消火設備を作動させろ」
『こちらSU、了解』
俺が支援部隊に命令を出すと、蜂怪人達のいる天井のスプリンクラーが作動して、水を撒き散らし始めた。
俺は降り注ぐ水に意識を飛ばして、蜂怪人達の身体に付着させていく。付着した水はスライムのように蜂怪人にまとわりつき、身体を伝って顔面を覆う。
怪人といっても、肺呼吸をしている生き物だ。顔を水で覆われれば窒息する。
よって蜂怪人は身体に付いた水や周辺の水玉を振り払おうと暴れるが、その分、こちらに全く意識が向いていない。こうなれば、もはやただの的だ。
「よし、今だ。総員撃て!」
再度、エージェント達による一斉射撃によって、蜂怪人が地面に倒れていく。
『敵相手とはいえ、ひどいことするなぁ』
銃声にまじって、サマーの近くを飛んでいるミーが何か言っていたが、俺は無視して瀕死になっていく蜂怪人を見据え続ける。
やがて、新たに奥からやってくる蜂怪人がいなくなった。
「サマー、トドメだ!」
「はい! サマー・シャイン・チャージ!」
「総員、端によれ!」
輝く青色の魔力を収束させて、サマーが蜂怪人に向かって杖を向ける。その呪文が何度か見た必殺技だと理解した俺は、前にいるエージェント達に射線を開けるよう指示を出した。
「サンフォース・ストライク!」
杖先に大きく光を帯びると、ファンタジーなエフェクトがかった光の輪に囲われ、サマーの杖から眩しいほど大きな光線が発射される。暗闇に慣れていたのもあって、その光に目が眩みそうになるが、そこはプロ、エージェント達は皆瞬時に顔を伏せた。
蜂怪人達が光線に飲み込まれ、やがて光が落ち着くと水浸しで地面に倒れた蜂怪人達の姿は無くなっていた。
敵の姿が消えて技の前後で光景がガラリと変わり、あまりの一層ぶりに、雨宮さんは感嘆として目を大きくしている。
「すげぇな」
「行きましょう。総員、陣形を組み直して進め」
驚く気持ちも分かるが、今は作戦の最中だ。
俺は静かになったその場に命令を響かせ、引き続き奥へと進んだ。
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