第55話 みんなで出動ぉ!現場へレッツゴー!
「あん、エージェント・ゼロはどうした?」
「なんか取ってくるものがあるってよ」
雨宮さんとファングのやり取りの横で、俺はマスクの下で目を凝らしていた。
「……なんだか、今更だけど凄い緊張してきた」
「分かる。いつもと違って、いかにも作戦の前って感じ」
「大会前みたいでワクワクするよね?」
綾辻さんと秋月は手際よく準備をしているエージェント達を見てソワソワとしている。
沙織は……まぁ、いつも通りだ。
「君達が例の魔法少女だな。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
沙織は相変わらずのマイペースだが、緊張している二人に気を使ってか、雨宮さんが三人に気安い口調で声をかけると綾辻さんが代表して挨拶を返す。それから雨宮さんは「君たちの活躍は聞いている」とか「慣れないだろうが心配するな」とか適当に話しかけ、彼女達の緊張を和らげていた。
やっぱり、雨宮さんには“見えていない”らしい。
だとしたら、どうして俺だけに見えてるんだ?
俺が黙って考えていると、その様子に気づいたファングが首を傾げる。
「あん? どうした?」
「あぁ、いや、何でもない」
しかし、今は気にしている暇はない。
ファングに声を掛けられ、俺は“それ”について考えるのをやめた。俺の推測があってるなら、“それ”については後で考えるでも問題ない。
「てかお前、なんか機嫌悪くなってないか? 何かあったか?」
「……別に」
どことなく口調が荒っぽくなってると感じて訊いてみだが、ファングはフンと顔をそらした。彼女のふてくされた態度に、今度は俺が首を傾げた。
後で聞いた話だが、この時ファングは、ここに来る前に無断で沙織達をトレーニングルームに入れたことについて、玲さんに小言を言われたとのことだった。
やがて、北西の空から一機の航空機がババババと音を響かせながら飛んできた。
「来たな」
「えっ!」
先に気が付いた雨宮さんにつられる形で、綾辻さん達もその方向に目を向ける。
航空機は近づいてくるにつれ、段々とその姿を大きくしていく。
「うわぁぁ」
「でかっ! すごっ!」
「………」
50名ほどの人間が乗れる大きな胴体と回転翼が付いた側面の薄く頑丈な羽、細くて丸みのある
そんな大型輸送航空機はプロペラを上方に向けて、ガーディアンズ本部の上空でホバリング飛行した後、ヘリポートに着陸するよう垂直降下した。
初めて間近で見る航空機が着陸する光景に、三人はそれぞれ息を呑んだ。プロペラの回る音にかき消され、三人の声も誰かの耳に入ることはなかった。肩に乗ったニャピー達も、風に飛ばされそうになっている。
着陸を終えた航空機は待機モードに入り、後部ハッチがゆっくりと開く。そして今まで騒がしかったプロペラ音がおさまり、周りの音も聞こえるようになった。
「これって、オスプレイってヤツですか?」
「いや、これはウチが開発したオリジナルの航空機だ」
指をさして訊く沙織に、雨宮さんが訂正した。
まぁ、一般人がティルトローターを見たら、一様にオスプレイと言うだろう。俺もガーディアンズに入るまで、固定翼機と回転翼機の違いなんて知らなかったし、あれは色んな意味で話題になったからな。
「着たわね。総員、搭乗準備」
ふと聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。振り返ると玲さんが立っていた。どうやら航空機が着陸している間に上がってきていたようだ。
「うわ!」
しかし、その手ある見慣れないものに、俺は目を大きくし、思わず口からも声を出た。
長さは約70センチ、口の大きさは約5センチ。持ち手には反動を抑えるためのゴツい銃床と大きな弾倉、中心には伏せて撃つ時の支えとなる二脚の銃架が付いている。
一般の日本人ではまず見る機会はない、大口径のライフル銃……要は対物(対戦車)ライフルを、玲さんは持っていた。
「わぁぁ、ゼロさんカッコイイ!」
「おいおい、戦争でも始めるつもりかよ?」
対物ライフルを肩にのせるようにして持った玲さんを見て、沙織が眼をキラキラ輝かせ、雨宮さんが若干驚きの含んだ口調で訊ねる。
対物ライフルは、その名の通り、およそ生き物に向けて撃つ銃ではないし、有効射程は一キロ以上だ。今回の射程は最長でも二十メートルあるかどうか。明らかに威力過剰だ。
「ちゃんと威力は相応に調整してある。建物ごと破壊して怪人と一緒に瓦礫の下敷きになるようなことはしないわよ」
だからってそんなゴツいもの持ってこなくても良いだろうに。
「ショットガンで充分だろ」
雨宮さんの意見に賛成。
「たまにはこっちも使わないと。保管室で眠らせ続けて錆びらせるつもり?」
いやいや、それにしても……。
「それに、パンチ力がトンもある怪人の皮膚を貫くにはこれくらいあってもちょうど良い方よ」
まぁ、素体のアサルトホーネットはロケットが直撃しても死ななかったし、それなら一理ある。
でもそれはそれとして……。
「良い趣味してるなぁ」
「マッチョですね」
「案外、野蛮なんだな」
「何か言った?」
「「「いいえ、何も」」」
雨宮さん、俺、ファングは、玲さんの眼光から逃げるように顔をそらし、揃って返答した。
よく見たら、脚と背中にベレッタと30口径のミニミ軽機関銃が装備されている。やっぱりマッチョだ。
「よし、じゃあこれより現場に向かう。貴女達三人も用意して」
「あっ、はい!」
玲さんに指示され、三人はそれぞれの宝玉を手に握った。
「「「マジックハーツ、エグゼキューション !」」」
ピンク色の宝玉と青色の宝玉、黄色の宝玉から発せられた神聖な光が彼女達を包んだ。
「うっ、目がチカチカする」
初めて見る魔法少女の変身に、周りのエージェント達は興味深そうに見ていたが、その光に目を細めたり、手をかざして目元に影を作った。
やがて光が消え、三人はマジック少女戦士に変身した。
「おー、娘が見たら喜びそうだ」
目の前の魔法少女に、雨宮さんと一般エージェントは目を見張る。一般エージェントの何人かは既に彼女達を目にしていたこともあったが、変身したところは初めて見ただろう。
「よし、それじゃあ総員、輸送機に乗れ。まず貴女達からよ」
玲さんの指示に従って、三人は機内を興味深そうに見渡しながら、中へと入る。その後ろに、玲さんと俺、ファングが続き、最後に雨宮さんを含めたエージェント達が搭乗する。
「貴女達はそこの席に座って、ヘッドフォンつけて」
「は、はい!」
玲さんの指示に素直に従って、三人は座席に座り、ヘッドフォンをつける。慣れない搭乗のようだが、そこは玲さんが上手くサポートしている。
「通信機をつけた魔法少女なんて、なかなかレアな姿だよな」
「そうかもな」
対して俺やファング、一般エージェント達は、慣れた手つきで準備を済ませた。
やがて離陸準備が完了して後部ハッチが閉まる。機内は大型トラックのコンテナ並みに広い空間になっているはずだが、およそ三十人ほどの人間と、銃や防弾盾の武器や道具が積まれた輸送機の中は、なかなかに手狭になっている。
「よし、出せ」
玲さんの命令を出すと、コックピットにいたパイロットが装置を起動した。そしてプロペラが再び回転しだすと同時に、機内にもその音が響き渡る。
垂直離陸特有の浮遊感を感じながら、輸送機は現場へと飛んだ。
***
「現場に着いて作戦開始時間になったらすぐに建物内部へ突入する。その前に、作戦の最終確認をしておくぞ」
離陸後、上昇と加速を終え、飛行が安定すると玲さんは席を立って、携帯簡易ホログラムを起動した。投影されたのは製鉄所の立体マップだ。
「今回のターゲットは、旧帝住金属の製鉄所内にいるノーライフの変異態。目的は奴らの巣の駆除と変異態の全滅だ。突入は三チームに分かれて東西南の三方向から仕掛ける。チーム
玲さんが「ここまでに質問のあるヤツは?」と訊くが、エージェントの誰も口を開かなかった。皆、目の前に投影されている製鉄所のマップ、進入ルート、作戦の概要は既に頭に入っていた。
それを確認して、玲さんは話を続ける。
「よし。敵の動きは製鉄所付近にいる観測部隊から随時報告が入る。各チームのエージェントはオペレーションA5に従い、前に防弾盾、後ろに銃の構えで敵の攻撃を防ぎつつ進攻しろ。もし敵が上空や北側の海へ逃げようとした場合は、上空で待機している“アカシシ”が殲滅する」
そこまで言って、玲さんは通信機に触れながら「あと最後に言っておくが」と静かに息を吸う。
「現場はノーライフの変異態の影響で、常人がその場に長く居ると精神に異常をきたす可能性がある。エージェントは精神に少しでも異変を感じたら、すぐに現場から離脱しろ。最悪、錯乱して仲間を撃ち殺す可能性もある」
それだけ言うと、玲さんは通信機から手を離した。
エージェント達は真面目な顔つきで聞いていたが、キューティズの三人は首を傾げている。どうやら玲さんは最後の指示を彼女達に聞かせていないようだ。
察するに、既に犠牲者が出たか……。
「以上だ」
ホログラムが消え、突入前の簡単な作戦会議は終了した。
それからしばらく、機内いるメンバーは黙って、ある者はアサルトライフルをいじりながら、またある者は目を閉じて瞑想しながら、作戦前に気を落ち着かせていた。
途中、サマーが「コックピットを見てみたいです」と玲さんにお願いして、魔法少女三人がコックピットを見に行ったりしたが、それ以外は特に言うこともなく時間が過ぎていった。
やがて製鉄所付近の上空までたどり着き、俺は輸送機の小さいガラス窓から地上を見下ろす。製鉄所の外観は事前に見せられたマップの通りで、プラント配管や煙突など特に変わったところはない。教科書にも記載されているような、如何にもな製鉄所だ。
だがそれよりも、敷地の外にいる人の群れに、俺は目が留まった。目を凝らすと、それは規制線を張っている警察の他に、カメラを持った新聞記者やテレビ局のカメラマン達だった。
「マスコミが来てますね」
「ウチから漏れたってことはないだろう。警察側からリークがあったのかもな」
俺が呟くと、隣で同じく地上を見ていた雨宮さんが推測を述べた。
「……なるほど。指揮権の受け渡しで一悶着あったんですかねぇ」
「多分な。松風さんも無茶するよなぁ」
政治のことはよく分からないが、自分達の領域を荒らされてガーディアンズのことをよく思わない組織ってのは少なくない。これも、その影響なんだろう。父親が警察官であることもあって、少し複雑な心境だ。
まぁ、雪井やヒューニがバラしたって線もあるけど、いずれにしろ、できるだけ弱みになるようなことは見せられない。
「もし正体がバレたら面倒ね。ハイドロードとファング、あと貴女達三人は現場を離れるまでは変身を解かないように注意しときなさい」
『現場に到着。着陸態勢に入るぞ』
俺達が玲さんへ返事をする前に、パイロットの声がそれぞれの通信機から響いた。
そして、ガーディアンズ本部から飛び立った時とは逆に、輸送機は減速と下降を行って、製鉄所の敷地内にある広場へと着陸した。輸送機が地面に着くと同時に一度大きく上下に揺れるが、バランスを崩した者はキューティズの三人だけだった。
エージェント達は防弾盾と銃を構え、ゆっくりと開く後部ハッチの方を向く。
「ふぅぅ、いよいよね」
「安心しろ、オレ達が付いてる」
胸に手を当ててゆっくりと息を吐くオータムと、彼女に声をかけるファング。
「よーし、いっちょやりますか!」
「張り切るのは良いが、あまり前に出過ぎないようにな」
杖を肩にのせて持ちながらぴょんぴょん跳ねるサマーと、その横にスネークロッドを同じように持って立つハイドロードこと俺。
「ゼロさん、よろしくお願いします」
「えぇ、任せなさい」
ウィンドガンナーを持つスプリングと、対物ライフルを持つエージェント・ゼロ。
「突入部隊、現着。作戦を開始する」
その玲さんの通信を合図にして、魔法少女とガーディアンズによる共同作戦が、今、始まった。
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