第48話 怪人が増殖?ガーディアンズと作戦会議!①





 タブレット端末のデータを確認していると、スクリーンに隣の会議室の様子が映し出された。

 映った会議室の壁はシミ一つなく真っ白で、床は隙間が無いようにカーペットが敷かれている。自然光は差し込まず、明かりは天井の電気のみ。それも、俺と悠希の映るスクリーンを見えやすくするためか、部屋全体が薄暗くなる程度の明るさにされている。

 部屋の中心には巨大なテーブルが一つあり、高そうなオフィスチェアが対面する形で並んでいる。そして、その椅子のひとつには火野さんの姿があった。


「よぉ!」


 火野さんは手を上げて、相変わらずの渋い声で映像の俺と悠希に声をかけた。これも相変わらずだが、服装はきっちりとした迷彩服だ。


「お疲れ様です、火野さん」

「……どうも」


 俺が返した後に、悠希も適当に返事する。この時、俺も悠希も火野さんとは前回の四神会議ぶりに顔を合わせた形だった。


 テーブルの端では、明智長官が後ろで手を組んで立っていた。俺と悠希がスクリーンに映っているのをチラリと確認して、長官は眼鏡を押す。


「優人は、怪我はもう大丈夫なのか?」

「えぇ、とりあえずは大丈夫です」

「そうか、ならいい」


 火野さんに心配されるが、俺はいつもの調子で返す。前回の四神会議での松風さんのホログラムもそうだが、スクリーンを挟んでいるにもかかわらず目が合う辺り、流石ガーディアンズの先端技術だ。


「それにしても、お前の彼女がここに来るとはなぁ」

「火野さんまで、よしてくださいよ」


 彼女じゃねぇーつぅの。


「言うまでもないと思うが、言動には気をつけろよ」

「えぇ、わかってますよ」


 明智長官が忠告に、俺は当然と言わんとした口調で返す。俺も伊達にハイドロードとして活動していない。いつもと違うからってボロを出すような下手な真似はしない。


 それよりも……。


「明智さん」

「なんだ?」

「ここに火野さんがいるってことは、つまり」

「失礼します。エージェント・ゼロ、入ります」


 その玲さんの声が聞こえて、スクリーンに映る会議室のドアが開く。自然と会話が途切れ、明智長官と俺は部屋に入ってくる面々に視線を向けた。


 話ができなかったのは、残念だが……まぁ、後で別に話すか。


 そして、玲さんに続いて入ってきたのは、綾辻さんと沙織、秋月の三人だ。服装はそれぞれの好きな色……つまり、キューティズのイメージカラーを基調とした私服だ。

 なんだろう……大人三人の服装とは、印象が違いすぎてここでは少し浮いている。


 普段の学校等と違ったガーディアンズ本部の雰囲気に、三人ともめちゃくちゃ緊張した様子だ。けど部屋に入った瞬間、沙織の眼がキラキラと輝いていたのを、俺は見逃さなかった。


(きゃーー、キャプテン・フェニックスだ! スゴいスゴい! 本物だぁ!)


 ……なんてことを考えてるな、あれは。


「三人を連れてきました」

「ご苦労。座れ」


 明智長官は三人に席につくように促した。沙織達は半ば戸惑いながらも素直に従い、それぞれ会議室にいるメンバーを見ながら席に着いた。

 三人とも、生の明智長官や火野さん、スクリーンに映っているハイドロードとファングの姿を興味深そうに見ていたが、場の雰囲気や緊張もあってか、あまり表には出さないようにしている。


《あの人がここで一番偉い人なんだね》

《あの二人もいる……何で映像なの?》

《きっと正体を隠すようにしてるのよぉ》


 この時、ニャピーのマーとミーとムーもいたが、当然、沙織達にしか認識できていない。


 沙織達が座ったのを見て、明智長官が「さて」と口を開く。


「三人とも、よく着てくれた。通常なら日頃の君達の健闘に感謝の言葉を述べたいところだが、残念ながら今は時間がない。早速本題に入る」

「えっ、あっ、はい」


 明智長官の早口に、綾辻さんが圧倒されつつ代表として返事をした。


「まずは事態の共有だ。エージェント・ゼロ、頼む」

「はい」


 明智長官の指示に従い、玲さんが端末を手にしながら報告を始める。


「事の始まりは、昨日、ファングとハイドロードが変化人間のヒューニと接触したことから始まりました。接触と追跡の後、高宮町の駐車場にて、二人はヒューニと戦闘を開始」


 テーブル上に表示された立体地図と駐車場のホログラムに、沙織は「おぉ!」と驚いていたが、気にせず玲さんは続けた。


「私を含めたガーディアンズの部隊も現場に出動。しかし、この戦闘中に現れたのが、雪井彰人でした」


 玲さんの報告の合わせて、ホログラムの映像や写真も次々に切り替わる。

 初めて見る雪井の顔に、沙織達は首を傾げていたが、質問する間もなく話は進んだ。


「雪井はヒューニの召喚したノーライフ群の一匹にマージセルを注射。マージセルを注射された個体は、ヒト型へと変形しました。報告によると、身体能力と射撃能力の強化が見られたようです。以後、この個体を変異態と呼称しますが……変異態は他のノーライフと連携して、ファングとハイドロードの二名と戦闘を続行。ここへ変化人間三名が合流しました。少し遅れ、ガーディアンズの部隊も現着しています」


 ここの説明までに、ヒューニ、ノーライフ、雪井彰人、ノーライフの変異態、キューティズの三人と、ガーディアンズ関係者を除いた事件に関係する人物や生物のホログラム写真が次々と投影される。

 キューティズ三人のそれぞれのホログラム写真のそばには『Mar』『Mii』『Moo』の文字も浮いていた。


「あ、あの!」


 ここで綾辻さんが意を決した様子で声を挟む。


「質問しても良いでしょうか?」

「前置きはいらない。何だ?」


 明智長官がバッサリと聞き返す。

 慣れない雰囲気に緊張してくる彼女達に、長官なりに気を使って言ったのだろうが、それは無駄なことは言うなと指摘しているように聞こえ、かえって彼女達を強張らせる結果となった。


「こ、この、雪井彰人って誰ですか?」

「現在ファングが追っている、雪井製薬会社の元社長よ。雪井はマージセルと呼ばれる特殊な細胞を開発し、本人の意思関係なく市民に投与していたわ」

「マージセル?」


 玲さんの解説に、今度は沙織が訊ねた。

 彼女の問いに答えるため、玲さんは先日の四神会議で使ったホログラム映像を再生して見せる。


「人の細胞に影響を与えて、姿を変える細胞のことよ。これを投与されると、身体能力の向上と暴走の傾向があるわ」

「へぇ、怪人みたい」

「ここでは変異者と呼んでいる」


 沙織の大きい呟きに、長官が付け加える形で訂正する。

 けど、沙織の感想も尤もだ。ホログラムで再生された映像は、実際はマージセルの検証映像として作られているが、知らずに見ると特撮もののワンシーンにも見える。


「秋月さんは、前に見たわよね?」

「はい」

「えっ?」

「そうなの?」


 頷いた秋月を、綾辻さんと沙織が目を大きくして見る。


 秋月の奴、言ってなかったのか……まあ、言ったところでどうなるものでもないからなぁ。


「エージェント・ゼロ、報告の続きを」

「はい……高宮町の立体駐車場にて、ファングとハイドロード、変化人間の計五名によってノーライフを殲滅。この戦闘によってハイドロードが軽傷を負いましたが、命に別状はありません。しかし、変異態は現場から逃走。五時間の飛行の末、旧帝住金属株式会社の製鉄所の中へ逃げ込みました」


 玲さんの話に合わせて、ホログラムが製鉄所の立体画像に切り替わった。

 

「幸い、周辺に住宅は無く工場も廃棄されているため被害者はいませんが、現在、大きな問題が発生しています」

「問題?」


 綾辻さんが首を傾げる。

 すると製鉄所の立体画像から線が伸びて、いくつかの映像が再生された。さっき俺がタブレットで見た偵察ドローンの映像だ。


「えっ!」

《えぇ!》

「うわぁぁ……!」

《こ、これは!》

「な、なにこれ?」

《あらあらぁ!》


 再生された映像群を見て、三人と三匹は驚くと同時に、その不気味な絵にドン引きする。


「変異態は工場の中で巣を作って増殖しています。現在、総数はおよそ百体ほど。変異態の卵と幼虫は、なおも増加中です」

「そ、そんな……!」

「じゃあ、早くやっつけないと!」


 息を吞む綾辻さんの横で、沙織がギュッと気を引き締める。ここで下手に恐怖に臆さず前向きになれるのは、沙織の長所だ。能天気、無鉄砲、無計画とも言うが……。


「この変異態の群れが外に出れば、市民への被害は甚大なものになる。よってこれらが外に出てくる前に、我々としてはなんとしても先手を取って、全滅させたいと思う。君達にも協力してもらいたい」

「はい、勿論です!」


 明智長官の言葉に、綾辻さんが返事をして沙織と秋月も大きく頷いた。


「それでは、次に今回の作戦について共有する」




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