第34話 オータムが敵発見!相手はノーライフ……じゃなくて変異者!?




「はぁぁ!」


 変身した秋月……キューティ・オータムは、襲い掛かる怪人と少年の間に割り込み、怪人と向かい合う。


「早く逃げて!」


 オータムの指示を聞いてか聞かずか、怪人に襲われかけていた少年は、急いで背を向けて逃げ出す。

 しかし復讐の執念なのか、怪人は現れたオータムを気にすることなく逃げる少年へ粘着糸を口から飛ばした。


「うわァァァァ!」


 糸は銃弾の如く少年を捕らえ、命中すると投げ網のように大きく広がり、少年の体を巻き込んで地面にへばりついた。倒れた少年はそこから逃げようと抗ったが、張り付いた糸は強固で、とても常人の力で抜け出せる代物ではない。

 怪人の狙いは、拘束したその少年へと向いた。


「クッ! はっ!」


 奥歯を噛んだオータムが前に立って、怪人へと攻撃を繰り出す。

 彼女が放った回し蹴りで、怪人は少年と距離を取るように吹き飛んだが、大したダメージは無い。しかしそれによってオータムの狙い通り、怪人の標的は彼女へと変わった。


「あなたは何者?」

「グルゥゥ!」


 オータムが訊ねるが、怪人から答えは返ってこない。

 怪人は低い唸り声を洩らしながら、ゆっくりとオータムへにじり寄る。その構えはいつでも相手に襲い掛かれる獣のような姿勢だ。オータムは相手にコミュニケーションを取れるほどの知能が無いことを察した。


「訊いても無駄そうね……仕方ない」


 そんな怪人に臆することなく、オータムは相手より早く距離を詰めて、両手で数発打撃を放つ。

 胸部、肩部、腹部と、各所にオータムのパンチが直撃するが、怪人は微動だにしなかった。むしろ硬い装甲のせいで、オータムの方が苦い顔を浮かべることになった。


「ツっ! 硬い身体ね……!」

「ゥゥぅう!」


 後退りしたオータムに、今度は怪人が攻めに転じる。

 間合いを詰めての大振りな打撃。怪人の腕から放たれたその攻撃は、魔法少女のオータムにとっても重い一撃だった。

 オータムは咄嗟に腕でガードしたが、鈍器で殴られたような衝撃に、また顔が歪む。


(クっ! 素手の戦いだと勝ち目は無さそうね!)


 身体の頑丈さを覚ったオータムは、足を踏み込んで後方へと飛び、間合いを取る。


「メイプルブレード!」


 オータムが言葉を発すると、マジック少女戦士の鎧が反応して目の前にオータムの専用武器である剣が出現した。

 その紅葉のような黄赤の色味のある刀身の剣を、オータムは両手でしっかりと握りしめる。


「はァーーっ!」


 そして一気に怪人へ近づき、刃渡り七十数センチほどある得物を振り下ろす。これまでにハデスと戦ってきたこともあり、その剣筋に乱れや迷いはない。

 オータムの斬擊を受けた怪人は、呻き声を上げて怯んだ。


「よし、効いてる!」


 自身の攻撃が怪人に有効だと理解したオータムは、引き続き怪人に向けて斬りかかった。

 怪人に人的防御動作はなく、素直にオータムの斬擊を身に受けた。二撃、三撃と、オータムが剣を振る度、怪人の装甲が鉄を打つような音を響かせる。

 しかしだからと言って、怪人も何もせずに突っ立っていたわけではない。オータムが斬りつける合間に、怪人は打撃や粘着糸で反撃を試みていた。オータムはその反撃を冷静に受け流したり跳躍して避けたりした。

 どうやら機動力はオータムの方が上らしい。


「あなたが何なのかは知らないけど、ハデスと同じく人を襲うっていうなら容赦しない!」


 怪人と適度な間合いを取って、オータムは自身の魔力をブレードに纏わせた。魔力を宿した刀身は黄色く輝き、エネルギーが収束している。


「メイプルスラッシュ!」


 オータムが剣を横に振りぬくと、魔力によって生成された斬撃が空間を伝播する。三日月形のエネルギー体をした斬撃は、怪人の体を切り裂くと火花を生み出して大きく爆ぜた。


「グルァァーー!」


 怪人は低い悲鳴を上げながら衝撃で後方へと吹き飛び、砂利の上を転がる。直撃した胸部は黒く焼け焦げ、一部灰に成りかけていた。


(よし、あと一押し!)


 外見の不気味さと肉体の頑丈さ、獰猛な振る舞いとは対称的に、怪人があまり強くないと考えたオータムは、内心でこの戦いの勝利を確信した。


 怪人は起き上がると、怒り狂った動きでまっすぐオータムへ向けて走り出す。そして間合いを詰めると力任せに腕を振り、攻撃を繰り出した。


「ふっ、はっ、タァァっ!」


 オータムは怪人の攻撃を見切り、カウンターにパンチとキック、ブレードの斬撃を与える。

 怪人は痛みに悶え、その場で膝をついた。


《今よ、オータムぅ!》

「分かってる!」


 傍から見ていたミーにも怪人にトドメを刺せるチャンスであることが分かったらしい。

 オータムは剣を構えなおし、刀身を片手で撫でる。


「オータム・メイプル・チャージ!」


 オータムの呪文に反応して、黄色の魔力が剣に収束していく。魔力を極限まで貯めたメイプルブレードは、清らかな光を放ち、強力なパワーが蓄積した。


「アースフォース・スラッシュ!」


 オータムは上段に剣を構えて、力を込めて振り下ろす。すると、メイプルブレードの軌跡から黄色に発光したエネルギーが放出された。

 怪人にその攻撃を躱す余裕はない。この時、オータムとミーは自分たちの勝利を疑わなかった。


 しかし突如、オータムの必殺技が怪人に当たる直前、高速で動く影が横切った。

 その影によって怪人は射線から外れ、オータムのスラッシュは河川へと飛び、大きな水柱をあげた。


「えっ!」


 さっきまで立っていた所から少し離れた所で転がっている怪人を見て、オータムから驚いた声が洩れる。


「そんな、どうして?」

《そうねぇ……?》


 ミーは辺りを見回すと、すぐ近くに人影があるのに気づいた。


《あらぁ? あの方は、どちら様ぁ?》

「えっ?」


 ミーが手を頬に当てて首を傾げる。彼女の視線の先には、ある人物が立っていた。

 オータムには、その姿に見覚えがあった。というのも、その人物はオータムの親友である沙織が好きなヒーローの一人だ。


「あなたは……確か、ガーディアンズの!」


 白虎を模したマスクに、全身を覆う白銀の鎧、象徴的なベルトのバックル……バックルには動力源と制御機構としてアースストーンと呼ばれる丸い物質が埋め込まれている……そして、全身の各所には血管のように黒いラインが走っている。


 その人物こそ、守護神ガーディアンズの四神である“仮面ファイターファング”だ。


「でも、どうして……?」


 変異者の反応を探知して現場にかけつけたファング……変身した悠希は、オータムが必殺技を放つ直前に、この場の状況を察し、まっすぐ怪人の方へ走ってドロップキックで怪人をオータムの技から回避させたのだった。

 今この場所にファングが現れたことと合わせて、ファングが怪人にトドメを刺すのを阻止したことに、オータムは疑問を抱いた。


「ソイツはオレが相手する。手ぇ出すな」

「えっ?」


 ファングに命令され、オータムは戸惑う。

 わざわざ助けて貰わずとも、あのまま技が決まれば自分が勝っていたと、彼女は思っているようだ。事実、その考えは間違いではない。


「いいから、部外者は下がってろ」


 ファングは手を出さないよう、更に警告した。


「……は?」

《あらあらぁ、いきなりやってきて随分な物言いねぇ》


 その偉そうにも取れる言い方に、オータムとミーは苛立ちを覚えた。理由を知らない者からすれば、今のファングは手柄を横取りしようとしているようにも見える。その反応も、まぁ当然だろう。

 オータムとミーのファングを見る眼には、明確な敵意が混じっていた。




「はっ、はっ、はっ……はぁぁ、現着ぅっと。って何この状況?」


 そして少し遅れて、その場に到着したハイドロード……変身した俺は、怪人が倒れる横で魔法少女がヒーローを睨む現場の光景に、戸惑いを見せるのだった。



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