第25話 形勢逆転の秘策!それは希望を運ぶミサイル?




「こちらハイドロード、いま現場に到着した」

『了解。こちらエージェント・ゼロ、ガーディアンズ本部へ連絡。誘導弾、発射』


 俺が現場に着いたことを報告すると、通信先の玲さんが指示を出す。今回の現場指揮は、変化人間の事件ってことで、パイプ役の玲さんが現場の統括指揮を担っているらしい。


「は、ハイドロード、さん……!」


 背後から沙織……キューティ・サマーの弱々しい声が聞こえた。ここに到着した際、サマーは瓦礫にもたれ掛かりぐったりしていた。

 それを見て急いで助けに入ったが、正解だったな。どうやら俺が来るまでに相当なダメージを負わされたようだ。様子を見てやりたいところだが、俺はまっすぐ敵に目をやる。


「あのシクルキを吹き飛ばしたですって! 何の魔力も持たない人間が!」


 下半身が蛇の女の人……メデューサが目を大きく見開いて、こっちを見ている。

 確かに魔力なんてものは持っていないが、こちとら科学の力で作られた改造人間なんだ。ナメんなよ。

 ……不服だけどな。


「サマー!」

「大丈夫?」

「う、うん。なんとか、ってイテテっ!」


 周辺にいたノーライフを倒しながら、綾辻さんと秋月……スプリングとオータムがサマーに駆け寄って行った。


「あの人って!」

「うん、ハイドロードさんだよ!」

「あれが……!」


 サマーとは過去何度か会ったけど、スプリングとオータムと会うのは、実はこの時が初めてだったりする。


「殺れ、キルギルスども! その人間を噛み殺せ!」


 メデューサの指示の元、キルギルスと呼ばれたノーライフ達が俺を囲む。デフォルメされてるみたいとはいえ、大きな虫に囲まれるというのは、あまり気分の良いものじゃないな……。

 やがて大きな牙を使って威嚇していたキルギルスは、噛みつこうと俺へ飛び掛かってきた。

 俺は一番近くにいたキルギルスを蹴り上げて、そのまま足を踏み込みノーライフの包囲網を抜ける。ここに来るまでに何匹か相手にしていたので、この虫達の強さはおおよそ把握していた。

 攻撃は主に噛みつき攻撃のみ。大きな脚を使ってものすごい俊敏な跳躍力で移動するが、軌道が単調なのでそんなに脅威ではない。

 俺は体術を駆使して、続けて飛び掛かってきたキルギルスに一匹ずつ蹴りを入れて返り討ちにしていく。間合いに入ってきたら殴ったり、その長い脚を掴んで、別の個体に投げつけたりもした。体が小さいわりにコンクリートを破壊するくらいの力はあるようだが、対応としてはこの前のヒューニほど苦戦する相手じゃない。


「すごい。流石プロ……」

「よし、私達も!」

「待て!」


 戦ってる最中、援護しようとしてくれたキューティズに、俺はキルギルスを相手しながら大きな声で静止させた。

 俺がいくらノーライフを攻撃しても相変わらずダメージが入らないから、キューティズ達の援護は欲しいところだけど、いま壁際から出てこられると少し困る。


「もうじき、ここに誘導弾が飛んで来る。君達はその場でじっとしてるんだ」

「誘導弾って?」

「確か、ミサイルのことね……って!」

「「「えぇーー!」」」


 まぁ、そんな反応するわな……。


『誘導弾、弾着10秒前』


 なんてやり取りをしている内に、玲さんから通信が入った。ロケットエンジンを使ってるとあって、発射してからここに来るまでにあっという間だ。

 やがて空の彼方から、飛行機が通るときに鳴るような轟音が聴こえてきた。


「あっ、あれ!」

「ホントにキタぁーー!」

「嘘……!」


 誘導弾が飛んでくるのを見て、キューティズの三人が慌て出す。

 このエリア周辺には結界が張られているが、無機物の誘導弾には関係ない。誘導弾は結界を通り抜け、それと同時に推進力のジェットが役目を終えた。後方から出ていたジェットの火は消えたが、その勢いが死ぬことはないので、誘導弾の本体はまっすぐこっちに飛んで来る。


《何あれ?》

《あれがミサイルってヤツ?》

《宇宙船みたいねぇ?》

「呑気か!」


 オータムがツッコミをいれる。後から聞いた話だが、ニャピー達はミサイルが何なのか知らなかったらしく、この時はずっと首を捻っていたらしい。

 

 閑話休題、誘導弾が俺達に迫ってくる。何も知らない人が見れば、このままだと爆発に巻き込まれることを予期することだろう。

 キューティズ達が悲鳴を上げる間もなく、誘導弾はものすごい勢いで自由落下して俺の立っている場所の数メートル前の地面に着弾した。

 着弾の衝撃で周辺にいたノーライフも何匹か吹き飛んだが、いつまで経っても、爆発は起きなかった。


 事前に色々聞かされてはいたけど、実際に見てみると、実に計算された動きなのが分かる。


「誘導弾、命中」


 目の前に地面に突き刺さるように生えた誘導弾を見て、俺は無事に“モノが送られてきた”ことを通信で伝える。


「……あれ?」

「爆発、しない?」


 後ろでキューティズ達の力の抜けた声が聞こえた。


 この誘導弾に爆薬は入ってないので、爆発しなくて当然だ。

 代わりに、着弾した誘導弾は推進機構が自動的に分離して、ガーディアンズのロゴが描かれた外装の円筒が花びらのように開いた。

 その中から出てきたのは、俺の武器……スネークロッドだ。


「スネークロッド、無事に到着。戦闘を続行します」

『了解……あとは好きになさい』

「言われなくても!」


 誘導弾から出てきたスネークロッドを手にした俺は、ロッドを手に馴染ませるように回した後、メデューサに向かって身構える。

 スネークロッドの端を右脇で挟み、左半身を前側に持ってくる構えを取る。


「か、カッコいいーー!」

「あれって」

「スネークロッド! ハイドロードさんの専用武器だよ! すごい、あんな呼び出し方、初めて見た!」

「はいはい、分かったからサマーは一旦落ち着きなさい」


 さっきまで満身創痍だったはずなのに、沙織……じゃなくて、サマーのヤツ、めちゃくちゃテンション高いな……。


 ちなみに、このスネークロッドの輸送方法だが、毎度玲さんに持って来てもらったり、取りに行ったりするのが面倒なため、長官や松風さんに何とかできないかと訴えた末に実現した代物だ。

 ガーディアンズ本部の屋上から誘導弾を発射してスネークロッドを運ぶこの方法。原理的には十分以内で日本全国どこでも運ぶことが可能で、構想自体はだいぶ前からあったらしい。けど、爆薬が入っていないとはいえ都心から誘導弾をぶっぱなすというのは、なかなかの根回しと予算が必要だったようで、最近になってようやく実現可能レベルになったらしい。

 今回は試験も兼ねての運用だそうだ。


「ちっ! 人間風情がっ!」


 メデューサは殺気のある眼で俺を睨む。


「シクルキィ!」

「キャシャーー!」


 メデューサが名前を呼ぶと、先ほど俺が吹っ飛ばしたシクルキが瓦礫の中から勢いよく飛び出してきた。そしてそのまま羽を広げて、俺の方に向かってまっすぐ飛んでくる。


 カマキリってあんな風に飛べたっけ?


「のわっ!」


 そんな感想が過ったのも束の間、シクルキは両腕を開き、ラグビー選手のタックルのように俺へ突っ込んできた。両手の刃はなんとかスネークロッドで防いだが、俺はそのまま勢いに押される。


「ハイドロードさん!」


 スプリングが慌てた声で叫ぶ。

 心配してくれるのはありがたいけど、君にも蟻のノーライフが迫ってるぞ……ってサラッと撃退してる。


「このッ!」


 一直線上に押され、あっという間に俺は建物のそばまで追いやられた。だが、建物に激突する寸前のところで、俺は体を倒しながら足を振り上げて蹴りを入れる。巴投げの要領でシクルキはひっくり返り、そのまま建物の中へに突っ込んでいった。よく見ると突っ込んだ先は建物の一階に入っているコンビニだった。壁や窓ガラスは倒壊してシクルキの姿は土煙の向こうに消える。

 俺は体勢を立て直して、一度距離を取った。俺が構えを取り終えると同時に、またシクルキが俺に向かって突っ込んでくる。

 再度、スネークロッドで防ぐ形になったが、今度は踏ん張ってその場にとどまった。


「すっかり様変わりしちゃってぇ。頭も少しは良くなったのか?」

「シャー―!」


 煽っても特に反応なし。自我も消されたか……。


「……チッ!」


 シクルキは刃を押し付けるのを止め、代わりに腕を振って斬撃を繰り出す。

 当たればよく切れそうな鎌の刃だが、流石にアルティチウムを斬る強度はない。攻撃の動作も単純だ。スネークロッドで簡単にいなして反撃できる。


「フンッ! ハァ! オォーリャッ!」


 斬撃を避けてはロッドで突き、薙ぎ払っては打ちと反撃に転ずる。

 改造されても相変わらず攻撃方法は腕の鎌だけなのか。改造されてるみたいだから、目からビームでも出すんじゃないかと、さっきから警戒しているけど、一向に攻撃に変化が見られなかった。

 まぁ、それならそれで別に良い。けどだからといって、事態が好転するわけでもない。

 さっきから何度もスネークロッドで突いたり打ち込んだりしているけど、まったくダメージが入っている様子がない。せいぜい怯む程度だ。


 こうなれば、俺が相手しているうちに、キューティズの三人にトドメを刺して倒すしかないか……。


 俺はシクルキの攻撃を処理しながら、横目でチラリとキューティズ達を見た。





 キューティズ達は周りのスレイブアントやキルギルスを倒しつつ、こちらの戦闘を窺っていた。


「やっぱりスゴい。あのシクルキをあんなに……!」

《けど、いくらあの人が強くてもノーライフは倒せないよ》

「助けなきゃ!」

《ちょっと待って、サマー! その怪我のままじゃ危険だ》


 スプリングとマーの会話を聞いて、サマーが助けに入ろうとしてくれたがミーに止められた。


「でも、だからってこのままじっとしてらんない!」

《分かってる。だから癒しの魔法を使うんだ》


 ミーの返答に、サマーは眼を見開いて少し驚いた。


「癒しの魔法って、つまり回復魔法だよね。えっ、ちょっと待って、そんな魔法も使えるの?」

《サマーが使ってるキューティズの鎧は、万能の魔法を授ける鎧。当然、傷を治す魔法だって使えるよ》

「そんなのがあるなら、なんでもっと前に言わなかったの!」

《普通ならスプリング並みの魔力量が必要な魔法だからね。それにサマーは勉強が苦手だし、一度にいくつもの呪文を教えても覚えられないと思って》

「うっ……!」


 サマーに反論の余地なし。


《でも今は、あの青い人が来たことで、サマーの中に喜びや安心……つまり、プラスのエネルギーがたくさん生まれてる。そのエネルギーをキューティズの力を使って魔力に変換すれば、癒しの魔法を発動することができるはずだよ!》

「……分かった。やってみる!」


 サマーは眼を閉じて心を落ち着かせ、魔力を練るのに集中する。

 サマーが集中している間は、スプリングとオータムが邪魔の入らないように周りのスレイブアントやキルギルスを排除していた。

 やがて、キューティズの力が発動してサマーの身体に魔力が満ちていく。この時、サマーは暖かい何かに包まれたような感覚を覚えた。


《うん、この魔力ならイケる。サマー、ボクの後に続けて》

「うん!」


 ……アイツ等、何やってんだ?


「この魔力……小癪なっ!」


 サマー達が何をしようとしているかは俺には分からないけど、メデューサがそれを邪魔しようと動いたのが見えた。

 俺はシクルキの顔面にロッドで突きを入れることで怯ませ、一度シクルキとの攻防から離脱する。そして、近場にあったマンホールまで走り込み、ロッドで地面を強く突いた。

 するとその衝撃でマンホールの蓋が空中に浮く。


「フンっ!」


 俺はそのままマンホールの蓋を掴みメデューサに向けて投擲した。四十キロ近くある円い鉄板を投げるのは相当な力を要するが、その分、威力もある。

 マンホールの蓋は、俺の狙い通りメデューサの頭部に直撃した。


「グフッ!」

「黙って見てろ」


 流石の幹部と呼ばれるメデューサも、マンホールの蓋を頭部に受けて地面にぶっ倒れた。




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