第24話 絶体絶命!魔改造ノーライフ現る!
現場に近づくほど、ノーライフの数が増えて街中の風景が戦地に変わっていく。ある程度進むと、逃げ惑う人や立て籠もる人の姿は無くなり、それと反比例するように、暴れるノーライフと瓦礫の山を目にするようになった。
時折、倒れたままピクリとも動かなくなっている人を見たような気がしたけど、俺は見間違いだと切り捨てて走り続けた。冷酷かもしれないが、ここで精神的な重りをつけて行くのは、後の戦いに支障が出る。
今は一刻も早く前へ進み、誘導弾が来るまでに現場に着くことが最優先だ。
「……チッ!」
俺が心を殺して大通りの車道を疾走していると、前方にノーライフの一団が立ちふさがった。
スレイブアントは武器を構え、キルギルスは牙をカチカチ鳴らして威嚇してくる。
「邪魔すンなァァァァ!」
車道に転がっていた車を蹴り飛ばして虫どもを下敷きにしながら、俺はそのまま走り続けた。
***
所変わって、駅前広場。
倒しても倒しても減らないノーライフを相手に、キューティズの三人は息を切らしていた。
「タァァ!」
「ハッ!」
「ふっ!」
十分近くの時間を息をつく間もなく戦っていた三人の動きは、戦闘開始当初と比べると、やはり悪くなっている。普段通りなら、これほど動きが乱れることもなかっただろうが、今みたいな荒れた場所に立ちながら恐怖心を抱えて戦うことは、三人にとって初めてのことだった。
普通なら戦っている最中に隙を突かれて、いつ劣勢に立たされてもおかしくない。それでも彼女たちが戦っていられるのは、魔法少女としての彼女たちの資質とメデューサの加虐心のおかげだ。
「ふふふふっ」
ふと、メデューサの笑みを溢すと同時にノーライフたちの攻撃の手が止まった。
キューティズ達は戦闘態勢を取り直して荒れた息を整える。メデューサに目を向けると、彼女は腕を組みながら口元に手を当ててクスクス笑っていた。
「なかなかやるわねぇ。流石はマジック少女戦士」
周りの状況を見ると、はじめの時と比べてノーライフの数は減少している。それを確認できた彼女達は、ほんの少しばかり心に余裕を持てた。
「ふん! 大したことないじゃん。これで全力?」
「ふふっ、強がっちゃってぇ。かぁわイイ!」
サマーは挑発染みた言葉をメデューサに投げた。しかし、まるで大人が子供をからかうようにメデューサは笑みを深める。
「じゃあリクエストに答えてあげるわね」
そう言って、メデューサはフィンガースナップを鳴らした後、何者かを呼ぶようにクイクイと指を動かす。すると彼女の後ろに黒い靄が現れて、大きな渦を作っていった。もはや見慣れているハデスがこっちの世界に来る時のゲートだ。
キューティズ達は警戒しながら、その様子をうかがった。その最中では、恐怖か、あるいは後悔からか、サマーのこめかみから冷や汗が伝って落ちていた。
やがてゲートが出現すると、渦の中にどこか見たことのあるシルエットが浮かんだ。
大鎌になっている両腕に、ずっしりとした体と四本の脚。
その姿は、キューティズ達にも見覚えのあるモノだった。
「あれって……!」
「はぁ。またアイツか」
「……えっ、ちょっと待って!」
スプリングとサマーがシルエットの正体を察した横で、オータムが違和感を覚える。
影の全体的な形は見覚えのあるモノだが、よく見るとその形を作る線が不自然にカクカクしているように見えた。
その原因が何なのかは、すぐに明らかになった。
「えっ、ちょ、何アレぇぇ!」
ゲートから出てきた敵……シクルキの姿を見て、サマーが驚きのあまり、思わず大声を上げた。
カマキリ型のノーライフ、シクルキ。以前、ショッピングモールでサマーと戦った時までは普通のカマキリのような姿をしていたはずだったが、今はその身体の至る所に鉄の鎧が組み込まれている。
鉄の鎧を着ているのではない。文字通り、組み込まれているのだ。
羽の付いた細長い胸部や腹部、特徴的な逆三角形の頭部など、一部元の身体が残っているが、外見の大部分がメタル色の鉄の身体になっていた。ギザギザしていた大鎌の腕は、鋭利な刃物に変えられ、片目は赤いランプのような瞳をしている。
シクルキが身体を動かすと、体中から機械的な稼働音が鳴っていた。おそらく体の内側もいくつか機械に変えられているのだろう。
そして、その表情や仕草からは一切の感情が感じられない。以前のシクルキにあった粗暴な形相や態度は欠片も残っていなかった。
「どお? これがパワーアップしたシクルキよ」
「パワーアップって……!」
スプリングは唖然として、短い言葉を溢す。
パワーアップと言えば聞こえはいいが、これはどう見ても“改造”である。サイボーグと化した体はむしろ拘束具をつけているようにも見えた。しかも見た所、その改造は本人の意思を無視して行われた非人道的なもののようだ。でなければ、本人の感情を無くす理由がない。
「ちなみに、コイツの身体には爆弾が仕込まれてて、魔法の攻撃を受けたら爆発するようになってるわ」
「ば、爆弾っ!」
「威力は……そうねぇ、この結界の中くらいなら簡単に吹っ飛ぶかしらねぇ」
それを聞いて、オータムが驚愕する横で、いよいよサマーは怒りを露わにし、拳を作って力任せに握りしめた。
「アッ、アンタ、仲間の命を何だと思ってるの!」
「仲間? ハハッ、お馬鹿さんねぇ。コイツ等は私たちの戦力よ。戦いに勝つために兵器や兵士を強くするのは、当然じゃないかしら?」
「アンタねェ!」
「サマー!」
激昂のあまり、まっすぐメデューサに攻撃しかかろうとしていたサマーを、オータムは腕を掴んで引き留める。
しかし、サマーは止まらなかった。サマーが腕を振り払おうとしたので、オータムは羽交い絞めで動きを止めた。
「落ち着いて! ここで怒りに任せて攻撃するのは、メデューサの思うつぼよ!」
無理やり振りほどこうとするサマーを、オータムはなんとか落ち着かせようとしたが、怒りで半ば我を忘れているサマーに彼女の言葉は届かず、サマーは力づくでオータムの拘束を抜けて、メデューサに向かって走っていった。
シャインロッドを握る手に力を込めて飛び掛かり、うっすら笑みを浮かべているメデューサを狙って振り下ろす。
「フフフフっ」
「コンにゃろォォ、ッ!」
しかし瞬間、シクルキの大鎌がサマーを襲った。サマーの攻撃はメデューサにかすりもせず、逆にサマーは、硬い地面に打ち付けられた。相当な威力で打ち付けられた彼女の体は、数回ほど弾んだ後、そのまま地面の上を転がる。
転がり回る最中、持ち前の運動神経をフル活用して、サマーはなんとか身を起こして着地を決めた。
膝をつきつつ体勢を立て直したサマーだったが、すぐにまた何かの影がさした。見上げるとそこには、大鎌を振り上げたシクルキが立っていた。どうやら改造によって、動作スピードも以前より比べものにならないほど速くなっているようだ。
振り下ろされたシクルキの大鎌を、サマーは反射的に手に持つロッドで受け止めた。
彼女の体に、重い力がずっしりとのしかかる。
「グッ!」
自身の身体が軋むのを感じ取り、サマーはその痛みに顔を歪めた。ロッドを支える腕が振るえ、このままでは押し負けて身体が切断されてしまうと本能が悟った。
サマーは何とか大鎌を振り払い、その場から距離を取る。しかし、シクルキはまたすぐに距離を詰め、サマーに斬り掛かった。
次々と放たれる斬撃に、サマーはロッドで受け流したり避けたりすることで対応した。斬撃を受け流すたびに、大鎌とロッドがぶつかり合って鉄を打つような音が辺りに響く。
「サマー!」
「待って、スプリング!」
ウィンドガンナーの銃口を向けて、サマーを援護しようとしたスプリングだったが、その射撃はオータムの手よって止められた。
「メデューサが言ってたでしょ、魔法で攻撃したら爆弾が起動するって。下手に攻撃しちゃダメよ」
「でも!」
二人がそんなやり取りをしてる間にも、攻撃を避け切れなかったサマーがシクルキの斬撃で吹き飛ばされ、倒壊した建物の壁に打ち付けられた。その際、壁にできた破壊の跡が、サマーに与えたダメージを物語っていた。
「「サマー!」」
「グッ、ウッッ!」
サマーは腰をつき、瓦礫にもたれる。そして身体に走る痛みに、うめき声を洩らした。
コスチュームもすでにボロボロで、満身創痍な状態だ。ここまでの攻撃を食らって、出血や打撲、骨折などの目立った怪我が無いのは、ひとえに魔法少女の力のおかげである。
《大変だよスプリング!》
《サマーの魔力と生命反応が弱くなってる!》
《このままだと危険よ!》
「そんなもの、見りゃ分かるわよ!」
サマーのピンチに、いつもは隠れて見ているニャピーが物陰から出てきて二人に告げた。
普段冷静なオータムも、この時は声が荒くなった。
「アハッ、見つけたわ。ドラ猫共!」
そして悪い事態は続き、ニャピーを見つけたメデューサが笑う。
「スレイブアント、キルギルス。小娘どもを殺して、あのニャピーどもを捕らえなさい!」
すると、周りにいたノーライフ達が一斉にスプリングとオータムに向かって襲ってきた。
人間の頭一個分くらいの大きさのある虫の群れが襲ってくるというのは、かなりインパクトのある光景であり、例えるなら、洞窟の天井にぶら下がっていたコウモリの群れが一斉に襲ってきたような光景だ。
《あわわわ!》
「クっ!」
四方八方から来る敵に、ニャピー達はパニックになって、二人の背に隠れる。
そんな中でも、スプリングとオータムは互いにカバーし合い、ニャピー達を守りながら、襲い来るノーライフを撃退していった。
「フフフッ。さて、あっちは一旦置いておくとして、先にこっちの小娘を片付けましょうか」
そんな光景を愉快そうに眺めていたメデューサは、静かにその視線をサマーに向ける。
メデューサの命令に従って、シクルキは吹き飛んだサマーの元まで行く。そして腕の大鎌の刃の先端を彼女の頭部に狙いを定めるように近づけた。
「「サマーッ!」」
そんな光景を視界の端に捉えてたスプリングとオータムは、声を揃えて彼女を呼んだ。急いで助けに行こうともしたが、スレイブアントとキルギルスの大群がそれを阻む。
「サマーッ!」
「早く逃げて!」
サマーは彼女達の声に答えることもなく、身体に走る痛みに耐えながら、ぼんやりとした眼で目の前のシクルキを見上げた。
「大丈夫よ。すぐに貴女達二人も、この子の後にあの世へ送ってあげる。そしたら寂しくないわよね?」
逃げなきゃ殺される。そう頭では理解していても、サマーの体は思うように動かなかった。
「殺れ、シクルキ!」
「キャシャーー!」
赤い目のランプをギラリと光らせ、シクルキが憎しみの混じったような奇声を上げながら腕を振り下ろす。
逃げられないと悟ったサマーは身を縮め、ぎゅっと目を閉じた。
その瞬間、花火でも爆ぜたような轟音が鳴り、嵐のような突風が吹いた。
やがて、遠くの方で瓦礫が崩れ落ちる音がする。
「なっ!」
目を閉じて身構えていたサマーには、一体何が起きているのか分からなかった。だがこの時、先ほどまで落ち着いた態度を取っていたメデューサが何か動揺した声を洩らしたのを、サマーは聴き取っていた。
ゆっくりと目を開けると、そこにはすでにシクルキの姿は無くなっていた。
代わりに、青いコスチュームに身を包んだ人影がサマーの眼に映る。
「こちらハイドロード、いま現場に到着した」
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