第11話 ようこそガーディアンズ本部へ!
土曜日、時刻は午前9時。
そしてここは、高層ビルが建ち並ぶ大都会のド真ん中。平日よりも数は少ないのだろうが、周りを見渡せば、スーツを着たビジネスマンや買い物に来たと思われるおしゃれな若者や主婦達が行きかっている。雑踏や車の走行音も、高宮町と比べると何倍も騒がしい。
あまりの人の多さに、この中を歩くだけで軽く疲れすら覚える。
「……はぁ」
最寄り駅から電車を乗り継ぎして、約2時間。
俺、水樹優人は東京の品川にいた。
目的はガーディアンズの本部で行われる四神会議だ。
玲さんが事前に知らせてくれた次の日に、長官から四神会議を開催すると通達があった。基本的に四神のメンバーは、この会議への参加が原則だ。俺も『青龍』の称号を持つ者として参加しなければならない。
本当なら葉山と流行りのアクション映画を見に行く予定だったんだけど、急にバイトが入ったと言って断った。
学生ヒーローの災難な点のひとつだな……。
ここ最近でやっと見慣れてきた歩道を進むと、やがて大手企業のオフィスビルと並んで建っている目的の超高層ビルが見えてきた。
外壁はピカピカなガラス張りで、中の階数は55階。正面玄関の隅には『Guardians』とプレートがついている。ビルの上部にも同じ文字があるけど、ビルの前からだと首が疲れるくらい見上げないと見ることはできない。
言わずもがな、これがガーディアンズの本拠地だ。
ニュースにガーディアンズ関連の話があるときは、よくこの建物の入口の映像や航空映像が使われている。
建物の入口を抜けると吹抜けの大きな玄関ホールがあって、そこに設置された大画面モニターやサイネージにはガーディアンズの広報映像が流れている。そしてその奥には電車の改札のようなゲートが設置されており、社員証のICカードと顔認証の二重認証によって関係者と部外者を振り分けている。
スーパーヒーローの基地というより、周りのオフィスビルと同じ、大企業の本社って感じだ。
目的地にたどり着き、俺は建物の入口に足を向ける……なんてことはせず、その正面の入口をスルーして荷物の搬入などに使う裏口へ回った。
というのも、表の玄関ホールにはマスコミの人間がいて、いつも事件の速報を得るために待機している。そんな中を高校生の俺が平気な顔で中へ入っていけば、どうなるか……。
『あら、アルバイトの子かな?』なんて思ってもらえるわけもなく、根拠のない推測や邪推によって有ること無いこと報じられ、ガーディアンズをよく思わない勢力の格好の餌になること請け合いだ。
もしかしたら、『あれがハイドロードの正体ではないか』と疑われることにも繋がるかもしれない。
それを防ぐため、俺や悠希がここに来るときは、いつも裏口から入るようにしているのだ。
建物に沿ってできた道を歩き、俺は比較的に人通りの少ない本拠地の裏口にやってきた。
一応、裏口にも正面玄関と同じ二重認証のゲートがある。違いは、その数とゲートの横に黒ずくめの警備員さんが立っていることくらいだ。
「こんにちわ」
「………」
俺は警備員さんに挨拶をしてゲートを通るが、いつも通り、この警備員さんから反応は返ってこない。
ゲートを通ると、承認の証である機械音が鳴った。そしてそのまま人通りの少ない通路を歩き、エレベーターで上の階へ向かう。
途中、エージェントらしき人達がすれ違いざま「やぁ」や「よぉ、ハイドロード!」と笑みを浮かべながら挨拶してきたので、俺は固い笑みで「こんにちは」と返しておいた。表向きは正体を伏せているけど、ガーディアンズ内部となると、俺の素顔は普通に知られている。
『Hello、Hydlord!』
エレベーターに乗ると、今度は女性の声を模した機械音が鳴る。どうやらカメラ映像で俺の存在を検知しているらしい。
この本部にはこれまでに何度か足を運んだけど、この近未来チックなオフィスのような雰囲気は、なんだかまだ慣れない。
会議まではまだ一時間ほど時間があったので、俺は会議のあるフロアでは降りず、売店や食堂、自販機があるカフェテリアのフロアで降りた。
カフェテリアは、誰が掃除しているのか知らないが、埃ひとつ目にしないほど、いつも綺麗にしてある。土曜の午前中とあって、まだ人は少ない。それでもたくさん置いてあるテーブルの各所には、エンジニアや研究員らしき人の姿があった。
「おっ!」
そんなカフェテリアで、俺は見知った人影を見つけた。作業着や白衣を着ている人の多いこの空間で、白黒ジャージのソイツの格好は、それなりに目立つ。
ソイツは、顔をしかめてスマホをいじりながら席に座っていた。
「よー、悠希」
「ん? なんだ、優人か」
彼女も『白虎』の称号を持つ四神のメンバーだ。当然、
「何やってんの?」
「この前、友達からMINEってアプリ教えてもらったんだけど、イマイチ使い方が分かんなくてなぁ」
「えっ!」
MINEって、スマホユーザーのほとんどが使うメッセージアプリなんだけど……?
「……お前、スマホ持ち始めてどれくらい?」
「んー、高校生になった時に買ったから……一年とちょっとかな」
一年ちょっと使って、MINE使ってこなかったのか?
ある意味スゲェな……。
「なんだよ、悪いかよ」
「いや、悪かねぇけどさ……」
そういえば、悠希って幼少期から武者修行してて他国の言葉はペラッペラだけど、機械が絶望的に苦手だって前に言ってたな……。
ガーディアンズに入った当初は、トランシーバーやインカムの操作とかにも苦戦してたって聞いたし……。
しばらく、悠希は目を細めてスマホの画面と睨めっこしていたが、やがて「あぁもぅ!」と音を上げてテーブルにホイっと放り投げた。
「まったく……大体スマホなんて電話ができれば良いんだよ。なんだよMINEって、話があるなら直接来いっての!」
それだけだと不便だから人類はEメールやメッセージアプリを作ったんだと思うぞ?
「電子機器を投げるなよ。てか、良いのか? メッセージが来たからMINEイジってたんだろ?」
「あぁ。名前は見えたし、今度、学校に行ったときに話すさ」
良いのかよそれで。急ぎの用事かもしれないのに……。
いや、それだったら、それこそ電話するか。
「あ、そういえば!」
ショートヘアの後ろ髪を手でさすりながら不貞腐れたようにしていた悠希は、急に何かを思い出したような声を洩らす。
「この前の借り返さねぇーとな」
この前っていうのは、あの怪人の社長の件のことか?
「来いよ、ジュースでも奢ってやる」
「あの時は、メシ奢るって言ってなかったっけ?」
「細けぇこと言ってねぇで、ほら、行こうぜ!」
ガッと立ち上がり、悠希は売店へと向かう。奢ってくれると言われれば断る理由もないので、俺も後を追った。
こういう時、ジュースを奢るっていうなら自販機でも良い気がするが、そこは機械音痴、当たり前のように悠希は売店を選んだ。
***
「ここにいたのね」
悠希から奢ってもらったコーヒーを飲みながら、しばらくカフェテリアで彼女と雑談していると玲さんがやってきた。身体のラインがハッキリして動きやすそうな、いつものエージェント姿をした玲さんは、俺たちのそばに立ってテーブルを指でたたく。
「もうすぐ時間よ。二人とも来てくれる?」
「えっ、もうそんな時間か?」
「あっホントだ」
気がつけば、会議が始まる十五分前となっていた。思ったよりも話すのに夢中になっていたようで、俺と悠希は今の時間を見て揃って驚いた。
「じゃ、行くか」
「そうだな」
会議室のある場所は、このカフェテリアよりも上階だ。なのでまた、俺たちはエレベーターに乗らなければならない。
俺と悠希は玲さんの後ろに続く形で、四神会議のある会議室へ向かう。
「そういえば、どうして玲さんが?」
「私も今回の四神会議に参加するの」
「えっなんで? いままで参加したことなかったですよね?」
「そうなんだけど、どうやら今回の内容は、私の任務にも関係あるみたいなのよ」
「……マジですか」
玲さんの任務は前に話した通り、魔法少女との交渉役だ。その彼女の任務と今回の四神会議の内容が関係があるということは、十中八九、その内容とは魔法少女に関することだろう。
なんだろう、気になるな……。
玲さんがボタンを押すと、すぐにエレベーターの扉が開いた。二人に一歩遅れて、俺もエレベーターに乗り込む。他に人はおらず、エレベーターの中は俺たち三人だけでとなる。
「でも玲さん、前の電話で今日の会議はこの前の社長のことについてだって言ってませんでしたっけ?」
「えぇ、そのはずよ……」
以降、玲さんの言葉は続かなかった。
魔法少女の件と社長の件、それぞれ別の内容なのか、それとも同じ内容として話題があるのか。
別々ならそれだけの話だが、同じだとしたら、それは一体どういうことなのか……まったく、想像がつかない。けど、もしそうだとしたら厄介そうなのだけは、なんとなく分かる。
また、俺が“社長”って言葉を口にしたら、悠希が分かりやすく少しムスッとした。どうやら自分が追ってる事件の黒幕を逃がしたことを、まだ引きずっているようだ。
少しの間、エレベーター内に無音が続いた。
「……なんか、あんまり良い予感がしませんね」
「今までの会議で良いニュースを聞いたことなんてあったか? 前の会議じゃあ侵略宇宙人の対策について、その前はヤクザとの抗争についてだぞ」
「その前は、マッドサイエンティストの捕獲についてだったわね」
……あぁ、俺の。
確かに、そう聞くと四神会議で扱う内容なんて碌なもんじゃないな……。
「……はぁ、どんな会議になるものやら」
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