封筒
「デリスはどこに行ってるんだ?」
「え? 知らない」
「最近、いない時間が多いよな」
「たぶんアイザックの執務室とかでは」
「ふたりで動いているのか」
「いまに始まったわけじゃないし」
「隠密裏に何かやってるのなら気に食わんな」
私はいいタイミングだと思って訊いてみる。
「それはそうと、デリスがアニエスに出す要望ってなんだろう?」
「ああ……、まあ、俺やアイザックには見当がつくが」
「なに?」
「それは言いにくい」
「そうですか」
「でもお前がそう言ってくれて、俺はすっきりしたよ、サンキュ」
そう言ってカミルは席を立ち、食堂を去っていった。
──なに? なにが?
☆
翌日、この日はデリスが私のそばにいて、次の訓練をどうするかの話をしていた。デリスは強化人間用のトレーニングルームにはあまり来ないのだが今日はわざわざスケジュール調整をするために訪れている。
元教官であるデリスとは長いこと対戦はしていない。新鮮に感じるくらいだ。──と、ノックがあってキリンクスが室内に入ってきた。
「なに?」と私が言うと「や、ソニアじゃなくてデリスに用があって」だと。そうですか。
デリスがキリンクスに向くと彼は白い封筒をデリスに差し出した。
「これは?」と訊くデリス。
「うちのメンバーと話し合って……みんなで出し合ったお金です。琉さん来るんでしょ。俺たちは会えないからせめて旅費くらいは出させて貰いたいんです」
デリスは封筒を受け取った。ちょっと考えてから彼はこう言った。
「お前らの気持ちとして預かっとくよ。……でも、なんていうか、まだ諦めるな」
「あの人言い出したら聞かないじゃないですか」
「そりゃそうだが、いまはふつうじゃない状態なんで、まだわからんよ。俺は諦めてないよ」
デリスがそう言うとキリンクスは憤りの声を上げた。
「変に期待させないで下さい」
「諦めるなと言ってるだけだ」
「何か目算でも?」
「できることをやるってだけだよ。それでだめなら諦めるさ。しかし別の問題がある。やめるったって穏便にやめられるとは限らない。やつが望むように故郷で暮らせるように、それができるように持っていかなきゃならない」
「……」無言のキリンクスは不満あらわな顔をしていたが、そのうち自分を納得させたようで、
「ではお願いします」と言って部屋を去っていった。
「可能性があるってこと?」と私。
「わからん」
デリスは言った。
「ここに来ればここの“空気”があるからな。それがいい方向に行くこともあれば、逆に苦しめることもあるだろう。どちらに転ぶかは出たとこ勝負だよ」
私ははっとなった。苦しめることもある──それはそうだ。ここの空で彼は、彼らは苦しみを味わったのだ。
☆
四日が過ぎ、琉がやって来る日を迎えた。デリスがアイザックに頼んで出して貰った沖縄支部からネバダ支部への直行便である。
ここの敷地には西の外れに墓地がある。小さな墓地で関係者用に作られたものだ。エドワードの命日にあたって私は今回初めてそこに行くことになった。カミルが命令調でお前も来いというので私はカミルについていくことに。
ここの創立メンバーであるエドワードの墓なので通常は直接の関わりがあるアイザック、カミル、デリス、琉の四人が参列する墓参りである。元々は日本人である琉が始めた行事だ。こちらの土地柄に合わせて献花するだけの行事らしい。
私がカミルに日本では地域によっては爆竹を鳴らすんですよと元の世界の知識を教えると彼は目を白黒させていた。こちらの世界では無かったりするのかも。
ともあれ私はあまり深くは考えることなく、期待することもなく参加することにした。彼らの邪魔にならないよう、流れに身を任せるのみだ。
アイザックが事前に何かしらレクチャーしてくれるものと思っていたのだが私のことは放ったらかしだ。ということは語りたくないのだと思われる。機械生命体にとっても過去とはデリケートなものらしい。単にデータというわけにはいかないようだ。
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