加護

      ☆[普天間]


会議室で待ち受けていると18時30分にタツミ・アラガキからの電話が来た。

デリスは携帯をハンズフリーにしてあり音声がスピーカーから流れてくる。


「話はまとまったか」


「本来複雑なことを簡潔に言う。自律型ロボット兵の管理下でなければ機体の稼働はできない」


「でないと許可できんということだろ。それはかまわん。元々そのつもりで来てる。この目で見てみたいしな」


「格納庫周辺はエンジニアと琉だけが立ち入れる設定だ。遠くから見る分はOK」


「安全保障上の制約だろ。機体を出さんことには勝負が成立しないんだからそこは認めるさ」


「なら問題ない」


「兄貴と話すか? それくらいの配慮はしていいが」


「いや不要だ。──で、今日の22時辺りに自律型が空から降りてくる。勝負の日時はそっちで決めていいが、エンジニアの意見は聞くように。旧型の機体なんだ。コンディションはそんなに安定してない」


「頭に入れとく」


「じゃあな」


「ああ」


交信が終わり、私はほっとしていいのかわるいのか、複雑な気持ちでいた。室内には三人だけだ。

特殊部隊はいつでも出撃できるよう別室に移動し、準備を整えている。


デリスがアイザックに言った。

「少し休む」


デリスは仮眠をとりに会議室を出ていく。アイザックとふたりきりになったので私は思い切って訊いてみた。


「アイツ……巽が言ってた因縁ってなに?」


「あのふたりに因縁なんてありませんよ」


「でも明らかにデリスは怒ってた」


「乗り越えたものを因縁と言われたことにですよ。カミルに訊いて下さい。私の口からは言えません」


「知らなくていいこと?」


「知らなくてもいいことです」


「それはそうとここの責任者はAIじゃないのかな? アイザックみたいなのが来ると思ってたんだけど」


「AIですよ。私が目障りなんで来るなと言ってあるんです。何か用事でも?」


「いや用事はないけどさ。どんなんだろって気になるじゃん」


私がそう言うと、アイザックは無言で、しかし(変なやつ!)という感じの雰囲気で私に返した。機械生命体なのにこんなことができるのだ。私は感心していた。


      ★[沖縄 嘉手納]


俺は最初の日以来、兄貴とは話をしていない。必要な連絡はマッシュに担当させ、可能なかぎり俺は接触を回避している。


それは彼を利用する“道具”として扱わねばならないからだ。1ミリでも兄弟という関係に対する疑念をメンバーのみなに抱かせてはならない。付き合いの長い連中はともかくみなが俺を知っているわけではないからだ。


全体を見れば急造チームなのは事実でありそこは注意してる点だ。結束はどのような作戦であれ前提として最も重要なところ。ここを揺るがないものにしなければ。


俺は朝焼けの空を眺めながら、昨日の夜の衝撃を思い起こしていた。

デリスの言った通り、自律型ロボット兵は22時辺りに空から降ってきた。航空機の遠い音が上空に響くなか、黒いカタマリがパラシュートと共に舞い降りてきた。


宙空でも滑走路でも暗闇のなかなので、管制塔のたもとで待ち受ける俺たちは暗視ゴーグルでそれを確認していた。やがてやつが格納庫に移動していくとサーチライトに照らし出されて紺色のボディがあらわになる。


四本脚のクモといった外観だった。上部に360度のカメラがあるのがわかる……この辺は以前目にした情報と合致している。それは武骨なデザインだったが目の前のやつはデザイン的に洗練されていた。直線で構成されている点は同じでも進化を感じさせる。


人間と会話すら行えると情報にあったが、ほんとうだろうか?

あんななりで?


一応、しばらく観察していたのだがやつは格納庫にへばりついたまま不動の態勢をとった。その周囲をいままで通り警備ロボットや汎用ロボット兵が時おり移動する……といった光景がつづいている。そこだけ別世界であるかのように。


万一の際にはカメラ部を標的にロケットランチャーを直撃できれば対処は可能なはずだった。実際には凄まじい速度で回避行動をとるので簡単にはいかないのだが。


ともかくやつの存在は俺たちのプライドを満たしてくれる──俺たちはいま世界の中心にいる。世界政府を相手にしている──惚れ惚れするような威圧感とどこかクレイジーさが漂うオーラ。


機械なのにやつには生命感が伴っていて、見ているだけで胸をすくうものがある。こういう形で幸福感を得るのは、頭のどこかで期待していながらも実際には諦めていた。そこまではいくまいと思っていた。しかし目の前の現実としてやつはそこにいる。


──兄貴が来たからこそか。それをきっかけに事態が大きく動いた。


まあ、これはラッキーと言うしかない。テロリズムの神がいるとしたら俺たちにはその加護がついているようだ。俺たちに味方してくれている。




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