F16
☆[普天間]
一夜が明け現在時刻は14時。私の目の前を警備ロボットが移動してゆく。
私はいまロビーのようなところで息抜きをしているところだ。
ここ普天間は施設の外も内も警備ロボットだらけである。何かあるのだろうか。もはや彼らは住人と言ってよかった。といって私の相手をしてくれるわけではない。私はひとりだった。
アイザックはどこかへ行ってしまったし、デリスはフィリピン支部から飛んで来たF14の確認と、同行してきたエンジニアたちとの打ち合わせをしに行っている。
フィリピン支部もネバダ支部同様に本物F14と新型SW用F14の組み合わせで運営されている。対戦や模擬空戦訓練のシステムは同じはずだ。
養成機関の沖縄支部はもっと沢山の機体があると聞く。F15DやE、F16、それに秘匿された機体があったり、攻撃機のA10もあるらしい。実物見たいなA10。私の好きな機体である。
F16は元の世界で実物を見たことがある。法事で祖母の家に行っていた時だ。父の運転する車で近くのコンビニに行くと、そこの空域で翌日の航空祭の予行練習を行うF16が飛び回っていたのだ。
私は初めての衝撃というか兵器が放つ特有の威圧感を受けて体が固まっていた。加えて戦闘機が好きな父でさえ辟易するほどの轟音が鳴り響いていたからでもある。
大げさに言うと手を延ばせば届きそうな低空で予行練習を行うF16のその轟音は、内臓に響き内臓を震わせ、全身に衝撃波を叩きつける音だった。私は音圧というものを体感した。
それだけではなかった。F16のパイロットはたぶんコンビニ先の川を目印にしたと思うのだが、私の視点ではそのF16はコンビニの駐車場の上空で垂直上昇した。
ほんとにドギュン!と絵に描いたような上昇だった。全身を揺さぶる凄まじい轟音を立てて。
死んだかと思った。あっという間に小さな点となるF16。そして私の頭上では不思議な現象が起こっていて、キラキラと輝きながら蛇のように身をくねらせる半透明のテープが宙空に漂っていた。けっこう長いことそのテープというか半透明の帯は漂っていた。
──ロケットのようにして上空に突き刺さっていくF16。夕方のニュースで知ったのだが沖縄から飛んできた機体らしかった。思えばそれが私の運命の扉を開いたのかもしれない。或いはそういう星のもとに私は生まれてきたのかも。
戦闘機の星のもとに。
……戦闘機の星? なにそれ!
私はいま気がついた。護衛が任務なんだからそれを口実にデリスに付いていけばよかったのだ。いま頃は打ち合わせを終えて格納庫かもしれない。しまった。
★[沖縄 嘉手納]
夜が明けると俺はマッシュに命じて兄貴にデリス戦が決まった経緯を説明に行かせた。最初に脅せとも伝えてある。こちらに服従しなければ人質の半分を殺すと脅し、それから説明に入れと。
話せるようなら決戦の日時なり出撃の準備なりの話もしていいが、まずは相手の様子を見ろと。
20分くらいしてマッシュが戻ってきた。
「まあ、概ねこちらの思い通りだ。デリスが出てくるのは想定していたみたいで驚いてはなかったな」
「問題は?」
「整備の問題だ」
「そこは調べてクリアしている。人質に4人エンジニアがいて話は詰めてある。F14の稼働は問題ない。デリスとの戦いに何か戸惑いみたいなものは?」
「俺には何も感じなかったが。ああいう輩はそれがフツーなんだろ」
マッシュはとなりの椅子にどっかと腰を下ろし、声をひそめて言う。
「で……仮にデリスが勝ったとして人質は解放するのか?」
「結果がどうあろうとそんなことはしない。とりあえず空戦の間はじっとしているが結果が出たところでまず半分を処分。死体は見えるところに晒す。そこまでは決定事項だ」
「だな」
マッシュは力強くそう言った。俺はその言葉に勇気づけられた。
☆[普天間]
17時を過ぎた時刻だった。テロ実行部隊リーダー、タツミ・アラガキからデリスの携帯に連絡が入り、決戦の日時が告げられた。
明後日の午前11時に双方とも出撃、海上にて交戦という手順が示されデリスも了承する。
その場の会議室にはSW側の三人に加え特殊部隊のウィリアム隊長もいた。
アイザックと隊長は凄く打ち解けた間柄になっていて驚きである。いつの間に。そのウィリアム隊長が言った。
「突入は俺のタイミングでいいということだが……正直に言っていいか?」
「ええ」とデリス。
「俺は嫌な予感しかしなくてね。俺たちはあんたの出撃に合わせて急襲した方がいいんじゃないかと思う。結果待ちでなくてな」
デリスは即答した。
「あんたがそう考えるのなら、俺はあんたを信じよう。それでいこう。アイザック、いいかな?」
「了解しました」
デリスによると国連で動きがあるらしい。現在の国連は人類の寄り合い場として位置付けられていて、統治AIに要望や意見がある時はそこで意見をまとめてから提出することになっている。
早くも人権委員会を筆頭にSWシステムの反倫理性はやり玉に上がっているようだ。めんどくさいやつらである。と私が言ったらアイザックにたしなめられた。
仕組みは仕組みとして受け入れ正面切って対処すればいいだけだと。そんなもんですかね。
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