テロ決行

統治AIが独裁を避けているというのは確かにそうなのだろう。例えば基本的に彼らは芸術の分野やスポーツには手をつけない。人類に任せている(単に興味がないのかもしれない)。


それでも共存する意志みたいなものは何となく感じる。もしかしたら私が近くにいるアイザックに感化されていて甘い評価をしてるのかもしれないが。噂では他の支部の大半は荒くれ者も少なくないと聞く。


そもそも女が五人もいる支部はここだけで他はひとりかまったく居ないかなのだ。たぶんつづけていけないのだろう。他は荒くれ者と嫌なやつだらけだと私は脅しのように聞かされてきた。


昔は広く交流をとっていた時期があるだけに信憑性はある。よくカミルは他でやっていけるのはデリスくらいだと言う。

どれだけアイザックが優秀なのか。私たちは環境に恵まれているということだ。


        ★

[沖縄 嘉手納]──


巽だ。準備は整った。晴天の空のもと、正門前から300~400メートルほど離れた街角に俺たち武装集団19名は4台の車に分かれて待機している。


俺はピックアップトラックに乗り、他は2tトラックである。あとは予定となっている時刻、10時を迎え、爆音を合図として作戦決行である。


正門から突入するのは警備隊の待機所が正門近くにあるからだ。ここをまず爆破し、ダメージを与えた上で速攻で集中的に攻撃する。待機所の連中と正門警備の連中を始末すればあとは比較的円滑に事は運ぶはずだった。


サブマシンガンを携帯しているのが警備隊だけだからである。むろん情報によればであって実際どうなのかはやってみないとわからない。

SW沖縄支部は元航空基地であり無闇やたらにだだっ広い。敷地全域の制圧はもとより無理な話。


格納庫と弾薬庫周りの警備状況は警備ロボットとロボット兵で固められていることがわかっているだけで詳細は不明だ。

この点は不安もあるが、しかし人質を捕獲し拘束しさえすれば仮に不測の事態が起こっても対処はやりやすい。


何といってもここはまだ一度も国際テロ組織の攻撃を受けたことがない国なのだ。しかも銃規制の厳しい国としても有名である。どの程度の反攻を見せてくれるか楽しみでもある。

……これは狩りだ。そして局地戦だ。この国の特殊部隊との一戦も楽しみにしてここまで来た。


──いやあわくわくする。血沸き肉踊るとはこのこと。頭は冷静でも体の奥が熱い。この熱さこそ俺が求めているものでありテロリズムの醍醐味だ。

神に感謝せねばなるまい。


        ★


時刻だ。10時になる。ややあってどでかい爆音、轟音が鳴り響いた。地響きすらした。

……ちょっとでかすぎやしないか?


黒煙が上空に立ち昇るなか俺たちは出撃し、猛スピードで突っ走る。まず先頭の2tトラックが二台同時に正門ゲートに突撃。派手な音を響かせ分厚い門を突破する。と同時にバラバラと一台のトラックから出たメンバーのマシンガンが火を吹く。抵抗はあった。だが対応は遅くあっという間に入り口は制圧。


その間にもう一台が先へ急ぎ待機所へ。そして俺たちと残りの2tトラックもつづく。航空基地の造りは何もかもが広大だ。建物同士の間隔が広くとってあり、道路すら無闇に広い。俺たちのトラックはうなりを上げて突っ走る。


ここが最初のポイントだ──だが、もうもうと黒煙が上がるなか、待機所があったであろう場所に着くと、いや着く前からわかっていた。わずかな壁を残して建物の跡形はなく、動くものは何もなかった。破片が散乱し、火薬の臭いが鼻をつくなか黒こげの物体がごろごろと、そして周囲にも散らばっている。


俺たちはすぐさま車を走らせ宿舎と管制塔に向かう。4台の車は標的を求め分散し、やがてここの敷地のあちこちでマシンガンの音が鳴り響き始める。俺は人質は30人程度でいいと言ってある。あまり多くても負担になる。逃げるやつは放っておいてかまわない。とにかく捕獲できるやつを捕獲し拘束しろ。


        ★


さすがに今回のメンバーは手練である。手際よく、一切の無駄なく30名の人質を拘束し体育館に集め終えた。こちら側の損失はゼロだ。


注意事項である格納庫と弾薬庫周りのロボットに付けた見張りからは動きはなしという報告。やはり持ち場を離れるというわけにはいくまい。


動いたら動いたで手榴弾で対応する。管制塔に乗り込んだ連中の報告によれば管制塔では若干の抵抗があったためガス弾を使用したとのこと。まあそこは仕方がない。すべてが円滑にとはいかないものだ。


俺は体育館の床に整列させられ大人しく座っている人質たちを眺めた。

俺の部下7名が囲むなか、横に10名ずつの縦3列。容姿から判断すると俺より年下の若者が多い。養成機関ならば当然か。年かさの10名は教官かエンジニアといったところか。もとより女の少ない施設のため女はひとりも居ない。十分な結果である。


さて、ここからが本番だ。俺の本番だ。

目の前では部下たちがきびきびと動き動画撮影の準備が進められている。






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