149.まさかカース君がそんなっ 2(アズ視点)
「ナッティさん、あの話って本当なんですか?」
大丈夫そうなハナさんが私たちに笑顔を見せると、おもむろにハナさんがナッティさんに質問した。なんの話か分からず首を傾げていると、ハナさんがナッティさんに説明含めて聞き直してくれる。
「殿下含めたあの三人が、学園だけでなく王都の平民で気に入った相手がいれば手を出していたって話です。他にも、入学時のオリエンテーションで同様の実地実習があったとき、一緒にパーティを組まされていた男爵令嬢が手籠めにされたと聞きました」
「え……」
「ええ、本当よ」
「……最低なやつ」
「ええ。最低ですわね。その男爵令嬢は心を病んで今は静養しているわ」
「そんな相手と、婚約者としてもうすぐ婚姻することになるナッティさんが可哀想です……」
そうだった。
ナッティさんはカース君の婚約者なんだった。
卒業したらそのままカース君と結婚して王太子妃として、カース君含めた王族の一員となる。
でも、そんなことをするカース君がナッティさんを大事にするわけもないし……大事に……。うん、大事にするわけない。今までの行動を見ても、何もしないカース君が目に浮かぶ。王国運営はほぼナッティさんが担うことになるんだろう。
……あれ? でも王国はそれでいいのかも?
ナッティさんが運営に関われば、もっといい未来が待ってるような? だって、ナッティさん、他国からもその才覚を欲しがられているって聞くし。
「あら、ハナたちにそう言われるのは嬉しいわね。食べちゃいたくなるわ。……でも、そこは気にしなくてもいいですわよ」
「え、でも……」
「そう思っていただけるだけで嬉しいものですが、貴族というものはやはりそういうものだということもご理解くださると嬉しいですわ」
王国はいい。そうだと思う。
でも、あのカース君の奥さんになるナッティさんが可哀想だと思った。いくら政略結婚だからといっても、あれはない。それにカース君はディフィさんを狙っている。このままだと、ナッティさんの侍女として王太子妃の傍に常にいることになるディフィさんも危険だと思う。
「ああ。でも、皆さんはそんな貴族の責務なんて気にしなくてもいいですわよ」
「? そもそも私達貴族じゃない」
「え、皆さん……ご存じないのですか?」
「「「え?」」」
ディフィさんが驚いてナッティさんもびっくりした顔をしている。
「あ……そう、そうですわね。言われてみれば」
「言われてみれば?」
「ソラさんが、その辺り、話すわけがない、と、思い至りましたわ」
……え。
待って。待って待って!?
「その言い方だと、私達……」
「特例ではありますが、皆様は一代限りの爵位持ちですわよ。皆さん、伯爵位を与えられていますの。オキナ様とオウナ様の爵位は特例として無爵位だったユウに継承されておりますのよ」
……伯爵位……!? 上位貴族だよそれ!?
あ、だから私達って、いつも王様のそばにいてもなにも言われなかったんですね……。おかしいと思った。なんで毎回王様の傍に案内されるのかってことがやっと理解できた。そりゃ上位貴族で王様より偉いキツネさんの庇護下にいたら王様の傍になるよね……。
……ん?
だったら、ハナさんが二人に平民がって言われたのって、あっちも私たちのことを平民だと思ってるってことだよね。
たしか、宮廷魔法師団の団長さんは平民上がりで、平民だけど魔法師団長だから王城に出入り出来てるんじゃなかったっけ。
ネス君が一代限りとはいえ伯爵家当主のハナさんを罵倒するって、国として問題ないのかな。
「私達、貴族だったんですね……。私達も、その貴族の責務を……」
「それはありませんの。あくまで異世界人を保護し、国内で不利にならないようにとの措置ですわ。異世界人の恐ろしさは、上位貴族であればあなた達の保護しているソラさんのことを知って――……大体、まともな貴族はソラさんのことを知っていますから、異世界人に嫌な思いはさせません。でも、下位貴族はそうではないですから」
そう言われて、私は、思い出したくもない、ヤットコを思い出した。
自分が準男爵で冒険者としても強いと豪語してたあれは、想像ではあるけど、毎回ああやって迷惑かけてたんだと思う。貴族様に平民は逆らえないから。
「一応、王国としても、下心はあるんですのよ」
「あるんですね……」
「上位貴族と皆さんが婚姻していただけたら、異世界の知識も使って頂けるかもしれませんからね。無理強いはしていませんが、すでにその思惑も勝手に成功しそうでもありますが」
ナッティさんがハナさんを見る。
ああ、そうですね。このままならハナさんとキンセンさん、そうなりますね。
侯爵と婚姻するには上位爵位なら問題も起きにくいから私達も上位爵位持ちってことなんですね。
「そ、その、ユーロと私の話はいいんですっ! それよりも、ナッティさんがいくら政略結婚だからといっても」
「誰もユーロとは言ってませんよハナ」
「はっ」
「とはいえ、ですから、そこはもう、いいのですのよ」
「でもやっぱり、殿下とナッティさんが――」
「だって私。あのカス殿下の婚約者から外れる予定ですから」
「……そう、はず――」
「……うん、はず――」
「……ええ、はず――」
「「「はず……――え?」」」
「先日、父とワナイ王とドル宰相が話をした結果、父の意向が届きまして。学園卒業式の卒業パーティで殿下との婚約解消と、ナイルス第二王子との婚約発表することになりましたの」
……え。
もう、言葉が出てこない。え、カース君、どうするの?
で、殿下って……ヴィランっていう後ろ盾があるから王太子になれたようなもんじゃないの? ナッティさんと婚約しないなら……。
「殿下は廃嫡は免れないでしょう。さすがにここまで王家を食い潰してきた手前、杯を用意するという話もあったそうですが、私としては長年婚約者として共に生きてきた者でもありますからそこまで非情にもなれません。とはいえ、それだとこの王国で被害を受けた女性が納得できないでしょう。遠い小さな領地で、名ばかりの準男爵位でももって監視されながら生涯を過ごすことになりそうですわね」
「……は、はぁ……?」
「もっとも、私のディフィに手を出すのなら、いくらでも覆して杯を飲んでもらいますし、絞首刑でもいくらでもすぐに用意して苦しませて殺しますけども」
うわぁ……。
カース君、これこそ自分の身から出た錆ってやつじゃないかな……ご愁傷様です。
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