148.まさかカース君がそんなっ 1(アズ視点)
「シレさんいないけど、第一回、いせかいじんかいぎ~」
ぱちぱちぱちと、セルフ拍手をしてその場を仕切るキッカ。私もハナさんもぱちぱちと拍手しながら笑顔を浮かべる。
ここは王都のヴィラン邸。
明日には数ヶ月お世話になったヴィラン邸からキツネさんの王都での新しいおうちへと移動となることもあって、みんなで思い出作りにパジャマパーティの真っ最中。
シレさんも参加してほしかったし本人も参加したがってたけど、先日、ミント教皇様と一緒に、ヤンスさんをシンボリック教国に連れていく一団に冒険者パーティ代表【ボッケイル】として加わって教国へ旅立ってしまった。ボッケイルってなんだろうって思ったら、ジンジャーさんの冒険者パーティの名前だった。パーティなので、セシルさん、ローザさん、リディアさんも該当するので、三人も一緒に教国に向かっている。
……【ボッケイル】。……なんて意味なんだろう……。
ちょっと寂しいけど、みんなが戻ってくるのは、行きと帰りの日数と滞在時間を含めると、私たちの学園卒業式直前になるみたい。卒業式前に会って、卒業式を一緒に祝ってくれるというだけでも嬉しいことだなぁと思うことにした。
「キッカ、異世界人じゃない人達も混ざってるけどいいの?」
異世界人会議と言っておきながらナッティさんとディフィさんも一緒にいる。
思わず聞いてしまうと、
「あら、私達はいない方がいいかしら」
「では私はお姉さまと一緒に別の部屋で……」
二人の世界が花開きそうだったので、そこはお互いから見たら異世界人であるという無茶な言い分で納得してもらい、今日は私とキッカ、ハナさんとナッティさん、ディフィさんと、ナッティさんのお世話をする数人のヴィラン邸のメイドさんたちと一緒にお泊り会。
「メイドは常に影であれ。メイドは常に気配を隠せ。メイドは常に気配りを持て」
「……ハナさん、なにその暗殺者」
「ですよね。……上級メイドの心得ってユーロに聞きました」
暗殺者というより、忍者かな?
メイドさんたちは基本離れたところでのんびりしてもらっているので意識することはないし、こちらの会話に聞き耳たてることもほぼないみたい。
でも、そんな心得聞いたら、絶対話を聞いてるよね……。とはいっても、別に聞いてもらってもいいんだけどね。変なこと話すこともないだろうし。
「ナッティさん、実地実習どうだった?」
ナッティさん達は通常通り数日間の実習を終えて先日戻ってきていた。なので、実習で何があったかはこれから共有することになる。
私達は数日かけるはずの実習を、カース君を眠らせて半日で終わらせちゃったから、本当はどんな感じなのか私も興味があった。
「私達側というより、そちらのほうが大変だったと思うのですが。ディフィに怪我がなくてなによりですわ」
「お姉さま……私、怖かったです……」
「ディフィ。……傍にいられなかった私を許してね」
どうしよう。
どんな状況でも、どんな話題でも、二人の背後に花が開いていくのが見えてしまう。
「殿下の相手、ご苦労様でした。大変だったでしょう?」
「森入ってすぐに騒いだからぶん殴って眠らせた」
「あら。結構早い段階だったのね」
「大変だったのはそれをずっと運んでいたキンセンさん」
「ユーロ……大変だったんですね……」
ナッティさんが抱きつくディフィさんの頭を撫でながらくつくつと笑う。「ユーロに労いの声をかけてあげれば喜びますよ、ハナ」と声をかけると、ハナさんは少し恥ずかしそうにしながらこくりと頷いた。こちらはこちらで順調である。何がとは言わないけど。言ったら私も弄られるしね。
「とはいえ、こちらもこちらで、大変ではありましたよ。特にハナが」
「ハナさん、なにあった?」
「あー……」
思い出したのかハナさんは苦笑い。
すっと目の前にメイドさんが音もなく差し出してきた紅茶にびくっと驚きつつ、お礼を言って一口。
口に含むとじわりと広がる柔らかな温かさに心がほどけていく。高級な茶葉を使っているとかもあるかもしれないけども、こんな美味しいものを作れるなんてやっぱり上級メイドさんって凄い教育を受けてきたんだろうなぁと感心するけど、今はハナさんに何があったのかを聞かないと。
「失恋もなにもないのですが、傷心なシュミとネスに声をかけたら、気があると思われたのか変に絡まれたって話ですわ」
「ハナさん、大丈夫だったの!?」
「そりゃもう、ディフィのことは忘れられないから君はストックにしてやろう、とか」
「……へ?」
「ディフィより劣るお前は俺の慰みものとなることを許そう。喜べ平民が、とか」
「……あ?」
「とまあ、変なことを言って気を引こうとして、魔物が出てきたところでいいところ見せようとしたら、ハナが一網打尽に」
「「おお」」
「血まみれのハナのメイスと笑顔で、「ひぃ」って声をあげて逃げようとしたので、私が魔法で捉えて一緒に進みましたの」
「……あぁ。授業だから逃亡されても困りますもんね」
紅茶で喉を潤して心穏やかになっていなかったら、きっと私は怒りに満ち溢れていたかもしれない。だけど、ハナさんとナッティさんが行動で仕返ししていたみたいだし、すかっとした。
「すっきりした。でも、許さないけど」
「キッカはカース君をぼこぼこにしたんだからそこは許しておこうね。でも無事でよかった」
ハナさんの血まみれメイスは私も怖い。そこに怒りを載せられた姿は本当に怖いだろうなぁ。
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