146.森の中で奮い立つナニカ(カース視点)


 王都近郊にある四か所の深い森。それぞれが東西南北にある森は、『北深森』というように、深い森がどこにあるかを示す方角をつけて呼ばれている。この森は各方面の領地へとつながる道でもあるので、定期的に魔物狩りが冒険者ギルドによって行われている森だ。

 人為的に作られた馬車の車輪の跡がついて固められた道でも魔物に会うこともあるが、そこから外れた森の奥へ進んでいくと、魔物の巣窟である。もちろん、奥に行けば、であるが。


 私たちの今回の実習先は、『南深森』。私に時々いい薬をくれて令嬢達と楽しませてくれる、ラヴェル・ト・トレード公爵の領地へ続く森だ。

 東に比べると比較的敵も弱い森であるが、多種多様な魔物がいる森だ。人型でいうならゴブリンとコボルト。そして最奥にオーガがいるとは言われているが、そこまで奥に行くことはないだろう。


 今回の実習は、座学から得た知識を使い、卒業間近の学生に魔物の恐ろしさと長期的な夜営が発生したときのためのサバイバル能力を自身がどれだけ身についているか、実践できるかといったことを学ぶ最終学習である。

 最終に持ってこられているのは、中には魔物と戦うなんて経験をしたことのない、する気のない者も多いからだ。学園にいる学生の半数は貴族だからな。貴族であれば冒険者を雇って顎で使えばいいだけであり、自領があれば兵を雇って戦争にいかせればいいのであって、自分は後ろにいればいいだけだしな。


 学園入学時に、オリエンテーションとして二日間だけ同じ実習をする。その時は学園講師や冒険者と共に森へと入って講習を受けながら真っ暗闇となる森の中で二日過ごすのだ。


 今回は冒険者たちはいない。最大一週間使って、この森の奥にいる講師と合流して戻ってくるという実習だ。今回は私達ではなく、講師が冒険者に護られて森の奥で待っているそうだ。

 まあ、私のいるパーティに関しては、恐らくは王族警護のための暗部がそばにいるだろうから気にすることでもない。


 講師と合流したら、講師とともに森を抜け出すという実習で、疑似的な救助活動も経験すると言う仕組みだ。なるほど、なかなかに凝った実習だと思う。まあ、私には必要のない実習ではあるのだがな。


 私は以前から次代の王としてそのような経験をしているので苦にもならなかったが、共にパーティを組んだ男爵令嬢は怖がっていたことを覚えている。貴族が魔物がいる森になんて滅多に入ることはない。それが女性であれば尚更である。だが、この学園は、東以外の三方を他国に囲まれている。いつ何時攻められて住処を失うということがあるかは分からないのだ。だからこそ生き抜く知識として、このようなことを教えているそうだ。


 そういえば。あの令嬢はなんていう名前だっただろうか。怖がっている姿が面白くて、シュミとネスの提案で冒険者を丸め込んで二日間みんなで男爵令嬢で楽しませてもらったのだが、今となってはもう覚えてもいない。森の中でみんなで、というのもなかなかに面白いものであった。次もやろうと思ってそういえばやっていなかった。今度やってみよう。



 入学してすぐに行う理由としては、そうすることで自身の無力さと危機感、そして兵士として戦う意識付けをするからだそうだ。平民もいるため、冒険者や商人としてやっていくにも、知識と少なからずの戦闘能力は必要であるからな。そういったところでもこのオリエンテーションは有効的だそうだ。そしてこれが最終学習に持ってこられている理由もまた、入学時に怯えていた自分がどれだけ成長したのかを理解するために行うのだそうだ。そりゃ何年も学び蓄えた知識をもって当時の恐怖を払拭するという点で、数日間実地での実習をして自信を持たせるという意味でも、実際、ほとんどの生徒が、成長したことを感じ、より意識を持つというのだから効果的なのだろう。



 国を護るため、次代の王である私を護るため学園は兵士としても育成をしているということであるのだから、私としても誇らしい。優秀な駒ができるのは嬉しい限りである。

 私が次代の王となった暁には、四方の国々を私の領土として拡大するのもいいかもしれない。今期の学生はシュミ達のような優秀な学生も多いからな。東のヴィランも私がナッティを迎えることで私の支配下に入る。考えてみるといい体つきだけではなく、ヴィランを手に入れることができるのだからナッティはいい政略結婚であると思えた。もちろんいい体でもある。楽しみだ。ナッティを正室に迎え公務を行わせ、私はディフィと王宮で愛を育む。時にはナッティも楽しむことができる。なんて素晴らしい未来なのだろうか。












「うおぉぉぉぉっ!

  ウルトラ・ファイティンっ!

   スピリッツ・オーラ・スペシャルっ!

     ギミック・オン・ザ・

 ドラゴン・バスター・ぶれぇぇどぉぉぉぉっ!」





 実地実習。

 まさかのディフィ以外の仲間たちが、こんなにも頼りないメンバーだとは思わなかった。忌まわしいが私以外唯一の男であるユーロに三人を護ってもらうしかない。


 ディフィにいいところを見せるのはいまだ。

 今まで出会えなかったからこそ、ここで私が力を見せつけることで燃え上がる何かしらもあるだろう。今日の夜は燃え上がる。きっとそうに違いない。

 チェイサーはアサギリとキクハで勘弁してやろう。

 私は奮い立つ。想像するだけで別のところも奮い立つから罪つくりな男であるな私も。



 さあ。魔物は私がすべて倒してやろうではないか。

 ふん。この王家に伝わる【ウルトラ・ファイティング・スピリット・オーラ・スペシャル・ギミック・オン・ザ・ドラゴン・バスター・ブレード】に魔物の血を吸わせることになるとはな。



 さあ、私の力、とくと見るがいい!





―――――

作者の声


キャー。

ツイニ カースデンカ ノ

ジツリョク ガ ミレルワー ホレチャイソー


やっべ、カース殿下書いてるの楽しい。

ほら、私の作品って、どの作品でも人が死んだり、人が襲われたり、悲しいことになったりなんてしないから、とても殿下が新鮮です(?


我らがカース殿下の雄姿をこれからも見られたい方は、

本作品の評価こと、おほし様を、どうぞよろしくお願いいたします(?

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