145.実地実習に向けて(カース視点)
卒業まで残り数ヶ月。
数日前に私はついにディフィと話をすることができた。
長かった。天上の調べのごときディフィの声に思わず、ネスとシュミの慰安で訪れた娼館ではこれほどかつてないハッスルをしてしまったほどだ。ネスもシュミも今はまだ忘れられないのだろうが、そのうちもとの二人に戻ってくれることを期待している。また三人揃ってそこらの貴族令嬢で楽しみたいものだ。卒業してからもOBとしてお邪魔させてもらって、学園を楽しませてもらうことにしよう。
……そういえば、最近学園の放課後に令嬢達を見かけなくなったな。
卒業も控えて忙しいのかもしれない。だが、卒業予定者がそうであるならわかるのだが、それ以外も見かけないのは解せない。
まあ、今の時期は私以外の誰もが忙しい時期であろうから仕方ないのかもしれないな。どこぞの令嬢の家にお邪魔して一日過ごすのもいいと思っていたが。仕方がない。今日も娼館に通わせてもらうこととしよう。
それはそれとして、ディフィだ。
様々な障害はあったが、やっとディフィと話すことができた。私の気持ちを受け止めてくれた。
これで私は、卒業と同時にディフィと婚姻し、ともに王国をよりよい王国へと導くことができる。
ネスとシュミという恋のライバルも私にすべてを託してくれた。
後は卒業する間の短い時間をディフィと学園で愛を育むだけだ。
今まで見せられなかった分、私の素晴らしさを、ディフィにもっと見せてあげたい。
そう、例えば、卒業試験ともいえる、実地実習で私の雄姿を見せつけるのはどうだろうか。
筆記試験はどう考えても一位になることはできないしな。私はこれから私を支えてくれる軍師でもあるネスに頭脳では負ける。忌々しいがユーロにも負ける。だが、王国副騎士団長の息子であるシュミとは好敵手である。
こと戦闘においてもシュミは互いに競い合っている。戦いには自信がある。ネスには勝てる。ユーロには……くっ、忌々しい。
流石に同種でもワンランク上の魔物が出ると言う【領都ヴィラン】傍の【封樹の森】に比べてはいけないが、この王都近郊のエルダーウルフ程度なら私だけでもなんとか倒すこともできる。差し当たって、冒険者でいうなら私はCランク程度の力は持ち合わせているということだ。
王として前線で戦うこともできる。そういう男らしさをディフィに見せることができれば、ディフィは私に惚れ直すに違いない。
そう思って、卒業最終試験――実地実習で、私はディフィと同じ組を勝ち取ることにした。
王族特権を使い、ディフィを傍におくことにしたのだ。
ディフィと私の間に立ちはだかるのは、ナッティという私の婚約者。
ナッティがダダをこねれば、私とディフィが同じ組になるということは起こりえない。
なぜならナッティはディフィを私に近づけさせたくないからだ。だからこそ、常に手元に置いて監視しているのだ。おそらくはその監視も、嫌がらせの一つでもあるのだろう。私とディフィへの愛に対する嫌がらせだ。
だがナッティはこの学園でも権力がある。なぜならこの王国の四公の一人であり、【封樹の森】からの侵攻を防ぐモロニック王国の剣であり盾でもある公爵家の一人娘だからだ。私ほどではないものの、権力はある。平等を謳う学園で権力を振りかざし続けるナッティは、本当に嫌なやつだ。
だが私は違う。
普段の学園では平等であるが、それだと勘違いする輩が出てくる。だからこその王族特権。
王族のみに適用される、王の頼み事には強制的に従わせる王たる資質をもつものだけが使うことのできる、強制権だ。
私が使うと言えばそれだけ平等であった学園だろうが、王の代弁者としての声とすることができるこの強制力。これを使えばナッティさえも従わざるを得ないのだ。
これで、ディフィを、私の実習のチームに入れて傍に置くことができる。
ナッティから引き剝がすことでナッティからの恐怖からも開放されるであろう。そして実習では私の力に酔いしれることであろう。
後で父上には怒られるのは間違いない。
だが、それでも私は私の未来とこの王国の未来のために、今ここで使う必要がある。それは父上も理解してくれるはずだ。
「…………そんなことに王族特権を使うとは……どこまで愚劣。……まあ、いいでしょう。ディフィ以外はこちらで均等に、且つ実習訓練の警護も兼ねてこちらで選ばせて頂きます」
特権を使うと宣言した私に、ナッティが低俗な言葉を使うとは思いもしなかった。
愚劣とは。どうやら特権を使われ、従わざるを得なかったことで、私を蔑みたいらしい。
だが、それこそが、私とディフィに嫉妬しているということでもあるのだろう。ナッティは私の婚約者であり、私と婚姻を結ぶことしか有効活用のないただの飾りの王妃候補だ。そんな彼女が罵るのは、焦りからだ。ナッティはディフィに私が盗られることを恐れている。だからこそディフィを常に傍らに置き、私から遠ざけていたのだ。
なかなかに可愛いことをするではないか。昔から体だけはいいとは思っていたが、あのように素直になれずに嫉妬する様を見せる彼女を妾として傍に置いておくのも悪くないかもしれない。
なんだ、そう考えればナッティも悪くないではないか。なるほど、よし、今日の娼館巡りも捗りそうだ。
「ふん。まあ、いい」
「なにがいいのかはわかりませんが……ディフィ、あなたが私から離れるのは、自分の身と心が引き裂かれるほどに辛いのですが」
「お姉さまぁ……」
「あなたを護るために、私が出来る最大限の護衛を傍につけますので安心しなさい」
「……はい。お姉さまの、お心のままに……」
「あぁ……ディフィ……あなたと離れるのがこんなにも辛いなんて……」
「お姉さまぁ……」
ふん。私を護る護衛であれば決まっている。ネスとシュミ、それと私が王になった時には追放してやろうと思っているユーロだ。
ディフィは私と共にいられることに涙を流しているではないか。その涙さえも掬って舐めとってやりたい。そうだ、今日は娼館でそういうことにもチャレンジしてみよう。
私はなんてディフィ思いの男なのだ。自分で自分を自画自賛してしまう。
「ディフィを傍に置くために王族特権を使うくらいですから。それ以外はこちらで決めさせていただきます」
「なに!?」
それではネスとシュミがディフィと語らえないではないかっ。……いや、それでいいのか? すでにネスとシュミはディフィを私に任せた。逆に今はディフィの傍にいるのは酷というものか。
「ふん。まあ、いいだろう」
「……殿下。まさかと思いますが。その、不遜な態度のようでお子様の駄々を捏ねているような態度は、見栄でも張られているのですか?」
扇子で口元を隠しているが、ナッティは今とてつもなく大きなため息をついたのはすぐに分かった。
なんとも失礼な発言をされた気もするが、ふん、まあ、いいだろう。お前の体に免じてな。
ああ、それにしても。実地実習が楽しみで仕方がない。
誰がいようと、ディフィが傍にいると聞くだけでこんなにも嬉しいとは。
なんだったらピクニック気分でいってみてもいいのではないだろうか。森の中にも少しは休める場所もあるだろう。そこで二人で茶を飲んで親交を深めるのも悪くない。
やはり、今日の娼館は、ハッスルした。
実地実習当日。
「……」
「カース君、怪我しないよう後ろにいてね」
「邪魔だから前に出てくるな、カスってアズが言ってる」
「キクハ令嬢、そこまでストレートに言うのはいかがかと」
「そういうキンセンさんも、十分に酷いやつ」
「キッカ……そういうことは心に留めておくんだよ」
「さすがアズ。そこにシビれるあこがれる」
ディフィと私、アサギリ、キクハ、そしてユーロ。
私の実地実習のメンバーはこのメンバーであった。
……これでは、ユーロと私で、ディフィ、アサギリ、キクハを守らなければならないではないか。
実力を出せないうえに、森で茶を飲むなんて呑気なことができないだろうことに、ナッティへの怒りは募る。
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