143.殿下に捕まる(ハナ視点)


 まずい。


 私は今この状況に、どう対処すべきか迷う。


 逃げるべき? 逃げることができる? でも、ここで逃げたところで結局は同じことが繰り返される。

 そうであれば、ここでいっそのこと終わらせるべきなのかもしれない。



「やっと、やっと……会えた」

「……」



 ちらりと隣にいるユーロを見ると、ユーロも焦っているのか片眼鏡を外してつけてを繰り返してる。それ、何の意味があるの。でも、ちょっと可愛かったから許す。

 そもそもユーロの眼鏡は度が入っていない。お父さんであるドル宰相の眼鏡がかっこいいと思ってつけていると聞いていたので、外したままでいいのに、なんていつも思う。


 そんなことを考える私、これこそ現実逃避だ、なんて思ってわれにかえる。


 そろそろ現実を見なければならない。



「君に、君を見つけるために学園を探し続けてやっと……」



 ああー。本当に頑張ってましたもんね。

 見つけたと思ったら凄い勢いで近づいて来たりして、ある日の花壇から出てきたときは、ホラーでしかなかったですもんね。

 でも、そんなストーカーみたいなことをしなければ、接触しないよう彼女を逃がしたり隠したりなんてなかったんですけども。



 そう。

 今、この目の前で起きてしまったこと。



 それは、


 カス殿下ことカスに、ディフィさんが捕まってしまった、ということ。











 今日は私とユーロがディフィさんの護衛の日。

 さっきまでユーロに声をかける風を装いながらディフィさん目当てに近づいてきていた、王国の中でも主要人物の令息の二人、王国騎士副団長の息子のシュミ・ト・ヘンケン伯爵子息と、宮廷魔法師団団長の息子のネス・ミト・ウォル君が他愛無い会話をして去って行った。


 他愛無いとはいったものの、今回はいつもと違って少し神妙さがあった。最後に二人とも、「僕たちはこれからも君の傍で君を守る」とか、なんかよく分からない誓いを立てて決意を新たに去って行ったのはなんなのだろう。


 なんとなくディフィさんに止めてほしいような雰囲気を出していたけど、二人にディフィさんは脈は何一つないからそんなことは起きないはずなんだけども。


「……ディフィさん、二人と親密な関係だったりしました?」

「い、いえ……お姉さま以外そんなことおこりえません」

「それはそれでどうかと思うが。……まあ、あの二人、自分の家格を盾にしていろいろやってたから、これでおとなしくしてくれればいんだけど」

「それを知っているってことは、ユーロも同罪では?」

「ハナは私のことをなんだと思っているんだ。君たちはあいつらが何をしていたのか知っているのか? それと同列にするとは失敬な」

「え、そんな悪いことだったんですか? よく知りませんけどごめんなさい」

「い、いや、そんな謝らなくても。ハナに謝られると心が痛む。……し、しかし、二人とも、なにがあったんだろうな」



 シュミ伯爵子息とネス君に関しては、ディフィさんにある程度節度ある態度で接してくるから許容している。二人とも殿下と同じく黒い噂があるとは聞いていたけど、自分より偉い相手には強気にはでないそうだ。二人とも上から数えたほうが早いくらいの上位に位置する家柄だけど、ユーロには敵わないから。ユーロがいた時限定とは前につくんだけども。


 ……さっきも思ったけど、ユーロが同列とされたら怒るっていうくらいの黒い噂ってなんなんだろう。噂じゃなくて本当だったって意味だと思うし……。後でナッティさんに聞いてみたほうがいいかもしれない。本当に失礼なこと言ったのかもしれないし。



 そんな、三人揃って、「何があったのか」と疑問符を頭の上に出していたところ、カス殿下の接近に気づくことが遅れてしまった。

 どうやらカス殿下は、二人から聞いて駆け付けたらしい。



 それが、冒頭の一言。

 もしかしたら今日は厄日なのかもしれない。







 先ほど、多分だけどディフィさんに告白をして振られて去って行ったシュミ伯爵子息とネス君。

 二人はそこまで異常な行動にはでない。でも、それはユーロがいるから。


 でも、ユーロがいてもいなくても。そんなこと関係なく、節度なく、度を超して接してくるのがカス殿下である。

 なんだったら、ディフィさんと二人っきりにしようものなら、確実に手を出すのが間違いないのが、殿下だ。


「ユーロ……。彼女から離れろと何度も言っただろう。お前が彼女を独り占めしようとして俺に会わせたくないのはわかっている」

「私はナッティから彼女の護衛を任されているのでそれはないですし、誤解されると困るのでそのようは発言はしないで頂きたい」

「くっ。またナッティが。……まあいい。お前は学園卒業後は私の側付きから外す! 主の恋路を邪魔するだけでなく、自分の欲のために無理やり連れまわしているお前など、我が王国にはいらん!」

「それはもう嬉しすぎて。ありがたく頂戴いたします」

「なに?」

「ユーロ、本音の心の声が出てますよ」

「こほんっ。失礼。側付きを外す云々は殿下は何も権限を持っていないためどうにかなる話でもございません。まずは陛下とお話ください。後、私は侯爵を継承することが決まっておりますのでいらないと言われてもなんともできません。殿下には」


 本当に、カス殿下は、自分の地位を何だと思っているのだろう、なんてことを思う。

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