141.お隣のキツネさん(ソラ視点)
私、とっても頑張ったと思うの。
だから私を褒めてくれてもいいと思うのよ。
どこぞのバカ王太子が落としたアズちゃんのスマホ。壊れ具合がなかなかで、もう新しいの買ったとしても中のデータは絶望的なのよ。
私が先日この世界でも充電できるようにって買ってきたチャージャーなんて何の意味もないじゃないのよ、ねー?
ふと思ったら、セットで買った乾電池なんてこっちの世界でどうやって捨てればいいのよ。いや、あれはあれで、向こうの世界でもどうやって処理されてるのかなんて興味もなかったから知らんけども。
とりあえず意気消沈のアズちゃんからスマホを借りて、一回アズちゃん達の世界に戻ってアズちゃんの親御さんに会いに行って事情説明したら、今すぐ新しいのを契約するとかすごい勢いで販売店に向かおうとしたのを止めるのに苦労したもんよ。いやまあ、別に新しいの契約してもいいんだけど、あっちでは全然使いものにならないからちょうどいいのよあれで。やれることといったら、ネット回線とかないあっちの世界ではメモ帳みたいなもんなんだから。後は、写真とったりしてデータを保存しておいたり、録音してみたり、動画撮影してみたり目覚ましにしてみたり……オフラインで保存しておいたネット情報とかみたり、音楽とか聴いたりとか……――意外と、なんでもできるわね。
そんなこと思っていると、これをそのまんま直してくれる天才がいるってことを思い出したの。
華名財閥っていう、表も裏も支配していると言っても嘘じゃないほどにどでかい財閥。
確か、ハナちゃんとシレちゃんも、その財閥の関係者だったはず。
その財閥の若い後継者――ロリコンでシスコンでマザコンでファザコンで人外もいけて男好きでメイド好きって噂の私並みにいろんな力を持ってる子。その子の第二夫人のちび猫ちゃんが、とんでもない天才なのよ。
だからアズちゃんの親御さん達と別れた後、財閥にコンタクトをとったわけ。
待ち合わせ場所を指定されて、いつもながらの自動販売機で黒い炭酸を購入してぐいっと飲みつつあっちの世界でもこれを再現できないかしらなんて考えていたら、
「……相変わらず、突飛なことを考える方ですね……」
頭にはメイドの象徴ホワイトブリム。
黒を基調としたエプロンドレス。
その上に、フリルの着いた穢れを知らない純白のエプロンを纏う女性。
真性の、洋風のクラシカルタイプのメイド姿の美女――財閥後継者の愛人のメイドさんが現れて私にこう言うのよ。
「……巫女装束姿で歩き回っている人に言われたくはありませんよ」
メイド姿で歩き回ってる人に言われたくないわぁ……。
とか思ってたら、そのメイドさんは、なんかすっごい可愛らしいものを抱っこしてるじゃない。
思わず母性が溢れて仕方なかったわよ。
誰の子かって話になった時には、とんでもなく驚いたけどね。
そんな可愛い子を愛でながら当初の目的を聞き出すと、目的のちび猫ちゃんはフォールセティの隣の世界、【封樹の森】で別たれている別世界のノヴェルにいるっていうじゃない。
「私、なんのためにあの世界にいったのよ、なんて思うわけ」
「……ぉう。それを俺は始天様から言われて、どう返せばいいのかとか思ったほうがいいですかね?」
で。今、私はノヴェルのとある村でのんびりしている財閥後継者を捕まえたところ。
結構この子とは頻繁に会ってるから、久しぶり、なんて気もまったくしない。しかもいろんな世界を私みたいに行き来してるんだから、その力を戻れなくなっちゃったあの子達のために使ってあげなさいって説教したくなるわね。
「いろんな世界を私みたいに行き来してるんだから、その力を戻れなくなっちゃったあの子達のために使ってあげなさいって説教したくなるわね」
「ああ、うん。なんか心の声みたいな感じで説教されちゃってるけど。なんというか、すいません」
あら、声に出しちゃってたわね。
力を譲渡したりなんてできるわけじゃないから分かってるわよ、気にしなさんな。
「ちび猫ちゃん、どう直りそう?」
思う存分私を振り回した報いを受けるといいなんて思いながら、私からアズちゃんのスマホを奪うように持って行って背中を向けるちび猫ちゃんに声をかける。
「ぽいっ、なの」
「ちょ、ちょいーーーっ!?」
ぽいっと興味がなくなったかのようにちび猫ちゃんが投げ捨てたのは、渡したばかりのスマホ。
思わず変な声出してスマホお手玉しちゃったわ。
「直ったの」
「え、さっき渡したばっかなのに直ったの!?」
「直そうと思えば一分。直さないと思わなくても三分もあれば直るの」
「マジシャンかっ!」
私の、フォールセティ、アズちゃんたちの世界、そしてノヴェルと、世界を股にかけた大冒険の末に一瞬で直された私の苦労を返してほしい。
「元とさっぱり同じなの」
「はー。あんなばっきばきになってた液晶とかも直ってるわね」
「内部もばきばきだったの。なにやったらああなるのか聞きたいの」
「スマホみたことないバカな王太子が、面白がって持ち主から奪って触りまくった挙句、地面に落としたのよ」
「内部のバッテリーとか弄ってあるの。自分で電気作ってほぼ半永久的に動くようにしてあるの」
「私の話聞いてた!? ちび猫ちゃん!?」
良かれと思って前回買ったチャージャー、本当にいらなくなってるじゃない!
さっぱり同じって言ってたのはなんなのかと。
見た目何も変わってないけど絶対何かやったでしょこれ。
……はっ。まさか、見た目がさっぱり同じって意味だったのっ!?
「後、電気が少しでもあればテレビ見れるの」
「……ん?」
「ネットも見れるの。財閥ちゃんねるに繋げておいたからお金かからず使い放題なの」
「……財閥ちゃんねる??」
「この子が財閥の財力使って、異世界でもネット中継できるようにしたチャンネル帯のことですの」
ちび猫ちゃんの保護者ともいえるはんなり財閥令嬢ちゃんことみどちゃんから解説もらったものの、異世界中継できるってなんなのよそれ。あんたら神の力超えていろんなことやってんじゃないでしょうね。
そんなことやってたら偉い神様が黙ってないわよ。
……
…………
………………
……あ、私、とんでも偉い神様だったっ!
「……あんたらも大変ね。みどちゃんも連れまわされて嫌なら嫌っていうのよ?」
「今に始まったことじゃないですの」
「お姉たんに言われたくないの」
「ボクは至って正常だよ!?」
あんたら全員、無茶苦茶なことやってる人外だから、どんぐりの背比べってやつよほんと。
しっかし……このアズちゃんのスマホ、どうしようかしら。
「元の世界とも電話できるの」
「うわぁ……」
半永久的に電気を作ってバッテリーが稼働する。その電気があればネットにつながる。しかもそのネットは異世界を越えて向こうにある。向こうに繋がるってことは電話もできるし向こうの番組も見れるってことね。なるほど。
なるほど……。
……なるほど……?
……魔改造、しすぎじゃない?
あの子達が気にしている一部の解決が出来ちゃってるじゃない。
あ。私がさっき考えてた乾電池の処理もしなくてよくなってるじゃない。
ちび猫ちゃん、恐るべし。
「……後数台持ってきても、同じことやれる?」
残りの三人分も、同じようにしてあげないと、不公平かしらね。
あー、こっからフォールセティ戻ってもう一回こっちきてもう一回戻るとか面倒だわぁ……。
ひと段落したら王都のおうちでのんびりしようっと……。
あ、でも。
これ持っていったらあの子達喜ぶかしら。それはそれで楽しみね。
それだけで、ちょっとは疲れも吹き飛ぶってもんよ。
待ってなさいみんな。
私がとんでもないお土産もって、戻るからねっ!
―――――――
私の作品
■刻旅行 ~世界を越えて家族探し~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887032434
より、主人公勢勢揃いなお話でした。
なお、上記作品は、エタっていると作者が認めておりますが、メイドさんがいかに幸せになるかのおはな――( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン
このメイドさんがいかに御主人様の愛を手に入れていくかは上記作品になりますが(?)このメイドさんが若干狂っている(?)のが、↓のお話のなかでもあり、
■ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890238672
こちらでも、途中主役級で出ております。
キツネさんがとんでもないキャラなので他作品でも密接に関係しております(^_^;)
刻旅行は『刻を駆ける』お話。
ライセンスは『刻をやり直す』お話。
シト様は『刻を見つめる』お話。
DropFrameは『刻を巡る』お話。
興味がありましたらどうぞ両作品もよろしくお願いしますm(_ _)m
あ。ついでに。
https://kakuyomu.jp/users/tomohut/news/16818093073161449384
私が思う、アズ、描いてみましたのでよかったら。
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