138.第一王女と第二王子(ハナ視点)


 王城。

 私たちには少し分からない話をするナッティさんとユーロを見ながら正門へと辿り着いた。一応、護衛も兼ねているので辺りの警戒は怠らない。


 ここからは馬車になる。

 流石に王城内部に馬車を乗り入れることはできないから広い王城は徒歩になるけど、とにかく疲れた。馬車自体は揺れるので好きではないのだけども、王城の独特な雰囲気から開放されて一息つけると思うと少しほっとする。


「ユーロ、あなたが頼りよ」

「善処はするが、期待はしないでほしい」


 苦笑いしながらナッティさんに言うユーロ。ちょうど馬車のことを考えていたから何を依頼されたのか聞いていなかった。

 二人だけがわかる話が気になって、何を言われたのか聞いてもいいのだろうかと考えてると、後ろから誰かが走ってくる気配を感じた。


「ねえさん!」

「おねえさまお待ちになって!」


 二人。

 そのうち一人は結構な勢いで走ってきてるけど、もう一人は重そうなドレスを着た女性なこともあって、走るのも難しいのかちょこんとドレススカートを持ち上げながらの少し早い徒歩より早い程度。ぐんぐんと互いの距離が離れていく。


 警戒する必要があると思い、念のため私とキッカさんはナッティさんの前に立ちふさがるように立った。


 先に、どこか見たことのある、金髪赤眼のかわいい系の、私達より少し若いくらいの男性で、煌びやかで高そうな服を着た人が私たちの前に到着してふるふると手を振って私達に声をかけてくる。


「ああ、いやすまない護衛の。まさか王城で僕達が警戒されるとは思わなかった」

「あなたが怪しいからですわ」

「え……姉さん、僕、あやしいの?」


 ……だれ?

 思わず訝しげに相手を見てしまうけど、確かに、言われてみたら誰かに似ているような気もする。


「……あ」

「えっと、君が、シテン様に保護されているという勇者様御一行であってるかな? 見た目から判断して……君が、ユウゼンさんかな?」


 少し考えて、そこで、可愛い系の男子が言った言葉と髪の毛の色で誰か分かった。

 似ている。アレにとても似ている。

 私達を目下悩ませている張本人と、先ほどヴィラン王爵に噛みつかれていたあの人に。

 この人、ううん、この方達、多分――


「王国の王族として挨拶が遅れて申し訳ない。僕はナイルス・デ・モロン。この国の第二王子だ。親しい人からはナイルと呼ばれている。君たちもそう呼んでもらって構わないよ。以後よろしくしてもらえると嬉しいな」


 にこやか。涼し気な、という表現が似合う、とても気持ちのいい笑顔。

 赤い髪でどこか強気なイメージが、それだけで一気に印象が変わる。


「私はこの国の第一王女。ナイア・デ・モロン。いつも一番上の愚兄がご迷惑をおかけしており申し訳ございません」


 そう言って、ちょこんとスカートを掴んで屈伸するかのように軽く上下に揺れる女子。薄い赤色が優しく、ふわりと動きに合わせて風に弄ばれる。絹のように艶やかな細かい髪がさらりと揺れるその様に、光がため込まれるようにきらきらと光が混じる。

 二人がそこにいると、どこか後光が差しているかのようで。


「……キッカさん」

「シレさん、みなまで言うな」


 どう考えても。

 あの傍若無人を絵に書いたようなカス王太子と血が繋がっているとは思えない。


 王族って、こんな感じ!って思える二人だった。

 なんだか、カス殿下を見ていたから王族に対していい感情を持っていなかったけども、しゃべらずじっとしていれば、パーツとかはこの二人と一緒なのだから、ポテンシャルがあるはず。普段の行いのせいでカス殿下って、残念なんだなと改めて思う。


「二人とも、顔に出てますよ」

「……言いたいことはわかるんだけどね。彼らにとっても目の上の瘤であるのだから少しは労わってあげるといい」


 ナッティさんが苦笑いして、ユーロがため息をつく。

 二人とも、本当に毎日大変そうですからね。ご苦労様です。


「で、ナイルス王子とナイア王女が二人揃ってどうしましたか。急がれて、はしたないですよ」

「最近は愚兄のせいでお義姉さまにお会いしてなかったからこちらにいらっしゃると聞いていてもたってもいられず」

「義姉さんの話を聞いて、話したいことがあったんだ。僕にとってはなかなかの死活問題だったし。後、義姉さん、ナイルって呼んでよ」


 二人に優しく語っては最近暗いばかりの表情を浮かべていたナッティさんのとびきりの笑顔が二人に向けられている。

 ナイル王子は、ナッティさんにじゃれつきたい子犬みたいな印象で、ナイア王女は甘えたい子猫みたいな印象。


 ナッティさんも、第二王子さんと王女さんのこと大好きなんだなってことがよくわかる笑顔を浮かべている。さっきの第二王子さんの要望にも「はいはい、ナイル王子」とあやすように答えていることからもそれがわかった。


「私にそこまで急いで話すことでも? 聞くのが楽しみね」


 ……ちょっと、ナイア王女の頭を撫でた手がゆっくりと頬へと移動して、どこか悩ましげに撫でる様は、な~んか違う気配も感じたけど。

 ナッティさん、もしかして、王女様に手を出してたりしてないですよね……?


「そ、そうなんだよ。義姉さん、あの馬鹿兄と婚約解消するって本当ですか!?」


 どこか必死で。でもどこか嬉しそうで。少し悲しそうなところもあるけど、どう見ても嬉しさが勝っているその表情。


「ええ、そうですわね。ナイル王子。ですので、もうあなたの義姉とは――」

「だったら! 僕が姉さんと婚約しても問題ないですよねっ!」


 ……あ。


 思わず、ナッティさんも動きを止める。

 ユーロは、どこか知っていた風でため息をつく。ユーロ、ため息癖になってそう。苦労人ですね。


「……おおっ。まさかの悪役令嬢が第二王子と結ばれるルート」


 いえ、キッカさん?

 ナッティさんは悪役令嬢からほど遠い、聖女のような令嬢ですよ?



 ……女性だけ限定の。

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