137.私の心の行く末(ハナ視点)
王城。
とぼとぼと、私達はよく整備された王城の通路を歩いている。話は大体終わり、ちょっと険悪な雰囲気になりだした会議室からそそくさと逃げてきた私達。
先頭はもちろんナッティさん。その隣には、
「……ナッティ。このままだと君が言っていた通り、私は君の婚約者となるのだが……」
先程、ご立派な会議室でナッティさんのお父様、ドーター王爵様から直々に娘の婚約者にならないかと言われて鼻を伸ばしつつ、そのナッティさんに「婚約者になれて嬉しい。頑張るよ」って宣言をし続けている片眼鏡のにっくきユーロが――
「……ハナさん。ぶつぶつ声に出てる」
「――はっ!?」
二人を見ているとなぜかどろどろと濁った感情が湧き出てくるように思えてしまい、ついついそんなことを思ってしまったけど、実際は、二人ともすごく困っているのは見ていてよくわかる。
「父が、失礼しましたわ」
「言いたいことはわかる。……私の家にはフランがいるから。フランが婿を連れてくれば我が家は安泰だし、嫡男が継ぐことは望ましいことなんだろうけども、こと、君のことになると話は変わってくるからね」
ふぅっと、二人がため息をついた。
なんだかわかりあってる二人という風にも見えてもやもやする。
「……私を手に入れれば、東の領都が手に入りますわ。それを狙ってる馬鹿な令息もいるとも聞いております。その点貴方だったらそういう思惑はないことはわかってますから。……本当に優良物件ですこと」
「人をそういう言い方するのはよくないぞ。いや、まあ、それもそうなのだが。……相変わらず君は自分のことを過小評価しているな」
はぁっとユーロがため息を再度ついた。
ユーロがため息をつくのもわかる気がする。
ナッティさんは、自分は凄くないという風にいつも話をするけど、カス殿下の横暴から女子生徒を救うためにすぐさま動く様とか、先日のキツネさん事案で色々揉めた時に行われた王家主催の晩餐会とかを一人で取りまとめたこととか、私達と領都から王都へと来る道中の、王都魔法師団も真っ青の魔法の扱いとか。そこにさっき本人も言っていた、領都ヴィランの一人娘で後継者ともなると、王国貴族は誰もが手に入れたいと思うはず。ううん、違う。王国だけじゃない。他国も狙っていると聞いている。
ナッティさんを称える謳い文句が、これだ。
【傾国令嬢】
失った国は傾き、手に入れた国は行く末まで繫栄すると言われる、とんでも令嬢さんなのだから。
「……ナッティさん、悪役令嬢みたいな立ち位置なのに、国が傾くほどに中枢に食い込んだとんでもない令嬢さん」
「そこまでじゃないわよ?」
「いやぁ……そこまで以上だと思います……」
私たちの世界でも、そういう悪役令嬢ものはあったけども、実際それをやってのけているのだからすごい。おまけに婚約破棄ものもセットだけど、その破棄はこちらから廃嫡させての破棄だってことを考えると、それは物語が成立しないのではないだろうかなんて思ってしまう。あ。その前に始まってもない……。
「むしろナッティは、自分を悪役令嬢だと言われていることに突っ込まないのか?」
「あら。結構その立ち位置だと自分でも思ってますわよ?」
「……そうなると断罪されるだろうに……」
「物語上はですわね。私が断罪されるように見えるかしら?」
ナッティさんが「ユーロもそういう本を読むのね」と聞くと、「ぐっ」と痛いところを突かれたようにユーロは恥ずかしそうにする。そんなユーロを扇子で口元を隠して笑うナッティさんが、とてもかっこいい。
そんなナッティさんが断罪……。
見えない。
されるように見えないけど、そう思ってる人が婚約破棄されて放り出されるのがざまぁ系の始まりです。
なんて、言いたいけど言えない。
「そう思ってる人こそ婚約破棄されてざまぁされるオチ」
「キッカさん!?」
言ったよ。言っちゃったよキッカさん。
「あなた方の世界の読み物。……読んでみたいわね。でも私は、破棄されるくらいならこっちから破棄してやりますわよ」
ああ……。ナッティさんならそれくらい普通にやりそう。
というかもう、ナッティさんが何かしなくても秒読みだし……。
そう、秒読みじゃなければ、ナッティさんの新たな婚約者に、
「で。ユーロはナッティさんの婚約者に、なるんですか?」
ユーロが、選ばれるなんてこともないんだし。
そう思うと、ナッティさんが隣にいることにもやもやが止まらない。
私はこんなに嫉妬深かっただろうか。なんて思うくらい。
ユーロに、私はどうしてここまでイライラするんだろう。
……好きとかどうかの感情で言うなら、好きなんだと思う。
だけども、学園に通って、時々会話するようになって。
……出会ってまだ間もない。
間もないからこそ、本当にこの人に好きと伝えていいのかがわからない。
まだ、確証が持てない。
だから、よりもやもやしてるのかもしれない。
びくっと驚き怖がってる風なユーロは、ちょいちょいとナッティさんを呼んだ。
互いに顔を近づけてこそこそしだして余計にイラっとくる。
「な、なぁ……ナッティ? どうしてハナはあれほどまでに怒っているんだ?」
「……自分の胸に聞いてみなさい。むしろ私は、あのハナの態度には好感触ですけどね。肌がツヤツヤするわよ」
……二人とも?
こそこそ言ってますけど、聞こえてますからねー?
「ハナさんは、嫉妬中」
「キッカさん!?」
「キンセンさんもいい加減気づくべき。そもそも――ふがっ」
このキッカさんは何を言い出したのかと思い、思わずキッカさんの口を塞ぐ。
「? な、なんだ? 私が悪いのか……?」
「わ、悪くなんて」
「(コクコク)」
くぅ。キッカさんの口を塞いでも、動きで語られちゃう。
「あら、まあそうよね。そうなるわよね」
「ナッティさん!?」
挙句の果てには、ナッティさんも敵となる。
「……んん?」
その相手は相手で、ここまで言われてもわからないって言うのも、どれだけ察せられないのだろうか、と、より一層イラっときた。
ここまでヒント出てたら少しはわかりませんかね!?
「……ハナ」
「ハナさん……」
キッカさんとナッティさんが、そんなユーロを見て盛大なため息をついた。
私もつられてため息をつく。
「な、なんだ? 私だけがわからないのかっ!?」
と狼狽えているユーロ。
うん、まあ……いいんだけど。私としてももう少し時間をかけて考えてみたいしね。
だって、このもやもや。
きっともやもやしたままでいたら。
マサト君――
飛ばされる前に、フードコートで彼に詰められてた時みたいに。
流されたまま、「好き」って答えちゃいそうになっちゃうから。
今はユーロはそのままで、いてください……。
――――――
私は、この場で。
あえて、呟きたいと思います。
そういや、ハナと一緒に逃げてた男子学生、いたな。
インテンス帝国に無事着いたのだろうか。
ハナだけ助けられてたんだよなぁ。
と。
ええ、私。忘れてました(笑
まあ、それ言うなら、メインででてこなきゃいけないちびっこ、優もいないんですけどね(笑
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