136.王城にて 2(ハナ視点)
「――以上が、殿下の報告となります」
ぐったりと。
豪華な円卓を囲んで報告される一つ一つに、ワナイ王は、こめかみを揉みながら苦悩していた。
私達が知っていた殿下の動向は、ほんの一握りだったと思わざるを得ない。
むしろ、追いかけたりしていることについての話にまでまだ至っていない状態で王様がダウン状態ってどういうことなのかと思う。
え。どういうこと?
教師に盾突いて授業を乗っ取って、自身の持論を展開して男子生徒を味方につけようとしている?
授業をジャックした殿下の持論を聞かされた貴族令息「に」かどわかされて、国家転覆並みの話に発展していっている?
え、え? その貴族が、先日のキツネさん事件の時に騒いでいたテン・デ・ダラー伯爵の息子? 王族を排す動きをしている? カス殿下、王族なのに?
サロンの一部を王命として占領して、授業そっちのけで、王都騎士団副団長ヘンケン伯爵家の嫡男、
十八番円環道の端にある怪しいお店で青いローブの男たちと密会していたりしているところを目撃されている???
青いローブ? それってもしかして、私達をこの世界に召喚したあの人達のこと?
いろんな情報をナッティさんと、ドル宰相様と一緒に来たユーロから聞かされて、頭が真っ白になりそう。特に青いローブの人が気になる話だけど、それはまた話を聞いてみよう。
「キクハ令嬢とユウゼン令嬢もそう思っているのかな?」
「最近も一発ぶん殴った」
「女性から殴られるとは……どれだけ……」
えーと……王様?
王太子が一平民から殴られてるって聞いてその感想だけって大丈夫なんですか。キッカさんも言うとは思ってなかったけど。
私とキッカさんは、ナッティさんの護衛としてついてきたんだけど、なぜか王様達から「座るように」と言われて円卓を一緒に囲みつつ、美味しいハーブティーを出されている。
普通に王様と話をする対等なお客様な扱いに私は困惑している。本当に王国のお偉い方々と一緒に卓を並べることは許されていいのかと気が気ではない。
だから、できれば声をかけないでほしい。なんて思っていたのに、王様は普通に声をかけてくる。
しかも、回答を求められている。
変なこといったら殺されたりするんじゃないかと、戦々恐々ってこういうときにある言葉なんだと浮かんで消える。
ハーブティーを飲みながら落ち着け私の心と、元の世界の財閥後継者の人と会った時以上に緊張してしまう。
ああ、そう言えば、あの財閥後継者の男の人――水原凪様、普通にハーレムしてた気がするけど、なんでか嫌いになれなかったのよね、あの人。
なんて、元の世界のことを思い出すと、ちょっとだけ楽になった。ありがとう。水原凪様。
「あぁ……そんなに緊張しなくてもよい。そなた達は異世界からの来訪者で、この世界にとって無二の存在だからね。いつも通りに接してくれて構わない。むしろそうしてくれないとシテン殿から何言われるかわかったもんじゃないから、余を助けるためと思って普通に喋ってほしいかな」
明らかに緊張している私を見て、王様は苦笑いする。
学園ではなんの意味もないキツネさんの庇護は、こんなお偉い方々には効果があるんだと思ってちょっと面白い。
「で、では……カース殿下は、ディフィ男爵令嬢を追いかけることに必死で、最近はあるまじき言動と奇怪な行動に女子生徒に怖がられております」
「ナッティさんが避難させてなかったらどうなってたかわからない」
「……えーと、避難とは?」
「いくつかの区画に私財で王爵の土地を購入して、そこに建物を建てて寮扱いとさせて頂いておりますわ」
「えぇー……。それ本当なのかい……? それ、また私が謝りにいかなきゃいけないやつじゃないかな」
謝る?
王様が?
え、王様が頭下げる???
王様の腰が低すぎる……。自分の子供のやらかしに自国の貴族に頭を下げるとか、そんな王様、見たことないかもしれない……。
「あのさ、ワナイ」
そんな国王様を呼び捨てにするヴィラン王爵は、こめかみに青筋をたてている。
心なし、ではなく、明らかに怒っている口調。丁寧さが消えているのが怖い。
「私は本当に。そんな馬鹿に娘を渡さなきゃダメかい?」
「い、いやぁ……待ってくれドーター。もう少し猶予を」
「私は何度も猶予は与えたはずだけど? 君は何度も、あれを王として、それを支える賢母が必要だといって、ナッティを婚約者に求めてきた。もちろん渋ったし、婚約の打診があったのは結構前だけど、あの頃はまだましなほうではあったさ。でも、今はどうだい? 婚約者がいるのに別の女を無理やりとっかえひっかえ。責任も取らずに別の女の尻を追いかけ、しかも逃げられ怖がらせて。それを王に? この国、亡びるよ?」
「そ、そうなんだけど……」
「王よ。……私も、正直に申し上げますと、これ以上は庇いきれないと思いますぞ」
ドル宰相が報告に目が痛くなったのか、片眼鏡を外して目頭を押さえだした。隣でキッカさんが、「片眼鏡の使い手が片眼鏡を外すとはよっぽど堪えた」と驚愕しているけど、キッカさんのその驚きはどの辺りなのかが私には少し理解できません……。
「ドルまで……。ゆ、ユーロ君。君からみて、カースはどうだい? うまくやってるかい?」
一人だけこの場に立っているユーロに声がかかった。
ドル宰相の後ろに立っているユーロを見ると、なぜかぱちっと目があってしまい、二人揃って目を逸らしてしまう。
「……ん? どうしたユーロ」
「い、いえ、なんでもありません父上」
「そうだ、ユーロ君。よかったら君がナッティをもらってくれないか?」
「「っ!?」」
ヴィラン王爵の喜々とした声に、私の胸がちくりと痛む。
思わずナッティさんを見ると、ナッティさんは苦々しい顔をして「それを言わないでほしかった」と明らかに嫌そうな表情を浮かべて扇子で顔を隠しだした。
「い、いや……王爵様。私は……」
「君なら僕の領都を任せることができるしね。一石二鳥じゃないか」
「ドーター殿、私の家をどうするおつもりか」
「えー、フランちゃんいるからいいでしょ。私のところはナッティしかいないんだから。王妃にならないなら領都を継いでほしいし」
「王妃にならないのは確定なのかな、ドーターの中では」
「当たり前――」
ヴィラン王爵は、その笑顔を一瞬で真顔にして、王様を見ると、
「――ワナイ。もういい加減、私も王国を見限ると思うといい」
宣戦布告。
反乱ともとれる発言を、王様に向けて、言った。
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