135.王城にて 1(ハナ視点)


 モロニック王都。王城。


 こつこつこつ、と、石畳を歩く複数の音が大通路に響いている。

 私の今日のお仕事は、王城でお偉い方々とお話する予定のナッティさんの護衛のお仕事。一応ギルドを通して使命依頼されてのお仕事なので、しっかりとお金も頂ける。

 とはいえ、本来はありえないオーダーなんだけども。そこは、ほら。王様と王爵様やS級冒険者様の御威光だったりする。


 王城でなにかあるわけでもないけども、私達もお呼ばれしてるらしくて、キッカさんと私は、歩くだけで貴賓を感じさせるナッティさんの後ろ姿を見ながら追従している。


 


 朝。

 アズさんとヤンスさんが、食堂で食事を待つ間恥ずかしそうにしている姿にによによしていた私は、さらに少しだけ遅れてやってきたつやつやのシレさんとげっそりしたジンジャーさんに驚愕しながら運ばれてきた朝食を堪能させてもらった。

 キツネさんの喫茶店が壊れてからずっと王爵邸でお邪魔させてもらって美味しい料理を食べさせてもらっているけども、王爵邸の料理もおいしすぎて困るくらいだけど、そろそろラーナさんのお料理が恋しくなってくる。


 ラーナさん達どこにいったんだろう。

 喫茶店が壊れてから、キツネさんの別の邸宅へと移動するって言ってから姿を見かけない。

 ナッティさんから、ミィさん達も王爵邸で宿泊することになったと聞いてたんだけど、キツネさんの暴露話が王城でされてから、見かけてない。

 キツネさんのお家に何か問題があったのかもしれないけど、それさえもわからない私は少しだけ不安な気持ちだった。


 でも、そんな気持ちのままでは今日のお仕事はできない。

 しゃきっと気持ちを切り替える。


 朝食を頂いた後は、シレさん達はシンボリック神教国への出発準備のために城下町へと繰り出すみたいで、私はナッティさんの護衛兼侍女として王城へとキッカさんと同行する。


 ナッティさんは、今日はどうやら、王様とヴィラン王爵様とドル宰相様との定例会議に参加するみたい。

 学園が休日でも王城へ奉公しなければならないナッティさんは、いつ休んでいるのかと心配になる。

 どこぞのカス殿下も見習ってもらいたいと思う。


 いつもナッティさんにくっついている侍女見習いのディフィさんは、今日は一緒に来ていない。王城にはアレがいるから、ディフィさんを連れてきて何かあったら大変。

 ディフィさんは学園寮を借りているけど、そこに押しかけてくるどこぞの殿下がいるので女子寮は閑散としている。今日は、というより最近はみんな、殿下が女子寮に入り込んでくる恐怖もあって、ナッティさんが王都内に借りた一画に避難してそこから通っているのだけど、ディフィさんは過保護なナッティさんによって、王爵邸内の侍従部屋に寝泊まりさせてもらっている。

 邸内本宅だとカス殿下が来ることがあるから離れにいてもらっているみたいで、王爵邸に努める従者さん達の結束力も高くて、見つかることはほぼないそう。


 灯台下暗し。とはよく言ったものね。



「ナッティさん、今日は何を王様達と話しする?」

「殿下の動向の週間報告ですわ」

「……終わった。殿下、なむ」

「そうなればいいのですけども……」


 はぁっとナッティさんはため息をつく。


 ナッティさんの定期報告は、おそらく、学園で起きた出来事のことがメインになるのだろう。

 ディフィさんが殿下に追い掛け回されてる光景をみた女生徒たちが怖がってしまって学園から苦言が来ていることとか、その庇護をナッティさんがすることになったこととかも話がされるのかもしれない。

 ついでに、アズさんが殿下から謝罪受けてないこととかも。


 なんで周りがこんなに振り回されつつ頑張っているんだろう。

 ふと思えば、殿下って、なんであんなことをしても許されているのだろうと思った。カスなのに。


「ワナイ国王が最後の砦?」

「ええ。王がどうしても殿下を次期国王に、と……」

「なんで? あんな女の敵、オークとかゴブリンとかとまるで変わらない」

「……キッカさん? 一応殿下は人ですわよ?」


 一応というナッティさんも、キッカさんばりに酷い。


「……昔は、聡明叡智という言葉がぴったり似合う、紳士の鏡でしたのよ」

「「え゛っ」」


 思わず立ち止まると、ナッティさんのこつこつ音もまた止まる。振り返ったナッティさんはどことなく寂しそうな表情を浮かべ、その顔を扇子で隠した。


「ある日を境に、妙な言動をするようになって。そこから一気に女狂いに走りましたわね」


 当時のことを思いだしたのか、ナッティさんは遠い目をして大通路から見える庭園を見つめる。

 王城はナッティさんの庭みたいなものと聞いている。小さい頃からヴィラン王爵に連れられて王城で過ごした日々もあったそうだから、その目線の先は、もしかしたら思い出が詰まっている場所なのかもしれない。


「……その時の眩しい殿下を、国王様は、忘れられないのです。……国王様も、王妃様も。お二人にとって、最初のお子様で、可愛がられておりましたから」


 そんな小さい頃のことさえ知っているナッティさんも、忘れられないみたい。

 だから、婚約者をずっと続けているのかもしれない。そう思うと、ナッティさんは――


「でも、私のディフィに手を出すなら話は別ですわ」


 ――ナッティさんは、きっと。

 ……怒ってる、みたい……? あれ、あれぇ?

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