139.市場にて(アズ視点)



 王都市場。

 王都でなんでも揃う場所と言えば、ここ。

 今日はシレさんと一緒にお買い物。領都とは違ってフリーマーケットなイメージはないけど、青空商店街ってイメージといえばいいのかな。


 ジンジャーさんとヤンスさんは、冒険者ギルドに用があるからと別行動をしている。

 教国に向かうための準備をしてくるみたいだけど、食料とかは私達が用意して、武具や諸々の冒険に必要な道具は二人が用意してくれるそうだ。

 後、ミント教皇様が戻るときに一緒に向かうってことで、冒険者ギルドから数名護衛も一緒に行くみたい。というのは口実で、ミント教皇様の周りはシライン公爵様とその一部隊が囲んでいるから、どうやらヤンスさんの護衛といったほうが正しいみたい。

 ヤンスさん、次の英皇様に確定しているけど、ガンス侯爵様に合流しないと護衛も何もないみたいだから。


 ……そういえば。

 武具で思い出したけど、私達、みんなキツネさんから武器借りてるんだよね。

 みんな揃って全体的に黒い武器。漆黒シリーズってキツネさんは言ってたけど、素人が見てもいい武器だなって思えるくらい、なかなかの存在感がある武器なんだよね。

 これ、借りたままでいいんだろうか。



「アズちゃんアズちゃん、これなんてどう?」


 市場で美味しそうな食材を見つけてはシレさんが楽しそうに私に聞いてくる。

 シレさんの手に握られているのは、リンゴとミカン……みたいな見た目をしたもの。多分味とかも一緒だと思うんだけど。


 私はじっとリンゴとミカンみたいな果物を見つめると、【鑑定】と呟いた。

 リンゴとミカンのそばにちっちゃな半透明のボードが現れると、そこにしっかりと果物の名前が出てきている。


 ――――      ――――

 りんご       みかん

 甘い。        濃いめの甘さ。

 酸味は薄い。     皮は薄い。

 赤い。        ――――

 ――――      


 うん。

 リンゴとミカン。リンゴとミカンだよこれ!

 というか、適当すぎないかなこの鑑定!

 人にはかからないのに、できたと思ったらこれくらいの情報量しか出てこない。鑑定って、チートだと思ってたのに……。


「リンゴとミカン、ですね……?」

「それ以外に見えるアズちゃんにびっくり」


 異世界に来て同じ名前だっていうことにびっくりしましょうよ!

 そう言ってみると、シレさんも気づいて「ほんとだ!」と驚き笑う。


「美味しそうだから買っていこっか」

「シレさん、一週間以上の旅するのに腐ったりしませんか? だめじゃないですか?」

「えー、ドライフルーツにしたら長持ちしない?」

「できるんですか?」

「頑張ればできるんです」


 シレさんはそんなことを言いながらお店の人に声をかけている。

 両方とも一個銅貨一枚と鉄貨一枚なので向こうの世界とそこまで値段も変わらない。もしかしたら少し安い程度かもしれない。

 この世界の通貨にも少しずつ慣れてきたなぁと思いながら購入しているシレさんを見る。


 この世界の通貨は、


 屑鉄貨 :    1円(一円)

 鉄貨  :    10円(十円)

 銅貨  :   100円(百円)

 銀貨  :  1,000円(千円)

 金貨  :  10,000円(一万円)

 大金貨 : 100,000円(十万円)

 白金貨 :1,000,000円(百万円)


 と、硬貨だけでのやり取りとなっていて、私達が冒険者として稼ぐお金は、薬草採取で普通品質の薬草一束おおよそ銅貨九枚程。いい品質のものや珍しい薬草であればそれだけで銀貨一枚になったりすることもあるけども、王都や領都のそばでとれる薬草なんていい品質のものもなければ、本当に小遣い稼ぎだったりする。

 もし薬草採取でお宿に一泊しようとすると、普通のお宿で一部屋借りると銀貨五枚程なので、薬草採取だけで生計がたてるのも苦労するということを冒険者をやり始めた時に教えてもらった。

 本当に、キツネさんに助けてもらえなかったらどうなっていたんだろうとしみじみ思う。


「お姉ちゃん可愛いから銅貨一枚でいいぜ」

「あら嬉しいありがとー」


 そんなシレさんは、毎日がとっても楽しそうだ。

 一方の私といえば……


「ねーねー、アズちゃん、アズちゃん」


 掘っ立て小屋みたいな建物で商売をしているおじさんからリンゴとミカンを購入したシレさんは、持っているバッグに詰め込むと、私ににやぁと妙な笑顔を見せて話しかけてくる。


「で?」

「で、とはなんですか」

「またまたぁ。ヤンスさんとちゅーしてたじゃない」

「っ!?」


 見てたんですか!?

 思わず凄い勢いでシレさんを見てしまう。


「屋敷の上からじーっと見てたんだけどね。他の人は気づいてないと思うわよ。大丈夫、ジンジャーさんには見せてないからね」


 にこにこと笑顔のシレさんにそう言われる。

 でも、み、見られてたことが問題だと思ってます……。


「まー、これで私だけじゃないから嬉しいんだけども、アズちゃんは大変そうね」


 市場を歩きながらシレさんはそんなことを言う。

 時々立ち止まって食料を購入したりしながら話しているけど、シレさんの持ってるバッグにはどう考えても入りきらない量の食料を入れてるような気がするんだけど、あのバッグもしかして……。


「アズちゃん、このままいったら皇妃様だから」

「……うっ」


 私のバッグ疑問は、その言葉で一瞬で終わる。


 シレさんが嬉しいと言っているのは、多分この世界にジンジャーさんと一緒になる決意を固めたからだ。これから神教国にいってジンジャーさんの家族に挨拶してくるみたいだし。向こうで言うならスピード婚だ。


 私も、このままヤンスさんと上手くいったらもちろんそうなる。

 元に戻れるなんてことはないんだと思う。だから、この世界で生きていく。

 ヤンスさんと恋人同士になるってことはそう言うことなんだと思う。


 ただ。

 ヤンスさんとそういう関係になれたのはいいんだけど、それとともにヤンスさんが実は英皇後継者というところが問題で。

 私はナッティさんみたいに教育を受けているわけじゃないから、どうしたらいいのかと心配になる。

 もちろん、このまま進めばであって、どうなるかは分からないけど。


「まー、でも。今はそこまで考えることでもないかー」


 うん。そう。きっとまだ考えることじゃない。

 その時になってきたときに考えたほうがいいかもしれない。




「なにをですか?」

「なにをって、ヤンスさんとアズちゃんのこ――……っ!?」


 そんな話をしていた私達は、急に声をかけられた。

 びっくりして警戒しながら背後を見る。


「アズ、あの冒険者と仲良くなったのですか。これで旦那様の奪い合いが一人減りましたね」


 そこに、というか至近距離にいたのは、メイド服姿のエルフのミィさんだ。




---

以前、ミィがソラにワインを飲ませようと(49話)してましたが、

五十年物のヴィンテージワインが白金貨三十枚分、グラス一杯辺り白金貨五、六枚とミィが言ってました。


どんだけたけぇワインだよ。と自分で書いておきながら驚愕したのは内緒です。

でも、この世にはもっと高いワイン、あるんですよね…… 

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