133.その想いを、動きにのせる(アズ視点)
本お話は、アズがヤンス語を理解しているので会話が成り立っています。
読まれている皆さんは今までの話の中でヤンス語を理解しているので、是非ヤンス語で読んでみてください(無茶ぶり)
ほら、よく見たら見えてくるはず。ヤンスがなんて言っているか、小さな文字で……
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モロニック王都 ヴィラン王爵邸。
私はその邸宅の庭園で、二人っきりで空を見つめている。
数本の綺麗に直線状とアーチを描いて延びる石畳の道と、季節は冬なのに綺麗な花々が咲く庭園。その中で、芝生だけの庭があって、普段はティーパーティをするときに開放されるらしい広い庭で、私は空を見つめていた。
お茶会は終わって、今は夜。
暗闇の中、庭園の道を、定期的に建てられた電灯がうっすらと照らす光だけの世界。
空には満天の星空が拡がっていて、空気が元の世界とは違って澄んでいるんだってことがよくわかる。
そんなことを思ったのは、領都ヴィランから王都へ、ナッティさんの護衛をして夜営をしたとき以来だったかもしれない。
あの時はまだ余裕があって、空を見上げることができたから。
今は……。
学園で忙しかったり、いろんなことがあって、空を見つめることができていなかった。
……というか、今、について言えば、空を見つめるくらいしか、できない。が正しいかもしれない。
だって。
「ヤンスが、ヤンスでヤンスね」
星が綺麗でヤンスね。と、ヤンス語で語り掛けてくる、その人。
横にいるのが、ヤンスさんだから。
横顔をちらっと見ると、そのかっこよさに胸がときめく。
そもそも、なんでいつものフードを被っていないのか、なぜ被らなくなったのか。ああ、被らなくなったのはキッカ達が色々言ったからだっけ。でも、こういう時は被っていてほしい。私のためにも。
ああ、もぅ……どうして今こうやって現れるのか。
最近ヤンスさんの話ばっかで周りが盛り上がっていたから、そりゃもー、もう。いつかこうやって会うこともあるだろうなぁとは思ってましたけども。
でも、もうちょっと後にしてくれていれば、きっと踏ん切りもついて諦めることはできたんだと思う。
だから本当は、もうちょっと後で話をしたかったなあとか思う私。だけど、こうやって悶々と考えこんじゃうってことは、どうせヤンスさんのことを諦められなかったんだろうなぁと思う自分もいる。
「……アズはん」
「ひゃ、ひゃい」
ヤンスさんに声をかけられて、びくっと体が震える。
そんな私を見て、ヤンスさんは少し寂しげに笑った。
……なんですか。私を憤死させたいんですか、その笑顔で。
憤死で思い出したのは、元の世界の昔の話、三国志。軍師は舌戦をして、よく憤死したって歴史書に書いてあったっけ。
今、私は、ヤンスさんと舌戦することもなく、笑顔だけで憤死しそうなんだけど。
「あの時のこと、
「……はい」
「セフィは、ヤンスの
「お兄さんの婚約者、ですか?」
「そうでヤンス。だから、セフィとは、
そのお兄さんの婚約者がどうしてヤンスさんのことを婚約者と言ったのだろう。
あの時の聖女様は、どう見てもヤンスさんのことが好きで婚約者であることを誇りに思っているようにも見えた。
……その後の色々で、うやむやになったし、聖女様が今どうしているかも知らないけども。
少なからず、私から見た聖女様は、ヤンスさんを他の人に取られないように必死さがにじみ出ていたことは確かだった。
あんなにも綺麗な人なんだから、私が勝てるわけがない。だから私だって、そう言われて、ヤンスさんには婚約者がいたのにどうして私に優しい声をかけてきたのかと、勘違いさせるようなことをしないでほしいと怒っていたのに……。
「ヤンスさんにとって、聖女様は、どういう人なんですか?」
聖女様は、どう考えてもヤンスさんのことが好き。
だったら、ヤンスさんはどう思っているのだろう。
「セフィは……
「妹……?」
「将来的には兄の
「子供の頃から一緒なんですね……」
そう言われて、なんだか、嫌な気分になった。
ヤンスさんの子供時代を知っている幼馴染みたいなもんだ。
私は、ヤンスさんをそこまで知っているわけでもない。
ヤンスさんが実はシンボリック神教国の皇族だったなんてことも私は知らなかった。……それはヤンスさんも知らなかったらしいけども。
ほんの数ヶ月、一緒にいてくれて、優しく声をかけてくれるかっこいい人。
今にして思えば、それくらいのことしか知らない。
「なんだか、尻の軽い人、なんて言われても、言い返せないかもしれない……」
「ヤンス?」
「なんでもないです」
流石にこの世界に来て、こんな感じでヤンスさんにしか接してないから、そう言われることもないと思うけど、それでも、やっぱり、見た目だけしか見てなかったんだななんて思うと、悲しくなった。
「ヤンスは、セフィのことも含めて、一度教国に
「あ……シレさんとジンジャーさんと一緒に、ですよね」
「ヤンス」
そう言うと、ヤンスさんは、ふーと大きく深呼吸をした。
その深呼吸に気づいて、隣にいるヤンスさんをちらっと見ると、ヤンスさんは私のことをじっと見つめていた。
え。いつから見てたんですか、ヤンスさん。
「アズはん」
「ひゃ、ひゃい」
真剣な表情のヤンスさんに、私も体をヤンスさんのほうに向けた。向けると、勢いよく両肩を掴まれて変な声を出してしまう。
「セフィは、ヤンスとは
「ひゃ、ひゃい」
「きっと、色々
「ひゃ、ひゃい」
「
「あ……」
暗いから。うん、暗いから。
でも、暗いけど、ありありと、恥ずかしそうにしているヤンスさんが、目の前にいる。
その目線が、その目に、私が、私だけが映っている。
そんな私もまた、恥ずかしそうにしている。うん、真っ赤。恥ずかしすぎて真っ赤だ。うん、知ってる。私の顔は今にも破裂しそうだってことくらい。そんなところで再認識、したくなかった。
「
そう言ったヤンスさんの真剣な顔に、私はもう目が離せない。
次第に近づくヤンスさんの顔。
真剣な顔から驚きに彩られるヤンスさんの表情。
「あ、アズはん?」
ですよね。
だって、近づいているのは、私だから。
「——そんなに、長く、待てませんよ?」
そう言うと、私は、ヤンスさんの唇に、自分の唇を重ねた。
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