127.ヤンスのヤンスはヤンスでヤンスしてる(シレ視点)
「……え。つまりは、ヤンスさんって……」
私がヤンスさんを正座させ(ついでにさっき私に酷いことをいったジンジャーさんも隣に正座させて)ヤンスさんから事情を聞こうとしたとき、ミント様からとんでもないことを聞かされた。
「ええ。ヤンス様は、シンボリック神教国の唯一の継承権を持つ皇子となりますね」
アズちゃーん!
あんたとんでもないのに惚れちゃったわねー!
嫌味でもないけども、勇者だからそういう人に好かれちゃうのかしら。
あ、それ言ったら私も聖女っていうレア称号持ちだから当てはまっちゃうか。
……でも、聖女って、なんだかんだでいっぱいいそうだからそこまでレアじゃないのかも。うん、アズちゃんが特殊ってだけねこれ。
この世界の歴史に疎い私のために、ミント様は軽く歴史の話もしてくれた。
ミント様がどうして私が歴史を知らないのかについて知っているかというと、ミント様は私達が異世界人であり、フォールセティ様の神の愛し子であることを知っていたから。
それを聞いた公爵様がまた私に求婚してきたけど、とりあえずうるさいのでジンジャーさん達と一緒に正座させておく。
もちろん仁王立ちで怒る私の隣には、同じように公爵様に怒るミント様がいる。なんともまあ心強い。
さて、その歴史について。
元々教国は、シンボリック皇帝が作った国であり、モロニック王国、インテンス帝国、シンボリック皇国の三国で絶え間ない領土争いをしていたそうだ。
そんななか、モロニック王国の王子とシンボリック皇国の聖女が恋愛の末結ばれ、政略結婚としても活用されて両国に和平協定が結ばれる。これによって、二国で争いを好むインテンス帝国に対抗するようになった。
二国の同盟により苦境に立たされたインテンス帝国は、モロニック王国の西の領土——今でいうタジー公爵領から撤退し今に至るそうな。
その後、皇国の皇帝は、国家間の争いが収まったことにより隠居をしようとしたけど、国内の争いも治めて皇帝となったこともあり英雄視され、皇国のシンボル、象徴として祭り上げられることとになる。モロニック王子と結ばれた聖女の関係者が教皇としてシンボリック教を唱え国教となり、シンボリック神教国ができあがったそうだ。
これが百年くらい前の話。
なんともまー、ずっとインテンス帝国は攻めてきてるのね。
インテンス帝国がいまだモロニック王国に攻めてくるのは、このタジー公爵領を取り戻すためだというのだから、戦争ってやっぱり恐ろしいなって思う。
モロニック王国からしてみたら、自国の領土を戦争によって奪われたので、それを取り返したってだけの話なのに、帝国が自領だと言いがかりをつけて侵攻しているというのもまたどちらかが譲歩するか滅びるかしない限りは終わらなそう。
インテンス帝国にも、そうしなければならない理由はあるみたいだけど、そこに住む人達からしたらいい迷惑よね。
とはいっても。
今は年に数回攻めてきて小競り合いをしている程度らしいけども。
それにしても、王国側としては都度兵力をそっちに割かなきゃいけないんだから国庫が疲弊していくわよね。
……あ、それが狙いなのね。
こりゃ、近いうちに大規模な戦争がありそうね。怖い怖い。
でも、そうなったとしても、シンボリック教国とモロニック王国はいまだ友好・盟約関係にあるから大丈夫ってことね。
王国は王政・王制を敷いて王が国を護り、君主としての英皇と、宗教国家の教皇によって運営される国がシンボリック教国。うん。覚えたわ。
そんな話を聞いた後、ミント様からシンボリック神教国の現状を聞くと、未曽有の危機に陥っていることが分かった。
公とはなっていないものの、英皇の直系子孫が不慮の事故や暗殺によって殺害され、皇国内で後継が途絶えてしまったそうだ。
えー。国のトップを暗殺とか、どれだけ警備が雑なのよ。とか思ったけど、なんだか怪しい雰囲気みたいで、ミント様もキツネさんからも気をつけるよう言われたみたい。
シンボルがなくなれば、宗教団体の国として運営していくことになる。それは英皇が創り上げた国を、宗教が乗っ取ることともなり、人心の意味でも危うい。宗教団体と君主がいるからこそ成り立っていた国なんだからという意思の元、直系に連なる人を教皇自ら探していたそうだ。
そんな中、継承権は低いものの、シンボリック教国の侯爵、ガンス・ガ・ヴァルスデ・ヤンス侯爵の妹を妻として、伯爵の地位をもらって皇室から離れた伯爵がいたことを知った。
それが、フリット・トゥエル・ウル・シンボリック伯爵。ヤンスさんの実のお父さん。
フリット伯爵も皇族の悲劇に同じように巻き込まれて妻と共に死亡。伯爵家も謀略によりお家断絶。だけども、ガンス侯爵が密かに妹の息子を伯爵家から救出し、死亡扱いにした後、ヤンスさんを孤児扱いにしてから養子として縁組し匿っていたと聞いたそうだ。
「その、唯一となった英皇直系者が、ヤンス・ガ・ヴァルスデ・ヤンス様。つまり、あなたです。ヤンス様」
な、長い。
でも、歴史とかその中の話を語るとこうなるわよね。
これでも十分略したほうだって言うんだから、どれだけ探してたんだろうかと思う。
「ヤ、ヤンスでヤンスっ!」
「……」
「ヤンスはヤンスであって、ヤンスなわけがないでヤンス! だったらガンス様がヤンスをヤンスるわけないでヤンス! そうだとしたら兄上とヤンスがヤンスることもないでヤンスし、ヤンスがこうやって冒険者をヤンスしてる意味もなくなるでヤンス!」
「……」
「ヤンスのヤンスはヤンスでヤンス! 決してヤンスなんかじゃないでヤンスよっ!」
「……シレ様」
「……はい、なんでしょうか、ミント様」
私は、この一瞬ほど、ミント様と意思を共通し共有できたと思ったことは、なかった。
「……なんて言っているか、わかりませんね」
「本当に。アズちゃんに来てもらえればよかったです……」
「ヤンスっ!?」
ヤンスさんが、なんて言っているのか。ヤンス語すぎて、分からない。
「しかしよぅ、ヤンス。ガンス様の妹様が伯爵様のところに嫁いだのも確かで、ヤンスも養子なんだから、今の話が間違ってるわけでもねぇぞぅ?」
「ジンジャーさんもなんでそんなこと言うでヤンスかっ!?」
そんな中。
ヤンスの言葉がわかる、ジンジャーさんという救世主が現れる。
でもね、ジンジャーさん。
少しはその頬とか首元のあざをですね。
ちょ~っと、隠す仕草くらいはしてほしいです。
私がしておきながらなんですけども。
見てると、ちょっと恥ずかしくなった私であった。
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