126.きゅうこん(シレ視点)



「ふわっ、あのっ、そのっ!」


 落ち着け、落ち着くんだ私。

 え、なにされたって今ミント様に言われたの?

 キュウコン? キュウコンって、あの多年生の草木の宿根草の中でも生育に適さない時期に枯れた後にもう一回生育始めるものに分類されるやつ? 確か茎とか葉とかに養分が溜まって貯蔵機関が肥大化してるやつのことよね!

 私と一緒に畑耕しましょうってこと? 私は生まれてこの方畑仕事はやったことないからそんなこといきなり言われても困るんだけど。あ、でも、ジンジャーさんとなら。都会から離れたところに一軒家でも建てて一緒に住みながら長閑に暮らすのもあながちいいかもしれない。コテージみたいな家の庭先でロッキングチェアで手持ち無沙汰に揺れながらジンジャーさんが畑を耕してるところを見たりして、「ああ、幸せだなぁ」とか思ってのんびり余生を楽しむのもいいかもしれないわね。


「ササラ様」

「シレで大丈夫ですミント様!」

「あら。ではシレ様。……なかなかシュールな光景がずっと続いていますが、ご理解されていますか?」


 シュール。あれよね、私達の世界で猫ちゃんが大好きなチューブ状のおやつよね。

 あれをご飯として食べさせてるとすっごい丸っこい猫ちゃんができるって聞いたけど本当かしら。


「ミント様、チュールって、この世界にもあるんですか?」

「……シレ様? その、ちゅ、ちゅーる? というものがなにかはわかりませんが……混乱されてますね」


 あれ、私何か間違えたこと言ったかしら。ミント様が妙に不思議そうな顔した後苦笑いしてる。


「ほら、やっぱりいきなりすぎるのですよ、シライン様」

「む……」

「と言いますか。あちらの世界でどのような求婚の仕方があるのかは存じ上げませんが、こちらの世界でも、シライン様の求婚は、なかなかに受け入れがたいところがありますよ」

「わ、私はなにかを間違えているのだろうか」

「おおいに」

「な、なんとっ!?」


 シライン公爵様がオーバーアクションで驚き立ち上がる。

 あ、キュウコン。キュウコンって求婚のことを言ってたのね。それはそれでおかしいでしょ!


「どこがおかしかったのか教えてくれないだろうか」

「……普通に、上位爵位持ちがそのように求婚した場合、強制となりますよ。まずはそこからですか」

「強制……そ、それは……申し訳ない!」


 すぐさま私へ深々とお辞儀をして謝ってきた。そもそも公爵様ってすっごい偉い人なんだけど、頭をそんな簡単にさげてもいいのかしら。この世界でも頭を下げるってなかなかできることじゃないと思うんだけど……。この世界に似た私達の世界での中世ヨーロッパ辺りでも、頭を下げるってなかったはずよね。


 いやまあ……私、この世界の人じゃないから、その爵位持ちが求婚してきたら強制とかって意味がよく分からないんだけど……。


「あ、頭をあげてください」

「ぬ、許してもらえるのだろうか」

「許すもなにも、頭をさげられるような身分でもございません!」

「何をいいうかササラ嬢。そなたは聖女様である。それは我ら貴族が尊ぶべき存在であるのだから、聖女様に不愉快な想いをさせてしまったのであれば誠心誠意謝るのが筋であろう」


 いや、不愉快云々で言うなら、


「いえ……あの。私、すでに恋人がいまして」


 隣で蒼褪めたままのジンジャーさんの腕を、ぐいっと掴んで引き寄せる。

 そう。私にはすでに恋人がいるので、シライン公爵様とそういう関係になることはない。それこそ、恋人がいるのにそうやって無理やり求婚してくるのもどうかと思う。


「そ、その……シレ?」

「はい? なんですかジンジャーさん」

「いや、その……公爵様と一緒になったら、俺なんかより幸せになれると思うんだが……」

「……」























「   ぁ゙   あ゙   っ  ?  」











 思わず、ジンジャーさんの胸倉掴んで怒ってしまう。


「なんと……恋人がすでに。それこそ申し訳ないことをした。お詫びに我が領地で——」

「ちょっとそこの公爵。黙っててもらえます?」

「……ぬ、ぬ……すまない」

「ジンジャーさん、ちょ~~~っと、話をしましょうか」

「ぉぅえ!? お、ちょ、ちょっ!?」


 とりあえず、ジンジャーさんに思い知らせるため、私はずるずると、ジンジャーさんをそこらへんの木陰へとひきずる誘う








 ……


 ………


 ………………


 ………………………………………


 ………………………………………………………………………


 ………………………………………………………………………………………


















「で? 何の話でしたっけ?」

「……お、お熱いことで」

「え? 何かありましたか?」

「い、いえ。なにも。何も見ていませんよ私は。そ、それに見えてたわけでもございませんので。何があの木の下で行われていたかなんて、ちょっと知りたくても知ったら大変なことになりそうなので聞かないし見てないし、何もなかったと思います。ええ、そう思いますとも」


 おっかしいなぁ。

 ミント様が焦ってる。心なしか顔が赤い。隣で呆然と立っているシライン公爵様も、なんだかもじっとしてるというか、恥ずかしそうにしているというか。


 う~ん? 何もおかしいことないんだけどなぁ。




 さて、それはそれとして。


「ヤンスさん」

「ヤ、ヤンスっ!?」

「どうでもいい話はおいておいて、そろそろ色々話を聞きたいのですが」

「ど、どうでもいい……私の求婚がどうでも……」


 多分、ずっと空気みたいに気配を消してるヤンスさんが何者なのか含めて、聖女繋がりできっとミント様が知っているはずだから、問い詰めてみましょうか。






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お知らせ


そろそろ(2023/11/26時点記載)カクヨムコンテスト9が始まりますね。

本作品は参加はしませんが、以下作品で参加する予定です。


■ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890238672


既存作品参加ですのでのんびりまったりやっていくつもりですが、期間中は参加していないシト様のほうは週2更新から週1更新へと変更させて頂きます。


ライセンスは、カクヨムコンテスト5.6.7と中間突破しましたが、8の中間は突破できず。9が突破出来たら嬉しいななんて思いながら。


これからも両作品をよろしくお願いします^^

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