123.冒険者のお仕事(シレ視点)


 王都郊外。

 モロニック王国は東西南北を気候の違う地域に囲まれた国。

 王都に向かうまでの道も方角によって景色も変わる面白い土地。



 北はシンボリック神教国へと続く草原道。

 教国へと続く道は遥か遠く、どこまでも草原が続く。

 草原に自由を愛する遊牧民が現れたらそれは教国へ辿り着いた証。


 南は砂漠と流通と商売の草原道。

 草原を進んでいくと現れる砂漠。砂漠の先にある自由都市ラヴェルへと向かう道は、砂に隠れる旧都市群の遺跡とそれを根城にする盗賊たちの巣窟。その先にある一攫千金の夢へと突き進めば、長者の未来が溢れてる。


 西はインテンス帝国へと続く草原道。

 人と人の争いは遥か遠く。その草原はいまだ帝国軍に侵入されたことのない不可侵の草原。

 『盾』の公爵が護るタジー領の町村は、王国へ至る不可侵の草原を守る領地。常に戦いと平和に満ち溢れている。


 東は領都ヴィランへと向かうなだらかな草原道。

 山々を遠くに見つつ、途中から時折現れる大小さまざまな森を進み、領都ヴィランへと向かう道のりをいくつかの宿場町を経由して向かう。

 向かった先には人類未踏の森『封樹の森』。

 ワンランク違う強さをもった魔物が溢れる混沌と平和の都市。ヴィラン王爵が治める小王国。



「——ふーん。ねぇジンジャーさん。この謡い文句って言うの? こういうの考えるって誰なのかしら」


 そんな東西南北を覚えやすく……覚えやすい? 覚えやすいとあまり思えない違いを説明する一枚の地図と紙を見ながら、私は遠くに見える草原を見る。

 だって、全部草原から始まってるし。そりゃあ、モロニック王都は草原に囲まれているといってもいいくらいに見晴らしがいいから始まりが一緒なのは間違ってないんだけどね。もうちょっとこう、何かあるんじゃないかなぁとか思うんだけど……。

 王都そのものは一段高い程度の台地にあるけど、そっから先はひろーい草原。草原というより平原かしら。


 ……どちらもそんな変わらないわね。


 どちらにしても、王国の周りは草原があるってだけを称えてるみたいで、ちょ~っと面白くないかなぁって思うのは私だけなのかしら。


 称えるんだったら、王都の中央を囲む湖畔とその中央の王城よね。

 それと、王都を流れてる水。あれって北西遠くに見える霊峰から流れてきてるらしいけど、そこまで水挽いてきてるって凄いと思うんだけどなぁ。


「シレ、そりゃあもちろん、吟遊詩人とかじゃねぇのかぁ?」

「え、吟遊詩人とかいるんですか!?」

「あ、ああ。いるぞぉ? いろんな英雄譚とか歌ってるの、時々冒険者ギルドとかで見かけるだろ?」

「……そこまで冒険者ギルドに入り浸ってないからみてないですけど」


 それは一度会ってみたい。

 ……あ、でも、こんな歌を歌う人達だったらそんな会いたくないかも……。


「ちょっと娯楽に飢えた私は、そんなことを思うのであった」

「? なにいってんだぁ?」


 不思議そうにするジンジャーさんに勢いよく抱きつきつつ、「なんでもなーい」と思わず笑うと、ジンジャーさんは私の頭をなでなでしながらちょっと恥ずかしそうな顔をする。


「おお、そんなところ、なかなかいい点ですよ、ジンジャーさん」

「どういうところだよ……」


 呆れるジンジャーさんから少し離れる。

 こういうのをしっかりとツッコミ入れてくれる人が傍にいるのに役割果たさないから私が二人役をやってる風になっているので、そろそろカツを入れないと。


「で、いつまで凹んでるんですか、ヤンスさん」

「……ャ、ャンスー……」


 数日前の一件以降。

 私はお世話になってるヴィラン邸で寝泊まりしながら、アズちゃん達とは常に別行動をしている。

 いやまあほら。私の年齢で高校生活をもう一度満喫しよう!って気にもならないから……ならない……なるかも。ちょっとアズちゃん達が羨ましいけど、アズちゃん達のためにも少しでもお金貯めとかないとねって思って今はジンジャーさん達とパーティ組んで一緒にギルドのオーダーをしているところ。


 今日のオーダーは『薬草採取』。そこらへんに生えてる雑草にしか見えない薬草と、雑草にしか見えない毒消し草、後は雑草にしか見えない薬味になる草を一定数集めて納品する、王都の常時オーダーを実践中。


 こんな初心者みたいなオーダーを受けるDランクの冒険者の私に王都近郊で危険な魔物もほとんどいないのに護衛についてきてくれるBランクの冒険者さんっていう凄い贅沢な構成でお送りしているわけだけども、そのうちの一人がまったく使い物にならないわけで。


「ヤンスさん。そんなこと言ってても、アズは気にしてないですよ」

「ヤンス……そうでヤンスかね……?」

「そうですよ。気にしてないからもう次にいったほうがいいですよ」

「……ャ、ャンスー……」

「シレ、それトドメだな」


 トドメ。

 そうトドメであってる。

 許すわけないでしょう!? 何をジンジャーさんは言っているのかとぎろっと睨むと、おっきな体のジンジャーさんが心なしか小さく見えた。


「……ぁー。もぅ……」


 事情を聞いてないからしっかり聞いたほうが二人のためになるんだろうなって思ったので、気晴らし含めてヤンスさんを誘ってオーダー受けたってのが正解なんだけどね。

 そうじゃなかったらヤンスさん放置してジンジャーさんと二人でオーダー受けてただろうし。


「で、実際のところどうなんですか、ヤンスさん」

「……セフィのことでヤンスか?」

「その呼び方がまず問題。聖女さんを愛称で呼ぶとか、明らかに怪しい関係ですよね」

「い、いや、違うぞシレ」

「ん? あれ? ジンジャーさんも知ってるんですか?」

「知ってるも何も、ヤンスから聞いたけど、俺も何がなんだかさっぱりなんだけどなぁ」

「???」


 ……あれ、もしかしてこれ……

 結構長い話になりそう?



 私はこの雑草にしか見えない草を集め終わるのが先なのか、それともヤンスさんの話が終わるのが先なのかとか思い出す。

 雑草が見つかるほうがきっと早いはず。

 終わるまでしか話聞かないようにしよう。さすがにそこまで興味はないかも。


 と少し薄情なことを思いながら、片手間にヤンスさんの話を聞くことにした。

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