130.異世界のソラさん(ソラ視点)


「なぁんか私、最近こっちによく来ちゃってるわねぇ」


 なんて思いながら、またもやぷしゅっとプルコックを開けてぐいっと一飲み。もちろん片手は腰に置くことは忘れてないわよ。

 ぷはーっとしゅわしゅわ感におっさんみたいな声を上げて、「これよこれっ!」と自動販売機をばんばんと叩いちゃって、ちょっと恥ずかしい思いをする。

 やっぱりこっちにきたらこの黒い炭酸よね。このしゅわっと感と甘ったるさ。……いいわぁ。でもあれよね、海外で売ってる黒い炭酸を飲んだらこの国の黒い炭酸って黒い炭酸と名乗ることが許されないくらいに美味しくないらしいって聞いたけど、本当なのかしら。


「……はっ。そうよ。だったらあの子らにお願いして飲ませてもらえばいいじゃない!」


 何という僥倖。

 今から行くところに無茶ぶりしにいくついでに、世界中の黒い炭酸も用意させて味比べしちゃおうなんて思った私は天才なんじゃなかろうか。



「何をですか」

「世界中の黒い炭酸を飲み干してみようって計画よ」

「……相変わらず、突飛なことを考える方ですね……」

「どうせメイド服着てるんでしょあんた。人前でメイド服着て平常心を保っていられるあんたよりゃましよ」

「……巫女装束姿で歩き回っている人に言われたくはありませんよ」


 待ち合わせのこの場所で、待ち人来たり。

 ぐいっと残りを飲んでゴミ箱にしっかり捨てると、声の主を見る。



 そこにいるのは、メイド。


 頭にはメイドの象徴ホワイトブリム。

 黒を基調としたエプロンドレス。

 その上に、フリルの着いた穢れを知らない純白のエプロンを纏う女性。


 真性の、洋風のクラシカルタイプのメイド姿の美女だ。



 そんな美女の胸元。

 まるで宝物かのように抱えられた生き物がいる。


 子供だ。

 二歳児ってくらいかしら。

 それくらいの女の子が、その美女に抱えられて眠っている。


「……誰の子」

「私の子ですよ」

「誰と誰の子」

「ですから。……私と、ご主人様の愛の結晶ですよ」


 フリーズする。

 その可愛さもさることながら、子供の親を聞いても。


「待って……待って待って! だって、あのブラコンでシスコンでロリコンで男もイケて人外もなんのそのなあの子と、あんたの子!?」

「ええ。それはもう。ブラコンでシスコンでロリコンで男もイケて人外もなんのそのな御主人様の子ですよ。ふふふ。一番乗りです。皆さんに愛でていただいておりますよ。可愛い可愛い私の子。愛人だからこそ、気兼ねなく」


 ええー……。ちょ~っと、スマホ直してもらって、近況聞こうとしたら、とんでもない近況を知らされたわ。

 あーでもあれよね。確かこの子の弟のお姉ちゃんも産んでたわね。もう歩いてやんちゃ盛りで大変って前に聞いたわ。そうよね、みんなそうやって成長していくのよねー……。


「以前、私のお腹に御主人様のお子様がいることは観測所ポートでお伝えしたかと思いますが。あの時私の可愛い可愛い弟と一緒に驚かれておりましたよ?」

「いーや、それ私じゃなくて、もう一人の『始天』のほうだわ……分かりにくいけど、わたしゃ、創造神と私で二人いたんよ。記憶は受け継いでるけど、そんな細かいところまでは覚えておらんのさー」


 ……なんだか、いない間に知り合いの周りが色々と変わっていくみたいで、しんみりしちゃったわ。


 後、愛人だからこそってのがいまいちわからないわね。

 確かに正妻と第二夫人がいて、さらに愛人を囲ってる子だったけど。まー、シレちゃんやハナちゃん関係の財閥のトップだったらそれくらいはあっても問題ないのかしら。……いや、問題よね。



「はー……まーいいわ。それより、ちょっとお願いがあるのよ」

「ご主人様なら旅行中ですよ」

「え。まさか猫っぽい娘ちゃんも一緒に出掛けちゃってる?」

「ええ。……ああ、確か、ノヴェルのほうに遊びに行ってますが」

「げ」


 フォールセティの隣の世界にいるとか、すれ違いじゃないのよそれっ!

 なによ、だったら異世界まで来なくてもよかったんじゃない。

 あー、ノヴェルのほうで機械ばっかの国があったわ。そこで部品作ってもらって猫っぽい娘ちゃんにアズちゃんのスマホを直してもらえばいいんじゃない。


 うーわー。戻るの面倒だわぁ。

 とかなんとか話していると、メイドに抱かれている子供がうるさそうに身じろぎした。


 ……なによその可愛い生き物。

 お母さんに必死にくっついて幸せそうしてる顔なんてたまんないわね。


「……ねぇ、その子、抱かせてもらっていい?」

「いいですよ。子供を作る気ないと言っていた貴方も母性に目覚めるくらいの可愛さでしょう」

「いや、まー。……これくらいの子供って、反則級よね」

「私の子が反則級に可愛いのですよ」

「そりゃどこの親だってそういうんさ」


 まー、そんなことを言いながら、すやすやと眠る子供を抱かせてもらいつつ。


 ミントちゃんにも知られて、王太子にもちょっかいかけられて、これからヤンスの正体とか知っちゃったりとか大変だろうけど、アズちゃん達、大丈夫かしら。

 ま、私がいたって何も変わらないだろうから、頑張ってもらうしかないわね。


 あーうーと、子供特有の柔らかい頬をぷにぷにしたりして満喫しつつ。

 ちょっとだけ寄り道してからスマホ直してもらいに、フォールセティの隣の世界、ノヴェルにいこっと。




———————

私の現在公開作品すべてに出ているといっても過言ではない、裏のメインヒロ――( ‘д‘⊂彡 ))Д´) パーン  もとい。とある女性とキツネさんのお話でした。


時系列でいうと、

現在カクヨムコンテスト9に参加中の


ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890238672


の、第二部後半辺りのお話になります。

↑のほうではまだ生まれる前の愛人さんのお話をほぼ同時期にやってました。

よかったらそちらにフォローやPV、お星さまでの応援をよろしくお願いいたしまするー☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る