117.彼女が思う本当のやらかしとはこういうものである(ソラ視点)
ヤンスが謎の皇族だってのはわかった。政治に関わらないってことだから、北の国ではその部族、または国の象徴みたいに扱われる皇族なのね。
まさかあの聖女ちゃん、皇族になりたいからとかそういう理由でヤンスに迫ってたのかしら。関係がわからないけど婚約者とか言ってたし。ヤンスも冒険者やってるくらいだから、逃げてきたって感じかしら。
「ヤンスも大変ね。逃げたら追いかけられたみたいな」
「逃げた、というより、ヤンス様は世間的に公にはされていないのです。本人も知らない可能性があります」
「あら、なんで?」
「伯爵の地位をもらって皇室から抜け領地経営をしていた親を事故で亡くし、その後、母方のヤンス侯爵家に引き取られヤンス家の次男として生きてこられていましたので」
皇室から抜けた。というより、スペアね。皇家になにかあったときに直系を外に逃がしておくことで断絶を免れようとした感じ。本家から分家になったけど、継承権はもたせてたってとこか。
「んー。ミントちゃんもシンボリックってつくんだから皇家よね?」
「教皇をしていますし継承権はありません。分家でも一部しか継承権はなかったので。その継承権を持った方々が次々に不慮の事故で……」
絶対、暗殺とかでしょそれ。
あー。……本家の生き残りがヤンスだけ。なるほど。確かにヤンスも知らないパターンねこれ。
ふと、そんなことを考えながらワナイ君を見たらちょっと怯えてた。あんたも暗殺されないように気をつけないとね。
「ヤンスが世間的に知られてたらヤンスも殺されてたかもなのね。……私とは事情が違うけど、そっちはそっちで、大変なのねー」
まー。本人が知らずに自由に冒険者とかしてたほうが安全だわね。
そんなことを思いながらコーヒーを口に含んで考えをリセットすると、
「キツネさん。もしかして、お困りになってるのは異世界がらみですか?」
ミントちゃんが、私に聞いてきた。
あー、うん。確かに。ぶらり創造神様に会いに行ったらカミングアウトされて困ってるのよね。
「あ、それ私も聞きたいな。何に困ってるのか、私に解決できるようなことがあるなら協力するよ、シテン殿」
「えー、ドーターに解決できることなのかしらね」
「そういう意気込みだと思ってもらえると嬉しいね」
……すぐに意見変えたわねこいつ。
まあ、いいけど。どうせ解決は無理だしね。私にも解決無理なんだから。
「フォールセティが下級神って話はしたわよね」
「下級神ってお聞きすると、少し心に来るものがありますが」
「下級神って言っても、それは神の中での話であって、あんた達人の表面上では最高神だって考えてもらえればいいわよ。そっから上の神は人に対してほぼ何もしてないし。で、私の創造神様は、フォールセティより遥かに上の神様だから、私のほうがフォールセティより偉いって話はしたことあったっけ?」
私は使徒。存在的には亜神。領土を持たない野良神様と言えばいいのかしらね。
例えばフォールセティの使徒だったとしたら、ミントちゃんみたいな教皇様が該当するのかしらね、そういう人を普通は使徒っていうんだけど、私の場合は、お偉い神様の使徒で私も神様の部類。だから正しくは、使徒じゃなくて神徒になるんでしょうね。
「神の最高位って誰か知ってる?」
「神々の中で……最高位……っ!?」
ミントちゃんの復唱に、誰もが言葉を発せずごくりと喉を鳴らした。
緊張しているようにも見えるんだけども、姿を現さない遥か天上の人が誰かって聞かれてるわけで、答えられなかったらまずい的なもので捉えてるかもしれないわね。ミントちゃんは神様に仕えてる身だからなおさらかもしれない。
私からしてみたらそこまで緊張しなくてもいいのに。って感じではあるんだけどもね。
「【祖なる者】って言うのよ。その下に二神。女神と男神が【祖なる者】から創られてて、それらが最高位の括りね」
「祖なる者……不思議な響きですね」
「神様ってほんとそんな感じで名前なんかないようなもんなのよ。フォールセティだって、あんたら人がそうやって祈ったからその名前を名乗ってるだけだったはずよ。【祖なる者】だって、二神がつけたんだし」
神の名がどうやってつけられたか。
世界創生における細かい部分は、世を生きる今の人たちにはまったく関係ない。歴史研究家とかが調べればいい話。
調べても出てこない話だから、ミントちゃん達からしたら凄い重要な話だけどどうでもいい話でもありそう。
だって、私が今してる話って、今いる世界を飛び越えて、塵芥の世界全ての創生の神の話しちゃってるから。
「この男神と女神が【祖なる者】に創られて、そこから子を産み神を増やしていって、そんで今に至るわけよ。あ。上級神の最上位、神々を統括しているのが【
「フォールセティ様より上位の、か、神が、多々いると?」
「この世界が一神教だからあまりピンとこないだろうけど。アズちゃんの世界を例にすると、あそこにはいろいろな神様いたわよ」
「そ、それは。どの神を崇めるのか、悩みそうだね……」
「全てに神が宿るって、八百万の神って信仰があるからよ。そんなん言ったら、例えばアズちゃんとこの世界にいる、私の知り合いの『シグマ』とか『大樹』ってネーム持ちの子等は、下級神で亜神の、『
「神様を、たおし……――たっ!?」
いや、ワナイ君もドーターも。
なにを驚いてるのよ。それを言ったら、ねぇ?
「シレちゃん、ハナちゃんの家関連の財閥トップ。マザコンファザコンでロリコンシスコンでメイド好きの同性もイケそうな『刻の護り手』って子は、神がいようが関係なく、特定の条件の世界を閉じて消すことだってできるわよ。その子にかかれば、フォールセティだってたちまち亜神よ」
「「「……………」」」
もう、驚きで声も出てないわ。
そりゃそうよ。神様側の話なんだから。フォールセティに上司がいて、その上司よりもさらに上に神がいて、その神がもっとも偉い神様よ、なんて言われてもわかるわけないわよね。
おまけに人の身で神倒したりとか、世界を消すことができるとか。
どんだけ勇者のどんだけ魔王よって話ね。
「話を戻すと。【祖なる者】はもう二神に任せてすべてに溶け込んだから、もういないわ。それこそ、さっき言った、神は全てに宿る、この思想の素ね」
「で、では。その男神と女神が最高神ということですか」
「そうね。とはいってもその二神からしたら、【祖なる者】を知っているから最高神ではないって思ってるんだけどもね」
更に混乱させてやろう、と、もういっそのことすべてぶちまけてやろうかしらと思って、どんどん話してみる。
知ったところで何かできるわけでもないけど、私の悩みってのが、ここらを理解してないと分からないからね。
「で、男神が【終わりの者】って名前。【祖なる者】が作ったすべてを滅ぼして、新たに【始まりの者】に一から創らせようとしている神様で全世界の敵ね」
「終わりの者……」
「で、女神。【始まりの者】って名前よ。創生自体を始めることが出来るから【始まりの者】。つまり私ね」
「「「「……は?」」」」
まさか。ね。
私が信じていた創造神様ってのが、実は私のガワだけのコピーで。私そのものがその【始まりの者】だったなんて、そんなの記憶封じ込められてたら知るわけないじゃないのよ。記憶なくす予定の私が記憶戻すために私が作ったのが、私の信じていた創造神だったとか、何のスパイラルよこれ。
おまけにアズちゃん達のいた世界で本来の力を五分割して封じ込めに使っちゃってて、私自身ほとんど力を失ってるとかさ。
そんなの、知らないわよまぢで。
もう……そういう、何というか、重要な話なんだけどすでに終わってる話とかを呼び起こされても困るのよね。この世界にまーったく関係ない話なんだから。
だから私は困ってるのよ。
まーったく関係ない話なのに、実は私めっちゃ偉かったとか。実はなんかとんでもない使命を帯びてたのに実はもう終わってましたとか。
私だけエンディング後の世界を生きてる、みたいな。
「で、それ聞いて。そんな私に、ああいうとこで頭下げてほしい?」
お面の下でにこやかに笑って見せると。
みんなが一斉にぶんぶんと顔を振って否定するのが面白くて。申し訳ないけど声出して笑っちゃったわ。
————————————————————
他作品のお話てんこ盛りです。
■ライセンス! ~裏世界で生きる少年は、今日も許可証をもって生きていく~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890238672
■刻旅行 ~世界を越えて家族探し~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887032434
まだの方がいらっしゃいましたらこちらもどうぞ☆
むしろ、本話のキツネさんの本当の正体が描かれている後半部分、そのうちごっそり消すかもしれません^^;
これが、私のやらかしですね(笑
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます