116.立食パーティの後の語らい(ソラ視点)


 縁もたけなわ。

 先程まで騒がしく、立食パーティしていたみんなは今はもういない。


 だって今は別の部屋だしね。

 王様が歓待するときに使う応接室でそろいもそろった私たちは、軽くお茶を飲みながら歓談中。

 教皇様ことミントちゃんがアズちゃん達の正体について、ワナイ君たちを糾弾するための場でもある。


「彼女たちが、神の愛し子様達でしたか」


 異世界からの転移者様をこの世界ではそう呼ぶ。

 だけども、教皇様が言うとまたちょ~っと違う意味にも聞こえてきそう。いや、別に他意はないのよ。ないんだけども、政治的な思惑が絡んでくる、みたいな……ね。


 応接室でのんびりしてるのは、私とミントちゃん、それと、ワナイ君と宰相さんとドーターの五人組。

 立食パーティは終わり、後日となったパーティに参加する人達も今は王都の邸宅へと戻っていった。


 というかね。なんかいきなりみんなしてばったばったと倒れてそれどころじゃなくなったのよ。

 アズちゃん達もぼーとしちゃうし。

 少し前までワナイ君達までぼーっとして、さっきやっと我にかえったところよ。


 というか、延期されたパーティって、すごいお偉い方が集まったパーティみたいだけど、何のパーティなのかしら。

 私なんのパーティか知らないし、誘われてないんだけど出なくてよかったのかしらねー。


 いやまあ……興味、ないんだけどね。

 今回みたいなこと起きかねないから、私は基本貴族さん達の大好きな晩餐会には参加しないことにしてるのさ。


「あんた達、明日に延期になった晩餐会、大変なんじゃないの?」

「そうだね。カース王太子とナッティが初の共同作業で計画した晩餐会だからね。そりゃあ、未来のモロニック王と王妃が主催なわけだから、来るよね」


 ちょっと嫌味ったらしくドーターが言う。

 私、聞いてないんだけども。王太子は別として、なっちゃんが主催したなら話は別よ。どうせバカ王太子は何もせずに遊び惚けて全部なっちゃんにやらせたんだろうしね。

 いくら私が貴族たちの晩餐会が嫌いだとしても、なっちゃんのためなら顔出すくらいはするわよ。


「なんで私に知らせてないの?」

「逆に知りたいのですが。シテン殿、ど~やったら、シテン殿に連絡がつきますかな?」

「喫茶店に連絡くれればいいじゃない」

「王国主催の招待状を持ってく人って、余からの招待状になるから、それなりの権限持って向かうわけだけど。前に騒がしくされるのは嫌いって言ってたのは誰だっけ」

「私ね。なるほど。つまりは、私への連絡手段がない、と」

「そうですな。喫茶店も盛大に吹き飛びましたな」


 そうねー。

 それなりに長いことやってた喫茶店だったけど、吹き飛ばしちゃったらもう閉店ね。

 そう言うと、ワナイ君が急に慌てだした。


「待って。待ってシテン殿。妻がコーヒー飲めなくなるのは困るのだけれど?」

「ん? あー、そういや最近コーヒーの差し入れしてなかったわね」

「シテン殿がこっち戻ってくるって聞いて、凄い楽しみにしてるんだけど。王妃主催の茶会でしか飲めないと評判のコーヒーなんだから、かな~り困るね」

「とは言われてもねー。お店なくなったのにコーヒー差し入れっておかしくない?」

「販売しなくてもいいけどルートはあるんでしょ?」

「あるわよ、異世界だからねルート」

「……キツネさん? もしかして、異世界、行き来できてます?」

「言ってなかったっけ?」


 しーんと、辺りに沈黙が訪れる。

 しばらくすると、「美味しいわけですね」とカタカタと震えるミントちゃんがカップをゆっくりと傾けて口に含む。

 あ、そういえば、今出てるお茶。確かにコーヒーね。私産かこれ。道理でよく飲みなれたもんだと思ったわ。


 まあ、お家をどうするかは置いといて。

 コーヒーくらいいくらでも仕入れてあげるわよって言ったらワナイ君がほっとした顔をした。

 なんか知らんけど、宰相さんもほっとしてるけど、なんでかしらね。



 ……あ。宰相さんとこの奥さんもコーヒー好きでよく王妃さんと飲んでるのね。

 なるほど。……中毒になってないわよね?



「キツネさん。それはそうと。皆様が隠していた勇者様達に一度ご挨拶をさせて頂きたいのですが」


 改めて、といった調子で。とはいっても、ぎろりとワナイ君達を一睨みしてからだけども、ミントちゃんが私に聞いてきた。

 そりゃまあ。フォールセティが招いた異世界人をフォールセティを崇める宗教の長が知らない、教えないってのは怒られるわね。


「あー、そういや、フォールセティから聞いたんだっけ。探してる?」


 フォールセティから気をつけろって言われてたんだったわ。

 まさかの教国トップといきなり会っちゃうもんだからすっかり忘れてたわ。


「いえ、私は、保護というか、何かあった時に全面的にバックアップするだけですよ。探してはいましたが、友好を深めることができれば、と」

「じゃあ、騒いでるのはあんた以下の信者?」

「神官長や神殿長のことですか? 騒いでいるというのはあまり聞いたことがないのですが……。キツネさん、私が政治的に愛し子を使おうと考えているとか疑われて?」

「中には聖女もいるからね」


 ついでにフォールセティから気を付けるように言われたからと伝えると、ミントちゃんは凄いがっかりした顔をして落ち込んだ。

 そりゃそうだわ。

 自分が崇拝している神様にあんたにゃ警戒しろと言われてましたなんて暴露されたらそりゃ凹むわね。


「ああ、でも。警戒しなきゃってのもわかる気がするね」

「シテン殿。喫茶店を爆破するきっかけというのは、確か……」


 ドーターと宰相さんが話しに参加してくる。


 爆破とは失礼な。

 ちょっと軽く撫でたら、お家は吹っ飛び城にも損害与えただけよ。


「ああ……聖女・セフィリア・ウル・シンボリックがキツネさんにご迷惑をおかけしたこと、深くお詫びを」

「シンボリックってつくからにゃあ、教国でもかなり上のほうよね」


 シンボリック教国。

 北の宗教国家。その一番偉いのが目の前のミントちゃんなのよね。

 更には、元聖女だから、フォールセティから交信・神託を受けてるからフォールセティに近いのよ。確かミントちゃんって歴代の聖女の中で一番フォールセティに近かったんじゃなかったかしら。

 ……まあ、気が合った、ってだけだろうけど。じゃなかったらミントちゃんがお転婆フォールセティなんて言わないわね。


「はい。私の親類に該当します」

「……あんた、もしかしたら、変なことに巻き込まれてるかもしれないわよ。あんたがというか、親族がね」

「それは……不安ですね。少し探りを入れさせてください」

「私はあんたが悪いことする子じゃないってことくらいわかってるから、気にしてないわよ」

「助かります、キツネさん」


 でも、あの聖女のおかげで、というのは言い方悪いけど、壊れちゃってるのよねぇ……。

 ああ、次のおうちどうしようかしら。そういや、王都の端のほうに一個小さなお家を持ってたわ。そこ使おうかしら。


「ああ、そうだ。あんた、ヤンスってあんたの親族?」

「ヤンス……っ。まさか、語尾にヤンスとつけられるヤンス様ですかっ?」

「そうでヤンスよ」

「どちらで!? あの方はどちらにっ!?」


 うお、なによ急に。

 いきなりミントちゃんが食いついてきたわ。


「アズちゃん達のそばにいるわよ」

「だ……だったら! すぐにでもお会いできませんかっ!」

「無理ね」

「な、なぜですかっ!?」

「ノびてるから」

「「「……」」」


 その一言でなんでそうなってるのかわかるみんなが凄いわ。


「いや、元をたどれば、あんたんとこの聖女よ。いきなり押しかけてきてヤンスの婚約者なんて言い出して」

「婚約者? なぜ急に」


 しらんわっ! こっちが聞きたいのよそれはっ。


「おかげでアズちゃんと仲拗れちゃってるわよ」

「おや。アサギリ令嬢はあの冒険者と恋仲なのかい?」

「違うわよ」


 これからよこれから。そうなるかもしれないってときに変な拗らせ方しちゃってるからどうしてくれるのって話よほんと。


「……なるほど。そうなると、ヤンス様にもしっかりと会って話を聞いたほうがいいかもしれませんね」

「……ヤンスって、何者でヤンス?」


 ただものではない。

 あの顔といい、ヤンスってるところといい。あれがそこらの庶民だったらこの世界はみんな平和かもしれないくらいにヤンスってるからねあれ。


「彼の名前は、ヤンス・ガ・ヴァルスデ・ヤンス」

「……まぢで」


 凄い名前ね。

 ヤンスってて滅んじゃってるわよ、ヤンス。


「実名は、ヤンス・トゥエル・ウル・シンボリック」

「……正統な王位継承者とか言わないわよね」

「……そうですが?」




 ……

 …………

 ……………………




「待って。教国って、宗教国家だから王族いないわよね?」

「皇家ならいますよ。政には参加しない象徴としての皇族です。先日現皇様が崩御し、ヤンス様は唯一の継承権を持った皇族になりました」



 ……アズちゃん。


 あんた、とんでもないもんに惚れちゃったわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る