114.やらかしたキツネさん 6(アズ視点)


 今は一部の貴族しかいなくなったその王の間。


「まあ、ともあれ、助かったわよ、ミントちゃん。それなりにうやむやにできたわ」

「私も、久しぶりにフォールセティ様のお声が聞けてうれしく思いますよ。……うやむやにはなっていないとは思いますよ?」


 本日行われるはずだった王室主催の大規模な晩餐会は、神の起こした奇跡によって後日行うこととなり、今は王派閥の貴族だけが残る小規模立食ディナーへと早変わり。

 そんな中、玉座でぶすっと機嫌の悪そうなキツネさんの元に来た教皇様は、本当に嬉しそうにキツネさんにお礼を言っている。


「あれ? あんた、もう聞こえなくなったの?」

「ええ、もう何年も前です。聖女としての役目を終えてからはもう……お転婆フォールセティ様のお声が聞こえなくて寂しいばかりです」

「お転婆……まー、そうねぇ……。慌てて王都全体に対して声かけちゃうんだから」

「やっぱり。あれは間違ってやっちゃったパターンですか」


 あれだけ、有力貴族の前で後光を放って神々しさでそれらを黙らせた教皇様が、口を隠しながらころころと表情を変えて笑う様を見ると、キツネさんと仲がいいんだなってわかる。

 フォールセティ神関連で何か過去にあったのかもしれないけど、それは私達が知ることはない話なんだろう。


 そう思うと、少しだけ置いて行かれている気がして寂しい気がした。

 それは、多分、この場の雰囲気がそうだからかもしれない。


「シテン殿、これからも変わらぬ忠誠を」


 そう言って優雅にキツネさんの前に跪いてキツネさんの手の甲に唇を落とす国の重鎮たち。


「シテン殿、私からも」

「いや、そういうのいらないからほんと」

「……なぜ私の時はだめなのかな!?」


 そう言って、手を取ろうとしたヴィラン王爵を遮って玉座から降りてくるキツネさん。


「みんなー、これからもモロニック王国とついでにワナイ君とかよろしくねー」


 なみなみと入ったワイングラスを持ち上げてにこやかにそういうキツネさん。

 それに合わせて、みんなが嬉しそうに持ち上げて乾杯する。

 ワナイ王の、「ついでじゃなくてメインでよろしく」というツッコミに誰もが笑って歓談が始まる。


 そんな、お偉い方々の中に、すっごい王様と距離の近いお偉い貴族様達の中に庶民的な私達が入って馴染めるはずもない。


「ユウゼン令嬢、今度私の領地に遊びに来ないか?」

「特産はどのようなものがあるのですか?」

「特産? 興味があるかい? なら、テラスで二人で話し合わないか?」


「ササラ令嬢。うちの長男がちょうど君ぐらいの歳でね。お似合いだと思うのだけれど、よかったら会ってみないか」

「あー……その、申し訳ございませんが、すでにおりまして……」

「おぉ。これは失礼っ。ササラ令嬢を手に入れるとはなんとも幸運な方だ」


 と、引っ切り無しに声をかけられてるシレさんとハナさんじゃないんだから。

 貴族でもないし、元々の世界でもこんなところに縁がない。何を話せばいいかもわからないし、私達、まだウェイトレス姿——メイド服だし。

 給仕と勘違いされ声かけられて慌てて謝られることが続くので端っこに避難。

 シレさんとハナさんは、私たちと同じ服装してるのに、なぜ間違われないんだろうと不思議で仕方ない


「アズ、知ってる?」

「なに、キッカ」

「今の私達、壁の花というらしい」

「……それ、とんでも可愛い令嬢さんがやったら絵になるけど、私達じゃ無理じゃない?」

「何を言う、アズは十分に可愛い」

「ありがと、キッカだって可愛いよ」

「そう、私は可愛い。だから壁の花でいい」


 キッカと二人で壁に寄りかかって、輪に入れない立食パーティを見ている。

 そんな風景と化した私達。

 場違いにも、程がある。


「アズさんもキッカさんも、もうちょっと話に加わりましょうよ」

「何話せばいいか分からないから遠慮します」

「こういうのに慣れとかないと、後々大変だよ?」


 ハナさんとシレさんが心配して、一緒に壁の花になってくれる。

 でも、ハナさんとシレさんがここに来たことでちらちらと私達を見る視線が増えた気がする。

 二人とも、美人さんだからね。


「……なにしてんの、あんた達」


 そこに更に今回の首謀者でもあるキツネさんも合流すれば注目の的以外の何者でもない。


「キツネさんって、凄い方だったんですね」

「凄いっていうか、まあ、偉いわよ」

「偉いレベルが違う。神」

「あー、神にも色々あるのよ?」

「亜神って言ってましたよね。どういった違いがあるんですか?」


 ハナさんが思い出したかのように亜神について質問した。


「ん? 変わらないわよ。世界とか持ってる神がその世界ではフォールセティみたいに創造神って言われてるだけで。領域とか、世界を持ち得ない下級神が亜神よ」

「……あまり、奉る神を下級神と言われると耳が痛いのですが?」


 教皇様までも来て、会話に参加すれば、もう、周りは興味津々な貴族様たちでわんさかだ。そりゃもう、聞きたそうな話だしね。


「もー、神様にだって階級みたいなもんあるんだからそこはいいっこなしよ。あんたらからしたらどれも偉い。それだけでしょ」


 キツネさんがちょいちょいと手招きしながら私達を中央へと連れて行く。移動して飲み物を受け取ると、あっという間に周りのテーブルなどが移動されて私達のグループを中心とした輪ができていた。


「それはそうですね。私は、この世界にどれだけ神がいようとも、フォールセティ様を崇めていくだけですから」

「安心なさい。神クラスというのならいるかもだけど、この世界にはそこらに転がってる感じに神はいないわよ。私くらいよ」

「シテン殿、念のため聞いておきたいんだけども」


 その輪に、ワナイ王が現れて私たちにグラスを傾けてきた。私たちは慌ててそのグラスにジュースの入ったグラスを近づけて乾杯すると、ワナイ王はくいっと真っ赤なワインを一飲みする。


 ……王様が気さくに乾杯してくるとか。ほんと、私達の立ち位置、どこなんだろう……。


「シテン殿、その神様の階級でいうと、シテン殿はどの辺りなのかな?」

「知ってどうすんのよ」

「いや、余としても、創造神より偉い神様というだけでも計り知れないのに、上には上がいると発言されればね。そこがシテン殿が困っているところ、なのだろう?」


 ワナイ王は片方の口角をあげて片目を茶目っぽく閉じる。渋めのおじさんがそういうことすると、うっと、なにかを貫かれそうで私の心臓に悪い。


「アズはカッコいいの全般的に弱い」


キッカ……。私は多分標準のはずだよ!?

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