112.やらかしたキツネさん 4(ソラ視点)

「黙れ伯爵。余は先ほども言ったであろう。余よりも偉い方の前で、なぜ余が玉座に座っていられようか」

「大公という聞きなれない爵位を持っているということはわかりました! しかしながら、それであれば王に従うべき存在でありましょう!」

「その大公という爵位を持った私が、大公という肩書こそ必要なく、王より偉いと、先ほどからそなた達の王が言っているそれを、お前は聞き逃しているのかしら? それとも聞いていても理解ができない?」


 私はこの国では大公という爵位をもっている。でもそれは、本来この国にはない爵位でもあり、周辺国にも存在していなかった爵位だから、分からないってことも理解できるわ。


「……は? 王より、偉い。そのようなことがあってたまるかっ! 王はこの国のもっとも尊きお方だからこそ王なのである! その玉座こそ、もっとも尊きお方が座るべき場所である!」

「そうであるから今ここに私が座っているのです。私が、王より偉い天爵であるからこそ。でしょう?」


 この世界はフォールセティが作った世界であるからこそ、私という存在が公に出てきてはならない。だけども、そのような存在を王達が知ったからには、そのままにしておくことはできない。だからこそできたのが、大公。公に大きくその存在を伝えることのできない、という意味での大公。

 公に大きく存在を伝えることができない、って意味だと知っているのは、私を王の上へ据えようとしている王達と側近の一部だけが知る隠語であって、爵位としては公爵を束ねるという意味をもっていたりもする。


 一癖も二癖もある最上位の爵位持ちたちを束ねるとか、そんなめんどいこと、しないけど。


 だって、この世界はこの世界の人達がなんとかしなきゃいけないんだから。伯爵が言う通り、王より偉いひとなんて、いちゃいけないのよ、ほんとは。


 この世界の創造神フォールセティより私って偉いんだから、比べちゃだめよね。だから、王様たちは困ったわけ。で、そんなお偉い私のためだけに作らせた大公以外の爵位。それが天爵。


 この国って面白いのよね。王様を決めるのも、選帝侯って四人の公爵に認められて王になることができるし。選ばれた王も、公爵や侯爵、宰相といった上級貴族の意見をしっかりと聞いてよりよい国へと変えていこうと尽力しているのを見たら、応援したくなっちゃうわ。あくまで中立だけどね。

 そんな国だから、柔軟な考えができるのよね。そうじゃなかったら、こんな私を、王が道を踏み外したときの、国の抑止力とするなんて考えつかないわよ。

 私という抑止力があるから、国々の王は自由にのびのびと自身の国の政策を行うことができる。間違えていれば私が抑止するから。私という存在を意識することで、止まることができるから。


 それは、この国だけでなく、周辺国すべてがそう。もちろん、モロニック王国と敵対しているインテンス帝国でもそう。

 もっとも、あそこが私に対してやらかしてくれて、仕返しにぼっこぼこにしちゃったのでできたものなんだけどね。


「て……天……爵?……な、なんなのだそれはっ。お、王よ……い、いや、私の声に賛同するこの場の皆様方っ! 王は、この女狐に騙されている! い、今ここであの女を殺さなければ、この国は終わる!」

「終わらぬよ」

「終わるはずがないですね」

「……へ?」


 気づけば、周辺国家のお偉い人が、階下にいた。

 その場にいたのは二人。と、その二人の従者が数人。


 僧侶のような、煌びやかな法衣に身を包む女性は、北のシンボリック教国の教皇——ミント・トゥール・ジル・シンボリック。

 その姿を見て、ワー君ががくりと膝を折って拝みだしたわ。そりゃそうよね。一番偉い人だもんね。信心深いワー君には天上の人だわね。

 フォールセティにもっとも近く、もっともフォールセティの声を聞いたことのある人だから。


 砂漠の民って感じの服装の、褐色の長身の男性は、南の砂漠地帯の君主——カッツバル・ガー・シラヌイ。

 南の公爵、トレード君を介して王国と南国【ヒノムラ】の良好な関係を築く二人は、顔を見合わせふふっと笑ってる。ああ、それいい絵ね、はかどるわぁ。


 東はドーターがいるからいいとして、流石に西のインテンス帝国は敵国としての扱いだから呼ばれていなかったのね。

 だけども、そのドーターを筆頭に、王を支持する貴族が集まり私の前に来ている。

 モロニック王を支持する勢力が一同に集まっているみたい。まるで私が旗頭みたいになっちゃってるけど、私はワナイ君の友達なだけで、支持してるわけではないんだけど、まあ、今の状況であればこれはこれでいっか。


 そんな異様で豪華な顔ぶれの集まりに、伯爵は口をぱくぱくと開閉して指差して固まる。


 ……指差すとか、私が許そうがお偉い人達が許さないわよほんと。どんだけ蛆湧いてるのよあんたは。


「——各国の王、または王に連なる者が、こうやって私の元に来る。それが証拠ではなくて?」

「な、なぜ……そ、そうかっ! だましているのだな!」


 王の間のど真ん中。あまりにも荒唐無稽なことを言い続けた伯爵の周りから人はどんどんと減っていく。

 でも、もう遅いのよね。


 この構図、意外とわかりやすいわ。

 新興貴族と王派閥。王をそこまで偉いと思ってないくせに、王様をよいしょーって持ち上げて笑いものにしている貴族たちと、王をしっかり支えて国を纏め上げている貴族たち。

 派閥がくっきりと分かれて見えて、この中で王国に害を与えそうな貴族ってのがよくわかってくる。

 今こうやって私と私の行動を見て、私の存在を知り、それでも私を認められない貴族って、固執した考えだったり、王を侮ってる貴族が多いのよ。


 ほら。宰相さんが伯爵の意見に追従していた貴族の顔を覚えてるわ。伯爵側から離れていった貴族も顔覚えられたんでしょうね。それに気づいて顔真っ青だわ。

 今の状況、大規模な炙り出しにも使われたんだろうなぁ。



「シテン様。皆様の前で、シテン様が何をしたのか、お話する機会を頂ければ、と」


 そんな中、教皇さんが私に発言の許可を得てきた。

 ふむ、よかろうよかろうと、私は話の続きを促す。


「皆様方には、この場を借りて、お話したいことがあります。本件、確かにシテン様は外壁を壊した。ですが、その時、皆様は奇跡を受けた、ということは理解できていますか?」


 ……あ。

 そういや、そんな話をしてたのに、すっかり忘れてたわ。

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